DIY
カフェのような家旅とコーヒーをテーマに
自らつくりあげる空間
カフェのような家
東京都世田谷区。グルメやショッピングに人気の二子玉川駅の近くながら、周囲には自然も多く残る閑静な住宅街。昨年7月、Sさん夫妻はこの地に家を建てた。
「土足でどうぞ」と言っていただき足を踏み入れると、そこにはまるでカフェのような広々とした空間。大きな対面式キッチンをL字に囲むようにテーブルや椅子が並び、その座席数は20席ほどもある。「営業はしていません。個人宅です(笑)。前々から私たちは、家を建てるならカフェのような家にしたいと思っていたんです」とご夫妻は話す。
お二人が家を建てるにあたって出した要望は、「1階をすべてカフェスペースにする」「珈琲豆の焙煎機を置く」と、一風変わっていた。「建築家との打ち合わせは『焙煎機って何ですか?』という質問から始まりました。こういう家は設計したことがなかったそうですが、打ち合せを重ねて希望を伝えました」。
この家に住んでいるのはご夫妻と3人のお子さん、そして愛猫のスーちゃんだ。「1階は大胆にカフェスペースとキッチンのみとしましたが、2階に水回り、寝室、リビングを集約。広々としたロフトもつくってもらい、家族の居住スペースはしっかりと確保しました」。
DIYで思い通りに仕上げる
Sさん夫妻はお二人とも、書籍や雑誌の編集・ライターというクリエイティブな仕事をしている。「元々ものづくりが大好きなたちなんです。家は一生に一回の買い物なので、プロに任せきりにせず、自分たちでつくってみたいなあという想いがありました」。そんなお二人は、引き渡し時の内装の仕上がりをあえて6割程度にしてもらい、残りの4割は自らの手で仕上げることにした。「床板と壁だけはつくってもらって、そこに手を加えていったという感じです」。
休みの日を利用して、古材をつかった棚、焙煎機の周りのタイル貼り、黒板塗料の壁などをつくりあげていったというお二人。さらには、カフェテーブルを自作したり、床や窓枠に塗料を塗って好みの色に仕上げたりと、隅々にまで手間をかけた。既製品にはない味や個性が発揮された空間は、住み手のホスピタリティが感じられ、なんとも居心地が良い。「この家を建ててから10カ月弱。ようやく形になってきました。自分の思い通りに家を仕上げていく作業は、いいストレス発散にもなりました」。
旅とコーヒー
ご夫妻が決めたこの家のテーマは「旅とコーヒー」。その理由を訊ねると、「仕事の関係で世界各地を旅しているんです。旅先で出会った小物たちをカフェスペースのあちこちに散りばめて、異国に想いを馳せながらコーヒーを楽しめる、そんな空間をつくりたかったんです」という答えが返ってきた。
コーヒー好きのご夫妻は、この家を建てたことを機にカフェスペースにプロ仕様の大きな焙煎機を置き、文字通りの自家焙煎まで始めてしまった。「焙煎したいと思った動機はシンプル。自分の好みにぴったりのコーヒーができるかなと思ったんです。本を読んだり、人気店の豆を買って来て参考にしたりと、目下試行錯誤中です」。今は自分たちで飲む分だけを焙煎しているお二人だが「いつか納得のいく味ができたら世に出すのもいいかな」と楽しそうに話す。実はすでに知り合いのイラストレーターさんに頼んでオリジナルのパッケージまでつくっているというから、Sさんブランドのコーヒーが世に出るのは、そう遠い未来ではないかもしれない。
カフェスペースの可能性は無限大
S邸のカフェスペースは現在、ママ友の集まりに重宝されているそう。「本当のカフェじゃないから周りに気がねすることもないし、家っぽくないからリラックスできるみたいです」。確かに、プライベートともパブリックともつかないこの空間にいるとなんとも落ち着き、長居したくなるのがわかる。
手間ひまかけてつくりあげたこのカフェスペースの使われ方は、子どもたちが成長するにつれ変遷するのだろう。もしかすると何十年か後、家族の誰かが本当にカフェを開いていたりするかもしれない。