Architecture

モデルルームも兼ねた30坪の家陰影のある、静かな
大人の空間で暮らす

190513head

この家に住みたい

「自分のライフスタイルにちょうどいいプランで、2階はワンルームで生活して下は事務所にも使えるというものでした。それで建てようかなと」

こう話すのは工務店を営む黒羽さん。ある集まりで知り合った建築家の若原さんがデザインした規格化住宅のプロトタイプのプランが気に入って設計を依頼したのだという。「若原さんの家をいくつも見ていてどういう空間になるのかは想像ができたので、“この家に住みたい”と思いました」


黒羽さんはワンルームでシンプルな空間が好みという。考え抜かれたプロポーションによってつくられた2階スペースには静かで落ち着いた雰囲気が漂う。白い漆喰の壁・天井は鏝で粗く仕上げているため、表面自体に細かな陰影がある。
黒羽さんはワンルームでシンプルな空間が好みという。考え抜かれたプロポーションによってつくられた2階スペースには静かで落ち着いた雰囲気が漂う。白い漆喰の壁・天井は鏝で粗く仕上げているため、表面自体に細かな陰影がある。


モデルルームも兼ねる

黒羽邸のプランはこのプロトタイプをベースにつくられ、1・2階がそれぞれ約15坪の延床30坪ほどの広さのものに落ち着いた。モデルルームの機能ももたせたいと考えた黒羽さんは「ローコスト」かつ「シンプルであまりつくり込まない」をこの家のコンセプトとした。

さらに、黒羽さんが仕事でよく使っている空調システムを採用。1階に設置したエアコンの暖気を床下のダクトを通して部屋全体を暖めるというものだ。また、床に北海道のナラ材、2階の中心近くに立つ柱をヒノキ材にするなど黒羽さんの希望によって材が選択された。


開口の開け方をコントロールして生まれた陰影が空間に奥行きをもたらす。右の畳スペースはセパレートして移動することもできる。上部のスチール材は横に開こうとする登り梁を留めるためのもの。
開口の開け方をコントロールして生まれた陰影が空間に奥行きをもたらす。右の畳スペースはセパレートして移動することもできる。上部のスチール材は横に開こうとする登り梁を留めるためのもの。
たっぷり幅を取ったキッチン。パーティなどの際には料理を盛ったお皿を並べセルフサービスで取ってもらうことも。
たっぷり幅を取ったキッチン。パーティなどの際には料理を盛ったお皿を並べセルフサービスで取ってもらうことも。
障子を閉めると空間に柔らかな光が回って和の雰囲気が強まる。
障子を閉めると空間に柔らかな光が回って和の雰囲気が強まる。
傍島浩美さんデザインによる家具がシンプルで落ち着きのある空間にとてもフィットしている。
傍島浩美さんデザインによる家具がシンプルで落ち着きのある空間にとてもフィットしている。


奥行きと場所をつくる

黒羽邸の空間には考え抜かれたプロポーションとともに空間の明るさ/暗さにも特徴がある。一般的な住宅よりも明るさを抑えた空間の中に開口からの光で場所/領域をつくっているのだ。こうして空間に明るさのメリハリをつくり出すことで奥行き感も生まれている。

場所の明るさの違いも意図的につくり出されている。たとえば2階のダイニング近くには大きめの開口によって比較的広範囲に明るさが確保されているのに比べて、リビングのスペースは近くの開口も小さくやや暗めの印象。畳スペースの近くには畳面と同じレベルにつくられた小窓とトップライトがあるが、このスペースもダイニングよりやや暗めに明るさが抑えられている。

トップライトが直接照らす壁面には、斜めに射す光が印象的なものになるように周囲と同じ白い漆喰ではなく木を採用した。壁面自体で陰影と奥行き感を出すために凹凸に張られているが、さらに粗い仕上げ感も出そうと間柱用のスギ材が使われた。この壁面が、セパレートして移動できる畳とともに空間を特徴づける要素となっている。


ダイニング横の障子を開けると付近がかなり明るめの空間となる。
ダイニング横の障子を開けると付近がかなり明るめの空間となる。
通常は間柱に使われる材でつくられた正面の壁はトップライトからの光で多様な表情を見せる。設計側からの提案のものよりも大きなものに変更してもらったというストーブは工務店業で出た廃材を薪に使う。
通常は間柱に使われる材でつくられた正面の壁はトップライトからの光で多様な表情を見せる。設計側からの提案のものよりも大きなものに変更してもらったというストーブは工務店業で出た廃材を薪に使う。


街とつながる

1階の事務所スペースはお施主さんとの打ち合わせのほか、この地域で協力関係にある工務店などともに行っている子どもたちを対象とした大工教室やお祭りなどのイベントのための会合などにも使用している。

事務所スペースの隣に設けた和室の部分は最初のプランではなかったものという。「事務所だった部分をゲストルームに使える畳の部屋にしてもらったんですが、打ち合わせ中にお客さんのお子さんたちが遊ぶスペースになったりしていてこれはつくって良かったなと思っています」

この1階にもモデルルーム的な機能をもたせている。コンセプトは「50~60代ぐらいの人たちが家にいながら地域に開いていく場所」。それぞれの家に街とつながる場所をつくることでまた違った暮らしの楽しみようをつくってほしいという思いから、玄関側の開口はそこからも気軽に入っていけるようなつくりにしている。


和室側から見る。奥の左手が玄関。玄関ホールと事務所スペースは引き戸によって仕切ることができる。
和室側から見る。奥の左手が玄関。玄関ホールと事務所スペースは引き戸によって仕切ることができる。
左が事務所スペースで右が玄関。
左が事務所スペースで右が玄関。
事務所スペースから玄関側の開口を見る。
事務所スペースから玄関側の開口を見る。


玄関ホールから奥の和室を見る。空間を縁どるフレームが奥の開口へとむけて連なる。
玄関ホールから奥の和室を見る。空間を縁どるフレームが奥の開口へとむけて連なる。
和室から事務所スペースを通して玄関ホールを見る。
和室から事務所スペースを通して玄関ホールを見る。
和室から灯籠の置かれた庭を見る。
和室から灯籠の置かれた庭を見る。


大人の空間

引っ越しをされてから2年ほど経つ黒羽邸。黒羽さんは温熱環境が良くすごく快適に過ごせているという。夫妻ともにいることが多いのはダイニングスペースで、とても居心地が良く、また家具作家の傍島さんデザインによる家具も気に入っているという。

「ちょっと薄暗い印象はありますが、それが“とても心地良い”というのを住んでみて実感しています」。こう黒羽さんが話す2階のワンルームはとても落ち着いて静かな空気感が特徴的だ。シンプルながら考え抜かれたプロポーションと相まって「大人の空間」の雰囲気が漂っているのである。


ダイニングスペースは夫妻ともにお気に入りの場所。
ダイニングスペースは夫妻ともにお気に入りの場所。
平側1階の左が玄関、右が事務所スペースの開口。手前の黒いカバーが掛けられているのは黒羽さんの愛車「Lotus E〇〇〇〇」 。
平側1階の左が玄関、右が事務所スペースの開口。手前の黒いカバーが掛けられているのは黒羽さんの愛車「Lotus Elise」。
モデルハウスという要素もあったため、お客さんの記憶に残りやすい家形の屋根が採用された。
モデルハウスという要素もあったため、お客さんの記憶に残りやすい家形の屋根が採用された。
黒羽邸
設計 若原アトリエ
所在地 神奈川県横浜市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 106.82m2