Architecture
回遊できる空間づくりで 家も遊び場
帰るのが楽しみになる家
都心から離れる暮らしを選んで
群馬県で暮らすSさん一家を訪ねた。元々東京で暮らしていたが、上のお子さんが3歳になるのを機に、このまま東京で暮らすのか夫婦の実家がある群馬県に戻るのかを考え、戻ることを選び現在7年が経った。Sさんのご主人はデザインの仕事をしていたが、群馬に戻るのを機に実家の家業でもあった農業も始めたという。「この家は昨年の年末にできました。それまでは親戚の敷地にあるぼろぼろの空き家に住んでいました。それで家を建てようと。仕事もせっかくこっちに住むんだったら農業をやってみようと思って、デザインの仕事もしつつ、最初は両親の手伝いから始めました」。仕事も今では農業がメインになりつつある生活だという。
そうして家を建てるにあたって、設計は東京時代から旧知の仲で建築事務所を営む佐々木郁さんにお願いした。
空間の一体感を出す工夫
玄関から数段の階段を上がると大きな開口と2階まで吹き抜けている高い天井の大空間が目に飛び込んでくる。柱や壁で仕切るのではなく階段で各スペースをつなげている、まるでアスレチックのような構造だ。というのも、Sさんのこんな要望があったのだ。「ただ寝るだけ、とかでなく楽しい家がいいなって思っていて。子どもたちがここで過ごす時間を、大人になったときに何かわくわくして楽しかったな、と思い出してもらえるような家にしたいと思いました。それでなるべく壁で仕切らないような家にしてほしいとお願いしました」。
そんな要望を受けて設計をした佐々木さんは「この柱のない大空間をつくるために構造設計士の杉本将基さんに新しい方法を考えてもらったんです。8メートルの空間を柱なしで持たせるというのは木造のレベルを超えているのですが、天井と屋根の絶妙なバランスの構造設計によって太い梁を使わない軽やかな空間が実現できました。もちろん大工の技も必要です。あとは空間の一体感が出るように、中2階的な書斎スペースとリビングの高さをどれだけ近づけられるか、ということもすごく考えました」。
家族みんなで遊べる家
そうしてできあがった家では「手すりや階段も最初は子供が落ちそうで危ないとかいろいろ言われたのですが、自分たちで危険をわかるみたいで案外大丈夫だし、動き回るとアスレチックみたいで気に入っているみたいです。二人ともいつも駆け回っていますよ」と、奥さん。
ご主人と奥さんは中2階の書斎スペースで仕事をすることが多いという。「ここで仕事をしていると下の様子が見えたり声が聞こえるので家族がどこで何をしているのかが自然とわかるのがいいです。もう少し大きくなったらここに並んで勉強してくれるかな」。娘さんたち二人は目いっぱい走り回り、踊り歌いながら楽しそうに家を遊びこなしている。まだ暮らし始めて1年にも満たないが、「女の子だけどすごくおてんばなのでちょうどいいです。朝はリビングでみんなでラジオ体操したりとか、みんなで何かが一緒にできるっていうのがいいですね。家に帰るのが楽しみだなって思える家にしたかったので、それは叶えられていると思います」と、すでに大満足そうなSさん一家だった。