DIY

カフェのような家旅とコーヒーをテーマに
自らつくりあげる空間

カフェのような家 旅とコーヒーをテーマに 自らつくりあげる空間

カフェのような家

東京都世田谷区。グルメやショッピングに人気の二子玉川駅の近くながら、周囲には自然も多く残る閑静な住宅街。昨年7月、Sさん夫妻はこの地に家を建てた。

「土足でどうぞ」と言っていただき足を踏み入れると、そこにはまるでカフェのような広々とした空間。大きな対面式キッチンをL字に囲むようにテーブルや椅子が並び、その座席数は20席ほどもある。「営業はしていません。個人宅です(笑)。前々から私たちは、家を建てるならカフェのような家にしたいと思っていたんです」とご夫妻は話す。

お二人が家を建てるにあたって出した要望は、「1階をすべてカフェスペースにする」「珈琲豆の焙煎機を置く」と、一風変わっていた。「建築家との打ち合わせは『焙煎機って何ですか?』という質問から始まりました。こういう家は設計したことがなかったそうですが、打ち合せを重ねて希望を伝えました」。

この家に住んでいるのはご夫妻と3人のお子さん、そして愛猫のスーちゃんだ。「1階は大胆にカフェスペースとキッチンのみとしましたが、2階に水回り、寝室、リビングを集約。広々としたロフトもつくってもらい、家族の居住スペースはしっかりと確保しました」。


1階では土足で過ごす。入口に置かれた足拭きマットはコーヒーの麻袋。
1階では土足で過ごす。入口に置かれた足拭きマットはコーヒーの麻袋。
道路に面した大きな掃き出し窓を出入口として利用。
道路に面した大きな掃き出し窓を出入口として利用。



窓辺には「もし営業していたら」の店名と猫のオブジェ。「UN SOU」はフランス語で「一匹のスー」の意味。「飼い猫の名前からつけました」。
窓辺には「もし営業していたら」の店名と猫のオブジェ。「UN SOU」とはフランス語で「一匹のスー」の意味。「飼い猫の名前からつけました」。

グラスやピッチャーが綺麗に並び、すぐにでもカフェとして営業できそう。
グラスやピッチャーが綺麗に並び、すぐにでもカフェとして営業できそう。
生後三カ月の娘さんは、真新しい家に無邪気な笑い声を響かせていた。
生後三カ月の娘さんは、真新しい家に無邪気な笑い声を響かせていた。



2階のリビング。夜は奥のカーテンを閉め、夫妻の寝室としている。テレビ前のテーブルはDIYでつくったもの。
2階のリビング。夜は奥のカーテンを閉め、夫妻の寝室としている。テレビ前のテーブルはDIYでつくったもの。

2階には天窓を設け、自然光をふんだんに取り入れた。
2階には天窓を設け、自然光をふんだんに取り入れた。
カフェスペースの天井には小鳥をディスプレイ。「鳥のさえずりをBGMで流すこともあります」。
カフェスペースの天井には小鳥をディスプレイ。「鳥のさえずりをBGMで流すこともあります」。


DIYで思い通りに仕上げる

Sさん夫妻はお二人とも、書籍や雑誌の編集・ライターというクリエイティブな仕事をしている。「元々ものづくりが大好きなたちなんです。家は一生に一回の買い物なので、プロに任せきりにせず、自分たちでつくってみたいなあという想いがありました」。そんなお二人は、引き渡し時の内装の仕上がりをあえて6割程度にしてもらい、残りの4割は自らの手で仕上げることにした。「床板と壁だけはつくってもらって、そこに手を加えていったという感じです」。

休みの日を利用して、古材をつかった棚、焙煎機の周りのタイル貼り、黒板塗料の壁などをつくりあげていったというお二人。さらには、カフェテーブルを自作したり、床や窓枠に塗料を塗って好みの色に仕上げたりと、隅々にまで手間をかけた。既製品にはない味や個性が発揮された空間は、住み手のホスピタリティが感じられ、なんとも居心地が良い。「この家を建ててから10カ月弱。ようやく形になってきました。自分の思い通りに家を仕上げていく作業は、いいストレス発散にもなりました」。


カウンター席の上の壁は下地のままで引き渡してもらい、磁石塗料と黒板塗料を重ね塗り。メニューボードとして使えるようにした。
カウンター席の上の壁は下地のままで引き渡してもらい、磁石塗料と黒板塗料を重ね塗り。メニューボードとして使えるようにした。
ソファー席の前のテーブルはDIYでつくった。DIYはすべて独学で、材料はホームセンターや玉川高島屋の「tukuriba」で購入しているそう。
ソファー席の前のテーブルはDIYでつくった。DIYはすべて独学で、材料はホームセンターや玉川高島屋の「tukuriba」で購入しているそう。


カフェスペースの一角に置かれた業務用の珈琲豆焙煎機。周りに貼ったレンガ調のタイルが空間に楽しげなリズムを与えている。「タイルはホームセンターで買って来て、4時間くらいかけて貼りました」。
カフェスペースの一角に置かれた業務用の珈琲豆焙煎機。周りに貼ったレンガ調のタイルが空間に楽しげなリズムを与えている。「タイルはホームセンターで買って来て、4時間くらいかけて貼りました」。

