Architecture

木を多用したモダンデザインの家 明るく自然な室内で
ゆったりと暮らす

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抜け感のある敷地

小田急線の駅から徒歩で20分ほどの住宅地に建つS邸。道路よりも一段高い敷地に建つ建物は、白いボリュームがいくつも組み合わさった外観が閑静な住宅地でひときわ目を引く。

東急線沿線で探していたSさんが「絶対気に入りますから」と不動産屋に案内されたのがこの土地だった。「抜け感がある」というのが売り文句の土地は、その言葉通りに敷地前の道路と直交する道路がそのまままっすぐと延びて、その正面には森のように木々の茂る場所があるという恵まれた立地だった。

「このような感じで開けている土地は少ないですね」と語るSさん。設計は、デザインのテイストが気に入ったアトリエスピノザに依頼した。「サイトで作品を観させていただいて、明るい感じがしたのと自然な感じが気に入ってお願いしました」


道路よりも一段高くなった敷地に建つS邸。白い外観は部分的に突き出たボリュームの構成が特徴的だ。
道路よりも一段高くなった敷地に建つS邸。白い外観は部分的に突き出たボリュームの構成が特徴的だ。

スピノザの市原さんは「よくこの敷地を選んでくださった」と立地の良さを強調する。そして、敷地の抜け感を建物でどう活かすかという点に設計の重点を置きつつ、Sさんと奥さんの要望を実現していくことになる。

Sさんからのメインの要望は「リビングとダイニング、キッチンを広くゆったりとしたものにしてほしい」「浴室を南側につくり、できれば露天風呂風にしてほしい」というもの。そして、奥さんからは「大きめのウォークインクローゼットがほしい」との要望が出された。


2階のダイニングの東側の壁は隣家があって閉じているため、東側からの光はルーフテラスに面して開けられた開口から採り入れる。
2階のダイニングの東側の壁は隣家があって閉じているため、東側からの光はルーフテラスに面して開けられた開口から採り入れる。

道路側から見る。手前からリビングとダイニング。左手奥にキッチンがある。
道路側から見る。手前からリビングとダイニング。奥にキッチンがある。

木を多用した室内

モダンテイストを基調とした建物は時に無機質でクールな印象を与えることがあるが、S邸の室内からはそのような印象はまったく受けない。自然でゆったりとくつろげるのである。それはシンプルな四角い箱とは異質な変化のある空間構成で多様な場を用意するとともに、木が多用されていることが大きいだろう。

スピノザの井東さんは、S夫妻の以前の住まいやSさんが同年代であることなどを手がかりにして白い壁と木のバランスを考えていったという。Sさんからは木の材質についての要望が出された。

「パインなど木目の目立つものは落ち着かないと思い、自然な感じの木で肌触りがいいもの、そして色が明るめのほうがいいということでナラ材でお願いしますとお伝えしました」。こうして設計依頼時のポイントとなった「明るくて自然な感じ」が実現されていった。


奥さんからの要望で階段部分に開口がつくられた。奥行きが深くつくられたフレームの上部には間接照明が仕込まれている。
奥さんからの要望で階段部分に開口がつくられた。奥行きが深くつくられたフレームの上部には間接照明が仕込まれている。
斜線制限により勾配天井になっているキッチン部分。登り梁の構造をそのまま見せている。
斜線制限により勾配天井になっているキッチン部分。登り梁の構造をそのまま見せている。


リビング部分とは異なり、ぐっと高さを抑えた天井によって落ち着き感のあるダイニング部分。
リビング部分とは異なり、ぐっと高さを抑えた天井によって落ち着き感のあるダイニング部分。
キッチンとともに構造要素である梁をそのまま見せ、空間の大きなアクセントとしている。壁や床などにはSさんの希望で「明るくて自然な感じ」のナラ材が使われている。
キッチンとともに構造要素である梁をそのまま見せ、空間の大きなアクセントとしている。壁や床などにはSさんの希望で「明るくて自然な感じ」のナラ材が使われている。
夫妻がゆったりとくつろげるというリビングのソファ。
夫妻がゆったりとくつろげるというリビングのソファ。
2階の床は一部ガラスが張られている。奥に見える緑へと到る軸線を意識してデザインされたものだ。
2階の床は一部ガラスが張られている。奥に見える緑へと到る軸線を意識してデザインされたものだ。


