日々、深みを増していく家ハードボイルドに、荒々しく。

日々、深みを増していく家ハードボイルドに、
荒々しく。

洗練よりも荒々しさ

建築家の作品を雑誌や作品集で眺めるのが昔から好きだったという三島さん。この家を建てる際には、しかし、建築家の設計した住宅によく見られる洗練された雰囲気ではなく、荒々しさを求めたという。

「ちょっと屈折しているのかもしれませんが、ウッディで暖かい雰囲気や、真っ白でツルツルピカピカしたものよりは、荒々しくて、自分たちと一緒に歳を取って深みを増していくような家が理想でしたね」


3階LDK空間。キッチンからバルコニー側を見ると、本棚部分以外はほぼ無彩色の世界。ソファはこの家のために建築家がデザインしたオリジナル。切り詰められたデザインが空間にとてもフィットしている。

3階LDK空間。キッチンからバルコニー側を見ると、本棚部分以外はほぼ無彩色の世界。ソファはこの家のために建築家がデザインしたオリジナル。切り詰められたデザインが空間にとてもフィットしている。

深夜に1人でこのソファで映画を観るのが好きという三島さん。危機を乗り越えてめでたくハッピーエンドを迎えるような映画よりは淡々と続くロードムービーのようなものが好みだという。中でも好き作家はヴェンダースとジャームッシュ。

深夜に1人でこのソファで映画を観るのが好きという三島さん。危機を乗り越えてめでたくハッピーエンドを迎えるような映画よりは淡々と続くロードムービーのようなものが好みだという。中でも好き作家はヴェンダースとジャームッシュ。


殺し屋の隠れ家のような…

建築家の芦沢啓治さんとの打ち合わせでは、三島さんが理想とするこの「荒々しさ」を伝えるために、「殺し屋の隠れ家みたいな」という表現も使われた。この意表を突くような言い回しでイメージしていたのは、松田優作主演の映画『蘇る金狼』やTVの「太陽にほえろ」シリーズなどの作品群にある空気感のようなものだったという。

躯体の鉄骨が剥き出しのまま使われた空間の荒々しく武骨な空気感はハードボイルド風とも言え、実際、「殺し屋の隠れ家」という表現もあまり違和感がない。


3階のバルコニー。開口の上部には日差しを弱めるルーバーが取り付けられている。

3階のバルコニー。開口の上部には日差しを弱めるルーバーが取り付けられている。

キッチンの上は、ロフト空間。

キッチンの上は、ロフト空間。

オーク材を3本組み合わせた脚部に厚さ20㎜のアクリルを載せたテーブル。

オーク材を3本組み合わせた脚部に厚さ20㎜のアクリルを載せたテーブル。

ロフト階から3階を見下ろす。無彩色が引き締まった空気感をつくり出す。

ロフト階から3階を見下ろす。無彩色が引き締まった空気感をつくり出す。


この「殺し屋の隠れ家」、3階のLDK空間に限るならば、家具も必要最低限のものだけに限られて生活感も希薄、「家」というより、「倉庫」のような感触を持つ人も多いだろう。

住宅では珍しいほどに大きな開口は、外部にルーバーが設けられてはいるものの、カーテンなど太陽光を遮るものは一切ない。その開口に接した一方の壁が、凸凹状の鋼板が剥き出しのまま、角度を途中で変えながら天井までそのまま続くほぼ無彩色この空間は、その「荒々しさ」が倉庫のような「素っ気なさ」と通じ合う。


手前のテーブルは、スチールのみでつくられたオリジナル。シンプルなブラックのフォルムが空間を引き締める。このテーブルと、ソファ、照明、手すりは、空間の一体感をつくり出すために、同じディテールやサイズを反復させている。

手前のテーブルは、スチールのみでつくられたオリジナル。シンプルなブラックのフォルムが空間を引き締める。このテーブルと、ソファ、照明、手すりは、空間の一体感をつくり出すために、同じディテールやサイズを反復させている。

シンプルな椅子は、ネットで海外から購入した中古品。

シンプルな椅子は、ネットで海外から購入した中古品。

梁上のアッパーライトもこの家のためのオリジナル。

梁上のアッパーライトもこの家のためのオリジナル。

照明器具も建築家によるオリジナル。

照明器具も建築家によるオリジナル。

本棚を貫く斜めのワイヤーは上から吊られている。

本棚を貫く斜めのワイヤーは上から吊られている。


年月を経ても新しく

ハードボイルド風の質感とともに、経年変化によって空間の深みが増すことも望んだ三島さんにとって、年を重ねるごとに空間がいい味を醸し出す一方で、デザインが決して古びず新鮮さを失わないというのもポイントだった。

その点、三島さんと3人の建築家/家具デザイナーの作品との出会いも無視できない。

そのうちの1人は、シェルチェアなどの家具でファンの多いイームズ。2人目は、パリの「ガラスの家」をデザインしたピエール・シャロー。最後の1人は、新丸ビルのコンセプトデザインを担当したマイケル・ホプキンス。いずれも、「鉄骨の剥き出しの感じにあこがれていた」という三島さんに、芦沢さんが参考にと教えてくれたデザイナーだ。

この3人の自邸はどれも三島邸と同じ鉄骨造で、「時が経っても古びることのない」デザインが特徴。このうち、ホプキンス自邸は鉄骨部分に塗られた青色を三島さんが気に入って、三島邸の壁のブレース(筋交い)に採用。また、ホプキンス自邸の壁・天井に使用された鋼板は三島邸でも同様なものを見ることができる。


2階南東側。3階とは異なり、漆喰壁にフローリングとしたのは奥さんのリクエスト。

2階南東側。3階とは異なり、漆喰壁にフローリングとしたのは奥さんのリクエスト。

洗面スペースを通して、2階のバルコニー方向を見る。

洗面スペースを通して、2階のバルコニー方向を見る。

2階浴室空間。床以外は無彩色だ。

2階浴室空間。床以外は無彩色だ。


「殺し屋の隠れ家のような」「深みを増していく家」「新鮮さを失わないデザイン」…こうした表現から、自分の家にしかない景色を求めていった三島さん、実現された空間には大いに満足しているという。

「こういうような造りで断熱材をあえて入れなかったりしているので、“夏がもうちょっと涼しければ”とか多少はありますが、空間的としての満足度で言うと、100パーセント満たされたと思っています」

この「殺し屋の隠れ家」が新鮮さを失わず、これからどのように深みを増していくのか、興味深いところだ。


ブレースの青色はマイケル・ホプキンスの自邸から引用。

ブレースの青色はマイケル・ホプキンスの自邸から引用。

鋼板をそのまま現しとした壁・天井にはモノとしての迫力がある。

鋼板を仕上げとしてそのまま見せた壁・天井にはモノとしての迫力がある。

厚さ3.2㎜の鉄板を折り曲げてつくられた階段。

厚さ3.2㎜の鉄板を折り曲げてつくられた階段。

1階から3階まで続く直進階段。こちら側の壁は、青いブレースがずっと続く。

1階から3階まで続く直進階段。こちら側の壁は、青いブレースがずっと続く。


三島邸
三島邸
設計  芦沢啓治建築設計事務所
所在地 東京都文京区
構造 鉄骨造
規模 地上3階
延床面積 108.34 m2