傾斜地に立ち上げた快適空間大磯の海を遠くに望む巣箱のような家

傾斜地に立ち上げた快適空間大磯の海を遠くに望む
巣箱のような家

大磯から歩いて10分ほどの傾斜地にアトリエ兼住宅を構えて10カ月ほど。建築家の猿田さんは「静かなところで創作活動をしたい、アトリエを構えたいという意識が非常に強くなって」この地に家を建てることを決めたという。

「海のないところで育ったので、海が見えるところが良かった」という猿田さん。大磯で安めの物件が出ていたので見にきたところそこから見える景色に惚れ込んでしまったという。「こんな崖地だったんですが、木も立派なのがまっすぐ立っていて」。近くに山があり自然に囲まれた環境であったことも購入を決めた大きな要因だった。


右端の開口から遠くに大磯の海を望むことができる。その隣の開口はコーナーまでガラスが回り開放感をさらにアップさせている。開口は立った時と座った時の目線のレベルを考慮してデザイン。ベストの眺望を得られるのはソファの真ん中あたりに座った時という。

右端の開口から遠くに大磯の海を望むことができる。その隣の開口はコーナーまでガラスが回り開放感をさらにアップさせている。開口は立った時と座った時の目線のレベルを考慮してデザイン。ベストの眺望を得られるのはソファの真ん中あたりに座った時という。


傾斜地に巣箱の家を建てる

傾斜地に建てるということには、斜面の下側には視界を遮るものが建たないメリットがあるが、当然平地に建てるよりも工事の難度が増す。しかもこの敷地では想定していたよりもさらに難度の高い工事となったという。

構造的にも平地で建てるよりもさらに慎重な設計が必要となるため、傾斜地での計画を多く手掛けている構造家と協働で設計をすることに。構造家からはいろいろなアイデアが出されたが、猿田さんがこだわったのは、家の前にある大きな木にぶら下がる“木の巣箱のような家”を実現することだった。

そこで構造家とのやり取りの結果採用したのが、家型をした事務所と寝室・水回りからなる棟から、もうひとつの、家型をした4×13mのLDKの部分が空中を張り出すという案だった。こうすることによって、隣家に遮られることなく海までの眺望を得られることになった。


冬にはこの暖炉に灯る炎を見ていると心が休まるという。

冬にはこの暖炉に灯る炎を見ていると心が休まるという。
 

コーナー部分のアールのデザイン。このちょっとした仕掛けでも空気感が変わる。

コーナー部分のアールのデザイン。このちょっとした仕掛けでも空気感が変わる。

海側に設けられたテラス。手すりの高さは水平線と重ならないように低めにデザイン。

海側に設けられたテラス。手すりの高さは水平線と重ならないように低めにデザイン。

色は多めだがうまくまとめられている。鳥が休む階段は、壁を抜くとアトリエ部分とつなげることができる。

色は多めだがうまくまとめられている。鳥が休む階段は、壁を抜くとアトリエ部分とつなげることができる。


風景のトリミング

道路からアプローチすると、右にアトリエへと至る階段、そして左に猿田邸の玄関があるが、猿田邸の玄関から中に進むとダイニングキッチン、さらにその先にリビングがある。そして、このリビングの南側の開口から何ものにも遮られることなく視線は一気に大磯の海へと抜けていく。この場で得られる爽快感、開放感は格別だ。

視線を左に移してキッチン部分の開口から外を望むと近くに緑を豊かに湛えた山が見える。このスペースでは猿田さんが望んだ海と山の両方の眺めが得られるわけだが、開口のデザインに際しては、良い眺望が得られるよう風景をどのようにトリミングするかに神経を使ったという。


料理中に振り向くと隣の山の緑が目に入る。家型そのままの天井部分がフラット天井では味わえない空気感をつくり出している。

料理中に振り向くと隣の山の緑が目に入る。家型そのままの天井部分がフラット天井では味わえない空気感をつくり出している。


色と質感、そして光の状態にもこだわった

猿田さんがこのスペースでこだわったのは、このほかに色と質感。白を基調に、茶、黒、薄紫と建築家の設計した空間にしては比較的色数が多めだが、キッチン部分やソファの後ろの壁や階段部分は、モルタルを塗った材に水性塗料を含浸させさらにその上に防水のクリアをのせて仕上げたという。「コストを安めに抑えつつ、タイルや石を使わないで質感を出せないかということで考えたやり方です」

LDKから階段で下に降りた地下部分には、寝室や浴室などの水回りが配されている。大きな開口に囲まれて明るい上階とは対照的に、張り出した上階部分を大きな庇がわりにして光量がだいぶ抑えられたこの空間には心地の良い静けさが漂っている。

こちらも壁を杉板型枠を使った仕上げにするなど質感にはこだわったが、もうひとつの大きな特徴となっているのがその下側にアールの付いた階段だ。量感のあるフォルムがくっきりとした陰翳を室内につくり出すとともに、この空間に柔らかさをもたらしている。


地下に設けられた浴室も大きな開口に面して気持ち良く入浴できる。

地下に設けられた浴室も大きな開口に面して気持ち良く入浴できる。

左の棟から4mほど張り出したLDK部分。まさしく巣箱のイメージ。

左の棟から4mほど張り出したLDK部分。まさしく巣箱のイメージ。


寝室部分から階段と左に浴室入口を見る。このスペースも開口は大きめだが張り出した部分が前面にあるため上階よりも光はやさしめ。軒先の深い伝統的な日本家屋の奥にある部屋のイメージという。時間により陰翳の状態が徐々に変化していく。

寝室部分から階段と左に浴室入口を見る。このスペースも開口は大きめだが張り出した部分が前面にあるため上階よりも光はやさしめ。軒先の深い伝統的な日本家屋の奥にある部屋のイメージという。時間により陰翳の状態が徐々に変化していく。


竣工してからまだ季節は一巡していないが、奥さんは季節感がよく伝わる家だという。「秋の夕暮時の空がとてもきれいで。向かいの山はそんなに紅葉する山ではないんですが、ちょうど西日が直接当たって赤く染まるんですね。あと冬の雪景色も素敵ですが、晴れた日に海が目の前にパーッと見える日はやはりすごく気持ちがいいですね」

昨年は多忙で、奥さんが感動したこの美しい秋の光景を体験していないという猿田さん。今年は自らデザインしたフレームを通してじっくりと味わおうと心に決めているにちがいない。


巣箱のように宙に浮いたLDK部分。

巣箱のように宙に浮いたLDK部分。

左に猿田邸の玄関、階段を上って右側がアトリエの入口。

左に猿田邸の玄関、階段を上って右側がアトリエの入口。


左がLDKスペースの納まる棟、右が手前に車庫、その奥にアトリエ、その階下に寝室などが収まる。

左がLDKスペースの納まる棟、右が手前に車庫、その奥にアトリエ、その階下に寝室などが収まる。

下の道路からLDKスペースを見上げる。

下の道路からLDKスペースを見上げる。

白でまとめられたアトリエスペース。

白でまとめられたアトリエスペース。


猿田邸
設計 CUBO design architect
所在地 神奈川県大磯町
構造 RC造+木造+鉄骨造
規模 地上1階、地下1階
延床面積 146.88 m2