テラスは外からの視線をカットできるように壁が立ちあげられている。奥の左手にベンチがつくられている。
テラスは外からの視線をカットできるように壁が立ちあげられている。奥の左手にベンチがつくられている。
テラスに置かれたベンチ近くから建物を見る。
テラスに置かれたベンチ近くから建物を見る。


大きなポイントとなった浴室の扱い

Sさんのもうひとつのメインの要望であった浴室については、「露天風呂風の南側の浴室」のほかに、「天井に木を張る」「浴室の外にデッキとベンチを置き、樹木を植える」といった要望を井東さんと市原さんのお2人に伝えたという。
実はS邸の設計において、この浴室の扱いは大きなポイントとなった。敷地は道路よりも一段高くなっている部分がL字形になっている。L字の道路側へと突き出た部分を浴室にすることで、それ以外の部分での余裕のあるプラニングが可能になったのだ。
そしてその上につくったテラスの一部に壁を立ち上げることで外からの目隠しとし、正面の豊かな緑までの視界を周囲の視線に気兼ねなく確保することが可能になった。


玄関を上がって右に折れると突き当りに開口があり、外へと視線が抜ける。さらに右に折れると浴室がある。
玄関を上がって右に折れると突き当りに開口があり、外へと視線が抜ける。さらに右に折れると浴室がある。
浴室の天井は木。外部にはSさんの要望だったデッキが張られ、さらに樹木も植えられた。
浴室の天井は木。外部にはSさんの要望だったデッキが張られ、樹木も植えられた。


1階の寝室。天井に木を張ることでゆったりと落ち着ける雰囲気に。左手の扉を開けると奥さんが希望したウォークインクローゼットがある。
1階の寝室。天井に木を張ることでゆったりと落ち着ける雰囲気に。左手の扉を開けると奥さんが希望したウォークインクローゼットがある。

1人でこもるのにちょうどいいサイズの4畳半の和室。窓際は掘りごたつのようになっており、畳の縁の部分に座って読書をすることもできる。
1人でこもるのにちょうどいいサイズの4畳半の和室。窓際は掘りごたつのようになっており、畳の縁の部分に座って読書をすることもできる。

こうしてできたS邸の2階はほぼLDKのみで構成されている。ルーフテラスをつくってその真下のダイニングの天井を低く抑え、かつ平面的にも変化のある構成だ。東西南北の各所に開口を設け、十分すぎる光を確保。さらに、外からの視線をコントロールしながら十分な視線の抜けも確保し、気持ちの良い開放感もつくり出している。

お2人ともにいちばん長くいるのはリビングというが、その先につくられたテラスもお気に入りで、奥さんはヨガマットを敷いて横になり、読書をすることも。
Sさんはやはり念願の浴室がお気に入りだ。「窓を開けっぱなしにして足を伸ばして入っていると最高に気持ちがいい」という。

目の前の道路で立ち止まって眺めている人を見かけることがあるというS邸。たしかに、その白くシャープなデザインの外観は周囲では珍しい佇まいで人目を引くが、室内が「明るく自然な感じ」でこれほどまでにゆったりとして過ごしやすい空間となっていることを想像できる人は少ないのではないだろうか。


白い壁と木のバランスが良く、「明るく自然な感じ」でまとめられた室内。
白い壁と木のバランスが良く、「明るく自然な感じ」でまとめられた室内。
右の道路側に突き出た部分の奥側が浴室で、その上にテラスがつくられている。2階左側の開口からは視線が遠くまで抜ける。
右の道路側に突き出た部分の奥側が浴室で、その上にテラスがつくられている。2階左側の開口からは視線が遠くまで抜ける。
S邸
設計 アトリエスピノザ
所在地 神奈川県川崎市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 107.55m2