カフェスペースの床材は、工事現場などで使う足場板の古材を取り寄せたもの。色味を濃くするため、自分たちで塗料を塗り重ねた。
カフェスペースの床材は、工事現場などで使う足場板の古材を取り寄せたもの。色味を濃くするため、自分たちで塗料を塗り重ねた。
五反田のアンティークショップで買ったランプシェード。Sさんがさっと巻いた黄色のビニールテープがいいアクセントになっている。
五反田のアンティークショップで買ったランプシェード。Sさんがさっと巻いた黄色のビニールテープがいいアクセントになっている。



色とりどりの花を楽しめる花壇もDIYで手づくり。
色とりどりの花を楽しめる花壇もDIYで手づくり。

旅とコーヒー

ご夫妻が決めたこの家のテーマは「旅とコーヒー」。その理由を訊ねると、「仕事の関係で世界各地を旅しているんです。旅先で出会った小物たちをカフェスペースのあちこちに散りばめて、異国に想いを馳せながらコーヒーを楽しめる、そんな空間をつくりたかったんです」という答えが返ってきた。

コーヒー好きのご夫妻は、この家を建てたことを機にカフェスペースにプロ仕様の大きな焙煎機を置き、文字通りの自家焙煎まで始めてしまった。「焙煎したいと思った動機はシンプル。自分の好みにぴったりのコーヒーができるかなと思ったんです。本を読んだり、人気店の豆を買って来て参考にしたりと、目下試行錯誤中です」。今は自分たちで飲む分だけを焙煎しているお二人だが「いつか納得のいく味ができたら世に出すのもいいかな」と楽しそうに話す。実はすでに知り合いのイラストレーターさんに頼んでオリジナルのパッケージまでつくっているというから、Sさんブランドのコーヒーが世に出るのは、そう遠い未来ではないかもしれない。


モンゴルからやってきた、フェルトのやぎ。
モンゴルからやってきた、フェルトのやぎ。
 
洗面所にちょこんと鎮座するモアイ像はイースター島のお土産。
洗面所にちょこんと鎮座するモアイ像はイースター島のお土産。
テーブルの上にさりげなく置かれていたのは、ガラパゴス諸島からやってきたゾウガメ。
テーブルの上にさりげなく置かれていたのは、ガラパゴス諸島からやってきたゾウガメ。
子どものときから料理が好きだったというSさんは「このキッチンで料理をしているとカフェのマスター気分を味わえるんです」と笑う。
子どものときから料理が好きだったというSさんは「このキッチンで料理をしているとカフェのマスター気分を味わえるんです」と笑う。
バルセロナからきた牛の小物入れは、ガウディ建築をモチーフにしたもの。
バルセロナからきた牛の小物入れは、ガウディ建築をモチーフにしたもの。
モロッコからやってきた、らくだのぬいぐるみ。
モロッコからやってきた、らくだのぬいぐるみ。
パリからやってきた犬の置き物。
パリからやってきた犬の置き物。
 
コーヒーカップは、日本の作家ものや世界各地のものを取り揃えているそう。写真は、沖縄のやちむん(焼物)や金沢の窯元のもの。
コーヒーカップは、日本の作家ものや世界各地のものを取り揃えているそう。写真は、沖縄のやちむん(焼物)や金沢の窯元のもの。


オリジナルのコーヒー豆のパッケージに描かれていたのは、旅をする猫のイラスト。壁に飾った写真は、よく海外取材に同行するカメラマンから新築祝いにもらったもので、インドの風景を写したものだそう。
オリジナルのコーヒー豆のパッケージに描かれていたのは、旅をする猫のイラスト。壁に飾った写真は、よく海外取材に同行するカメラマンから新築祝いにもらったもので、インドの風景を写したものだそう。

カフェスペースの可能性は無限大

S邸のカフェスペースは現在、ママ友の集まりに重宝されているそう。「本当のカフェじゃないから周りに気がねすることもないし、家っぽくないからリラックスできるみたいです」。確かに、プライベートともパブリックともつかないこの空間にいるとなんとも落ち着き、長居したくなるのがわかる。

手間ひまかけてつくりあげたこのカフェスペースの使われ方は、子どもたちが成長するにつれ変遷するのだろう。もしかすると何十年か後、家族の誰かが本当にカフェを開いていたりするかもしれない。


バリアフリーのエントランス。家の前の芝生で遊んでいた小学校4年生の息子さんはサッカーと日本史に夢中だそう。「リフティングの記録は61回! 好きな時代は安土桃山!」と元気いっぱいに教えてくれた。
バリアフリーのエントランス。家の前の芝生で遊んでいた小学校4年生の息子さんはサッカーと日本史に夢中だそう。「リフティングの記録は92回! 好きな時代は安土桃山!」と元気いっぱいに教えてくれた。