Architecture
借景を活かした北向きの家 経年変化を味わいながら暮らす
木の香りのする優しい空間
公園の緑を借景にした北向きリビング
川沿いの緑豊かな公園に面した敷地に家を構えた林さん夫妻。3歳になる娘さんの誕生を機に、手狭になったアパート暮らしから引っ越しを決意。土地探しから、一級建築士事務所のアオイデザインに依頼した。
「最初はマンションのリノベーションも視野に入れ、雑誌などをチェックしていました。その中でもアオイデザインさんが手掛けた、シンプルで品があり、長く住んでも飽きの来ない住宅に惹かれ、コンタクトを取りました」(ご主人)。
出会った土地は、ご主人の職場から徒歩10分の好立地。「会社から近い場所がいいとは思っていましたが、ここまで近いとはラッキーでした」と笑う。
「緑を感じながら暮らしたかった」と話すのは奥さま。公園の緑を活かしつつ、生活のしやすさを考慮して、1階リビングを希望した。川沿いで開放感のある北側に大きな窓を設け、そこから広めのデッキテラスが続く。
「テラスにはカブトムシやクワガタ、カエルまで現れるので、子どもが喜びます」と目を細めるご夫妻。自然に囲まれた生活を満喫している。
木製建具は建具職人の父親が作製
「視界の広がる北側とは対照的に、ほかの3方は隣家と密接しています。そのため、個室や水回りは東西に、階段は南側に配し、中央のリビングには南側のハイサイド窓から光を取り込みながら、北側の公園に向けて開くプランを提案しました」とはアオイデザインさん。
リビングは2層の高さをもつ大きな吹き抜け空間。吹き抜けを介して1階のリビングを見下ろすように2階のデスクスペースを設けた。南側のハイサイド窓に向けて折り上げた天井の視覚効果も手伝い、1階のリビングから南側の空までつながる開放感が心地いい。
「冬場は、南側から入る光が吹き抜けを介してデッキテラスの塀まで届きます」とご主人。季節や時間による光の移ろいが楽しめる。
また、経年変化が楽しめる、木をふんだんに使用した空間も林邸の特徴。米栂を使用した天井やフローリング、美しい木製の建具が印象的である。実は、随所に施された木製の建具は、建具職人の奥さまのお父様が作製したもの。リビングの框戸や2階の引き戸もすべて特注で、お父様が手掛けた。
「色や材料、デザインを父と相談しながら作ってもらいました。ちょっと贅沢ですが、ありがたかったですね」と奥さま。
お父様の熟練の技と心のこもった木製建具が、ぬくもりのある上質な空間づくりに一役買っている。
既製品を利用してコストダウン
共働きの林さん夫妻にとって、効率よく家事ができることも家づくりのテーマのひとつであった。
「日中は仕事でいないため、室内干しができるサンルーム的な場所が欲しいとリクエストしました」(奥さま)。
2階のバスルームの横に洗濯機を置き、その隣に室内干しスペースを確保。南側の大きな開口からたっぷりの日差しが入るようにした。隣接するデスクスペースは洗濯物を畳むときにも便利。脱ぐ⇒洗う⇒干す⇒畳むの洗濯動線をコンパクトにまとめた。
また、生活感の出やすいキッチンは独立型を希望。リビングから死角の位置には収納力を優先して『IKEA』のハイキャビネットを採用した。リビングから見えるシステムキッチンの扉だけを木製扉に変更。既製品を上手に利用しながらコストダウンを考えた。
住み始めて9か月。
「ずっと探していたリビングのセンターテーブルも入り、やっと家具が揃って落ち着いた感じです。次は、リビングの白い壁に絵や布を飾りたいと考えているところです」(ご主人)。
心に響いたものだけをひとつずつ加えながら、家とともに経年変化を味わう、そんな丁寧な暮らし方を楽しんでいかれることだろう。
林邸
設計 アオイデザイン/aoydesign
所在地 東京都八王子市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 105㎡