Outdoor

小さい自然を楽しむ家の中と庭が
ゆるやかにつながる住まい

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敷地からできる家のかたち

八王子市に設計事務所を構える建築家・戸田晃さんの自邸を訪ねた。自身で設計し住み続けて18年目だという建物は、すっかりまちの風景の一部といった空気をまとっていた。

住宅を設計することが多いという戸田さんは「家の中と庭などの外部との一体感をどうしたらうまくつくれるかをいつも模索しているんです。というのも、自邸を設計してから家と庭の関係についてすごく考えるようになりました」。

敷地は間口が7.5mに奥行きが25mという、まさに「うなぎの寝床」の形。2階建ての建物の玄関を入ると土間の通路がずっと奥まで続く。その通路がリビングスペース、中庭、和室をつないでいるのだ。「父の実家が牛小屋があるような代々続く農家の家だったんですけど、そこにあった土間の『家の中だけど外のよう』な不思議さとあの曖昧な空間。そんなイメージで土間のような通路をつくりました」。アトリエや寝室は2階。「光や風の通し方も含めて試行錯誤して10パターン以上プランを考えたんですけど、結局庭が中心にあるプランになりました。自分で実際設計してみて、京都の町家ってよくできているんだなって改めて感じましたね」。


リビングの建具と欄間は古い家で使っていたもの。キッチンは実用性重視で業務用の中古品を探してそろえた。
リビングの建具と欄間は古い家で使っていたもの。キッチンは実用性重視で業務用の中古品を探してそろえた。
2階ベランダからの見下ろしの庭。小さな箱庭のよう。
2階ベランダからの見下ろしの庭。小さな箱庭のよう。

戸田さんの広いアトリエはさまざまな本や模型に囲まれ秘密基地のよう。
戸田さんの広いアトリエはさまざまな本や模型に囲まれ秘密基地のよう。

古いものと光がつなぐ空間

今の土地は、テキスタイルデザイナーの奥様・優子さんの祖父母が住んでいた家があった場所。戸田邸にはその祖父母の家で使っていた建具や欄間などを使った。「極端に言えばこの建具にあわせて家を設計したようなものです」。RC造のコンクリートと古い建具、枯山水の庭が絶妙にマッチしている。「とにかく家を明るくしようと、なるべく大きな開口を取りたかったので1階はRC造にしました。木造ではたくさんの筋交いが必要なので大きく取れないんですね」。その上に木造の2階部分がのっているという構造だ。通路と各部屋は壁ではなく、ガラスの窓や建具で仕切られているので見通しがよく、どこからも庭が望めて明るい。また、天井からの光も階下まで落とすため、階段は吹き抜けにし2階廊下の床には網状のエキスパンドメタルを使用した。「空間もゆるくつながっている感じを目指しました。扉を閉めれば仕切れて、開ければ空間が一体になる。なるべく庭を近くに感じられるようにしたかったんです」。


玄関からの見通し。全体に光がまわっていて明るく開放感がある。
玄関からの見通し。全体に光がまわっていて明るく開放感がある。
家具や照明も以前から使っていたアンティークのもの。
家具や照明も以前から使っていたアンティークのもの。


2階通路の床は光を通すよう、一部エキスパンドメタルを使用。
2階通路の床は光を通すよう、一部エキスパンドメタルを使用。
一番奥は洗面と浴室、右手はベランダにつながっている。
一番奥は洗面と浴室、右手はベランダにつながっている。


部屋と庭を近づける工夫

「最近、苔に凝っているんです。庭の木は里山にあるような野趣あふれる形のものを選んで植えました。京都の庭園などを見て研究し、枯山水をつくりました。自分なりの風景をつくり続けているんです」。そう話す戸田さん。庭仕事がとても好きだそう。「庭仕事のしやすさも、部屋と庭の地面の段差をなるべく少なくしているので、物理的にも精神的にも庭に出やすいことが原因だと思います」。部屋と地面の段差はおよそ12cmくらいだという。「部屋の床に座ると地べたに座っているような感覚になります」。そのほか、窓の枠を埋め込んだり、部屋内からサッシが見えないよう床から一段落としたりと工夫している。細かい工夫の積み重ねで、部屋からはほぼ透明のガラスだけを通して外が見えるので、まるで外にいるかのような感覚になる。


リビングから通路を見る。建具を開け放てば庭も含めてひとつの空間に。
リビングから通路を見る。建具を開け放てば庭も含めてひとつの空間に。
通路にある手洗い。階段には優子さんの友人の作家による麻の織物が巻かれている。
通路にある手洗い。階段には優子さんの友人の作家による麻の織物が巻かれている。
枯山水越しに奥の和室を見る。
枯山水越しに奥の和室を見る。


自然界を垣間見られる庭

「庭は自然や外部との関わりの入り口」。そう話す戸田さん。「庭に置いてある鳥の巣箱には季節によって鳥が巣をつくりにくる。毎年それを観察したりできるんです。こんな小さな庭ですが、自然界の縮小版みたいで。今は蛙がいて卵を産んでいます。野鳥は13種類くらいきますね」。

家を建てるとき、庭はどうしても建物の後回しになることが多いが、少しでも最初の段階で外部のことを考えておくことは大事だという戸田さん。「庭はやっぱり長く住み続けていく上での楽しみのひとつになります。もし植えたい木があったとしてもどこにでも植えられるものではないんです。だから最初に計画しておいたほうがいいと思います」。庭に面した通路ではバーベキューを楽しむこともしばしばだという戸田さん。「雨の日もすごく気分がいいんです。むしろ外に出たくなる。庭は季節によって全然違う表情を見せてくれますね。敷地が狭いからと諦めることはないですよね。小さくてもやり方によってはつくることができる」。折々の風景が彩りを添える住まいだった。


離れとしての和室は、夏の寝室にもなる。小上がりの和室は腰掛けるのにもちょうどよい。左手の井戸は昔からあったもの。
離れとしての和室は、夏の寝室にもなる。小上がりの和室は腰掛けるのにもちょうどよい。左手の井戸は昔からあったもの。