DIY
カフェ兼自宅をセルフビルド緩やかにつながる
仕事と日常
DIYで予算をクリア
のどかな田園風景が広がる東京の郊外。3年前、平山夫妻はここにカフェ兼自宅を構え、第二の人生をスタートさせた。「サラリーマン生活に見切りをつけ、以前からやってみたかったカフェを始めることにしたんです。自宅にいるようにのんびりと本でも読み、音楽を聞きながらゆっくり過ごしてもらえるカフェにしたいと思いました」
とはいえ予算には上限があった。できるだけローコストで建てるにはどうしたらいいか、あちこち奔走して辿り着いたのがセルフビルドという考え方。「基本のところは設計事務所が、自分たちでできるところは自分たちでやりました。本来あり得ないと思うのですが、工事現場に入って行き作業の工程に加わらせてもらうこともできたんです」
断熱材や防水シートを入れたり、ペンキや漆喰を塗ったり、外構を造ったりする作業はふたりで行った。「とにかく限られた予算でしたから。もともとDIY的なことは好きだったので、その延長で楽しんでできましたね」
生活の満足感も大切に
「小さな店がつくれて、ふたりで住める住居があればいい」というのが平山さんのリクエスト。低予算に抑えるには、マッチ箱のようなシンプルな箱型にするのがベストだったという。
「下がお店で上が住居、あとは駐車場と庭が欲しいと思い、イメージを描いて相談しました。予算を考えると住居は屋根裏のようなものになると、ある業者さんには言われたのですが、生活を犠牲にしたくはないね、というのが共通の意見でした。仕事はもちろん大切ですが、ある程度生活も楽しみたい、と思うんです」
そしてセルフビルドが可能なプランに巡り合う。「外壁も満足のいくものになりました。もともと木を使いたかったのですが、全体が木だと重い感じになるしメンテナンスも大変です。そこで足掛かりのない高い部分はフレキシブルボードにして杉材と組み合わせることを提案してもらいました。今も早め早めのメンテナンスを心がけて、大切にしています」。外壁の杉材とフレキシブルボードはふたりで塗装。さらに不要なものはそぎ落として予算内におさめることを考えた。
コスト減を目指したユニーク空間
「こんな家、ないですよね」。店舗の奥から上がる2階の住居は、階段のところから構造がむき出しになっている。「壁を貼らなくても構造的に問題ないのだから、という発想です。当たり前の、どこにでもある空間よりもおもしろいかなというのもありました」。壁で覆われず、むき出しになった建材の張り出した部分に、たくさんのCDや本などが並んでいる。無駄を排除するための工夫が、却ってオリジナリティを感じさせる。
「壁や収納を造ってしまうとその分空間が狭くなりますよね。そういう点でも良かったかなと思っています」。洗面所の引き戸を動かすと、そこには洗面道具を収めた棚が。隙間を無駄なく活かすアイデアが素晴らしい。「棚などはすべてDIYです。前から持っていた板や昔の建具、ステンドグラスなども、ちょっとした隙間に活用してみました」。もともと古いものが好きで買い集め、大切に保管していたという平山さん。アンティークショップで買ったガラスのランプなどが、無垢の杉材の床、木の壁の空間に、素朴な雰囲気を与えている。
目を引くのは壁面にあふれるほど並んだCDに、古いレコードプレーヤー。結婚前から一緒にバンドを組んできたという音楽好きの夫妻が、長年集めてきたものだ。「以前はレコードで壁ができるくらいだったのですが、これでも引っ越しの度に減らしてきたんです。実際、これだけ持っていて一生の間に何回聴けるのかなと思い始めて。何を残すのか選別して、少しずつものを減らしていく、ということも考えていますね」
緩やかさが寛ぎを与える
カフェで流す音楽は、お客さんがゆっくりできる時間を邪魔しないものを選ぶ。店はオープン時から少しずつ手を加え雰囲気を変えてきた。「厨房の仕切り壁に板を張って色を塗ったり、建具を入れたり、ワインの木箱で扉を作ったり。DIYはカフェの方により労力を費やしましたね。そういう作業そのものを楽しんでいます」
店舗から眺められる奥行きのある庭の前には、デッキを作った。「陸橋で使われていたらしい四角柱の枕木をたくさんもらったので、その木で作りました。緑が見えるとリラックスできるので、庭づくりにも力を入れましたね。手入れは自己流で、やりながら学んでいるところですが」
オリーブ、ムクゲ、ブラシの木などが育つ庭には、道祖神もあれば、店名のアスタリスクを型どった放射状の花壇もあり、和と洋が混在。「自分が子供の頃近所の家で見た庭をイメージしていて、特にこだわりはないんです。カフェの食器も、作家ものもあればアラビアもあり、ファイヤーキングもある。好きなものをとらわれることなく取り入れていきたいと思っています」
これからも続く空間づくり
穏やかな雰囲気に包まれる平山邸だが、おふたりの毎日の生活は結構忙しい。「朝晩はランチの仕込み、それ以外は庭の手入れをしたり、買い出しに行ったり。仕事とプライベートを行ったり来たりしている感じですね。でもサラリーマン時代の生活とは違って満足しています」
2階リビングの大きな窓の向こうには田園が広がり、夏は緑の苗が、秋は黄金色の稲穂が茂り、冬には一面の雪景色になることもある。
「この土地に出会えたのはラッキーでしたね。朝、集団登校する小学生が通り過ぎると、妻がランチに出すパンを焼き始めます。すると1日が始まる気分になってきます。カフェを営むための建築だったのですが、暮らしも楽しむことができ、仕事と生活がちょうどいい具合に回っている感じです」
店舗をもう少し広げたい、など次々と改装のプランも進行中。緩やかな時間と充実した生活が、この家を包んでいる。