DIY
創作と暮らしの場を自分の手で母屋は明治の古民家を移築、
工房はセルフビルド
「地元の材木屋に『明治時代の建物を解体することになったのだけれど、移築してみないか?』と声をかけられたんです」と義則さん。
古い日本家屋を移築するにあたってまず考えたのは、暗い室内をいかに明るくするかだったそう。
「壁や天井を白く塗り、天窓を開け、玄関をガラス戸にしました。天窓からの光が部屋の奥まで差し込む明るい住まいになりました」
古民家の改造のアイディアは義則さんが提案し、地元の大工さんと二人三脚で作り上げたそう。かなり苦労を重ねたという、釘を使わずにクサビを打って作った螺旋状の階段と、その階段を使って登る2階部分はすべて義則さんの手作り。
「ここに越す前は同じ益子町の茅葺き屋根の家に住んでいて、そこもとても気に入っていたのですが、子どもの小学校まで遠かったのでここに引っ越しました。けれど、通っていた学校が廃校になってしまって、結局スクールバスで通うことになってしまったのですが」と奥様の好美さんは笑う。
「ここで煮炊きはしていませんが、炭を入れてお湯を沸かし、お茶をいただいています。お菓子やお茶を載せるテーブル代わりのお膳を便利に使っています」と好美さん。
年季の入った梁の美しさを引き立たせる白い漆喰の壁は、地元の職人さんが塗ったもの。
「化学的な接着剤を使った材料は使いたくなかったので、天然の糊の原料、角叉(つのまた)を使って塗ってもらいました」と義則さん。
「角叉の漆喰を塗れるベテランの職人さんが現役でいらしたのでできたことでした。でもあまりに久しぶりに角叉を使ったので、最初は配合の分量を思い出せないようでした(笑)」と好美さん。
工房はすべてセルフビルドで。
工房の建物をセルフビルドで建ててしまったという驚きの大工仕事の腕前を持つ義則さん。セルフビルドに関する造詣が深く、『セルフビルド〜家をつくる自由』という本の著者でもある。
「旅が好きで、チベット、シッキム、中南米と、たくさんの場所に旅に出かけ、旅先での新しいものとの出会いが創作の意欲になっていました。今は新しい空間を自分の手で作り、環境を変えることが創作の刺激になっているのかもしれません」
現在は、いちばん下のお子さんのための子ども部屋と、薪小屋を兼ねた門の増築を計画中とか。ちなみに最新作は犬小屋。母屋に薪ストーブの導入計画もあるけれど、梁を避けながらどこに設置するのがいいか、日々頭を悩ませているそうだ。
「馬をつなぐための厩梁はもっと低い位置にあったのですが、頭をぶつけない高さまで上げました」
キッチンの棚には可愛いデザインのオーブンがズラリと並んでいる。ガス台に直接乗せて使う、現在は製造中止になっている日本製のガスオーブンなのだそうだ。
「レトロなデザインと機能に愛着が湧いてしまって、ネットで探して買っています。デッドストックの状態で手に入れたものは、もったいなくてまだ一度も火にかけて使ってません」
ヴィンテージのル・クルーゼの鍋も集めているそう。
「1958年のレイモンド・ローウィーのデザインのものが気に入っています」と義則さん。
「ピーマン型のル・クルーゼは玄米がおいしく焚けるんです。これに玄米を入れてお友達のおうちに持っていくと、中はシチューじゃないのねってちょっとガッカリされます」と笑う好美さん。
「前の家が平屋だったので、子どもたちから2階を作ってほしいという熱いリクエストを受けたんです」
矢津田家の広々とした1階部分に対して、子ども部屋は秘密基地のようなあえて小さな作り。
「ハシゴを登って天井の低いベッドにもぐりこむのが、子どもたちは大好きなようです」
母屋の外には広々としたデッキが広がる。
「外と中をゆるやかにつなぐデッキは我家にはなくてはならないものです。家を眺めのいい方向に建てると西向きになってしまうので、家は南向きに建て、眺望はデッキで楽しむことにしました」
「この家の好きなところは、大木の中に暮らしているような気分になれるところです。床に寝っ転がって上を見るとほんとうに気持ちいいんです」と好美さん。
大木が枝葉を伸ばすように家は少しずつ変化し、周囲の環境も変わって行く。そんな中で作陶を続ける矢津田さん。環境と作品、矢津田さんはその両方をこの場所で創造し続けている。