Architecture
“すのこ状”にして光を届ける 地域とつながる土間空間
想像が膨らむ“余白”のある家
ショップのような佇まい
センスの良い個性的な飲食店や雑貨店が並ぶ東京・杉並区の商店街。歩いているだけで楽しくなる商店街を抜けた路地裏に、Tさん夫妻は家を建てた。通りに面して大きく開け放つことができるガラス戸を採用した開放的なエントランスは、一見するとお店のような佇まいである。
「商店街の端に位置するため、お店と間違える人がいたら面白いかなと思って(笑)。建築中にも“何屋さんができるんですか?”と近所の人たちに訊かれ、密かに楽しんでいました」(夫)。
地域の人々とのつながりを求め、「お祭りのときなど、集いの場にもなるようなオープンな造りにしたかった」というご夫妻。1階は、屋外からフラットに続く土間にし、マルチに使用できるスペースとした。気軽に腰掛けられるベンチを設置し、来客時にはコミュニケーションスペース、テーブルを広げてワークスペース、4歳になる娘さんの遊び場としてなど広く活用。使い勝手の良い、居心地の良い空間が生まれた。
光と風を取り込む工夫
「最初はマンションのリノベーションを考えていたのですが、だんだん小さくてもいいから自分たちの好きなように建てた戸建てを持ちたいと思うようになったんです」。
お2人の職場への利便性を考えて土地を探し、2、3か月後に運よく出会ったのがこの物件だった。設計は、「インスタグラムで見た家の素材感や全体の雰囲気が気に入った」(夫)というミハデザインに依頼した。
「隣家が近いものの2階より上は開けてくるという地域の特徴があるので、上からの光をできるだけ階下に落とすことを考えました」と話すのは、ミハデザインの光本直人さん。
生活の中心である2階のLDKを吹き抜けにし、一部にすのこ天井を設置。また、階段の一部ともなっているベンチと3階に向かう階段もすのこ状にし、3階の窓から入る陽光を壁に沿ってそのまま1階に届けるように工夫した。風の抜けもよく、効率の良い通気を促している。
“余白”を残して変化を楽しむ
「住みながら手を加えていきたい」と、造り込みすぎず、シンプルな構成を希望したご夫妻。キッチンもオープンな造りにし、フレキシブルに対応できるようにした。
「雑貨が好きで、好きなものを並べて収納したかったので、“見せる収納”にチャレンジしています」(妻)。
好みのテイストでまとめられたキッチンの棚からは、センスと使い勝手の良さを感じ、料理を楽しんでいる様子がうかがえる。
この家で暮らし始めて10か月。
「壁に大きな絵を飾ることも考えていますが、まだ勇気がなくて(笑)。まずは、取り外しが簡単な“吊るす”インテリアから楽しんでいます」(夫)。
すのこ状の天井が好都合で、ハンギングプランターなど気軽に吊るすことができた。「もっとグリーンをワシャワシャと増やしたい」と話す。
「1階スペースの使い方やインテリアなど、あれもできる、これもできると考えているのが楽しいですね」と妻。「将来、娘が1階でレモネードスタンドを開いているかも」と夫も笑う。
想像を膨らますことができる楽しさと、ライフスタイルの変化にも柔軟に対応できる可能性を秘めた住まいとなった。
T邸
設計 ミハデザイン
所在地 東京都杉並区
構造 木造
規模 地上3階
延床面積 82.61㎡