Architecture
モデルルームも兼ねた30坪の家陰影のある、静かな
大人の空間で暮らす
この家に住みたい
「自分のライフスタイルにちょうどいいプランで、2階はワンルームで生活して下は事務所にも使えるというものでした。それで建てようかなと」
こう話すのは工務店を営む黒羽さん。ある集まりで知り合った建築家の若原さんがデザインした規格化住宅のプロトタイプのプランが気に入って設計を依頼したのだという。「若原さんの家をいくつも見ていてどういう空間になるのかは想像ができたので、“この家に住みたい”と思いました」
モデルルームも兼ねる
黒羽邸のプランはこのプロトタイプをベースにつくられ、1・2階がそれぞれ約15坪の延床30坪ほどの広さのものに落ち着いた。モデルルームの機能ももたせたいと考えた黒羽さんは「ローコスト」かつ「シンプルであまりつくり込まない」をこの家のコンセプトとした。
さらに、黒羽さんが仕事でよく使っている空調システムを採用。1階に設置したエアコンの暖気を床下のダクトを通して部屋全体を暖めるというものだ。また、床に北海道のナラ材、2階の中心近くに立つ柱をヒノキ材にするなど黒羽さんの希望によって材が選択された。
奥行きと場所をつくる
黒羽邸の空間には考え抜かれたプロポーションとともに空間の明るさ/暗さにも特徴がある。一般的な住宅よりも明るさを抑えた空間の中に開口からの光で場所/領域をつくっているのだ。こうして空間に明るさのメリハリをつくり出すことで奥行き感も生まれている。
場所の明るさの違いも意図的につくり出されている。たとえば2階のダイニング近くには大きめの開口によって比較的広範囲に明るさが確保されているのに比べて、リビングのスペースは近くの開口も小さくやや暗めの印象。畳スペースの近くには畳面と同じレベルにつくられた小窓とトップライトがあるが、このスペースもダイニングよりやや暗めに明るさが抑えられている。
トップライトが直接照らす壁面には、斜めに射す光が印象的なものになるように周囲と同じ白い漆喰ではなく木を採用した。壁面自体で陰影と奥行き感を出すために凹凸に張られているが、さらに粗い仕上げ感も出そうと間柱用のスギ材が使われた。この壁面が、セパレートして移動できる畳とともに空間を特徴づける要素となっている。
街とつながる
1階の事務所スペースはお施主さんとの打ち合わせのほか、この地域で協力関係にある工務店などともに行っている子どもたちを対象とした大工教室やお祭りなどのイベントのための会合などにも使用している。
事務所スペースの隣に設けた和室の部分は最初のプランではなかったものという。「事務所だった部分をゲストルームに使える畳の部屋にしてもらったんですが、打ち合わせ中にお客さんのお子さんたちが遊ぶスペースになったりしていてこれはつくって良かったなと思っています」
この1階にもモデルルーム的な機能をもたせている。コンセプトは「50~60代ぐらいの人たちが家にいながら地域に開いていく場所」。それぞれの家に街とつながる場所をつくることでまた違った暮らしの楽しみようをつくってほしいという思いから、玄関側の開口はそこからも気軽に入っていけるようなつくりにしている。
大人の空間
引っ越しをされてから2年ほど経つ黒羽邸。黒羽さんは温熱環境が良くすごく快適に過ごせているという。夫妻ともにいることが多いのはダイニングスペースで、とても居心地が良く、また家具作家の傍島さんデザインによる家具も気に入っているという。
「ちょっと薄暗い印象はありますが、それが“とても心地良い”というのを住んでみて実感しています」。こう黒羽さんが話す2階のワンルームはとても落ち着いて静かな空気感が特徴的だ。シンプルながら考え抜かれたプロポーションと相まって「大人の空間」の雰囲気が漂っているのである。