DIY
築50年の平屋を蘇生手をかけて創り出す悦び
家も暮らしも自分流に
暮らしつつ自らリフォーム
昭和40年代の平屋の日本家屋。ノスタルジックなその家に暮らすのは、布物作家の武井啓江さん。「友人からここを紹介されたのですが、好きにリフォームしていいと言われ入居することにしたんです」。
3部屋に分かれていた造りを、壁を取り払ってワンフロアに。屋根裏部屋や中2階の子供部屋、アトリエなどは、かつては存在しなかった。「間取りのプランは自分で考えました。友人の大工さんに躯体だけは作ってもらい、漆喰の壁や棚など、自分でできるところはできるだけ自分で仕上げました」。
入居前に天井と壁の一部を取り払い、あとは住みながらリフォームしていった。「いちばん奥の部屋で寝起きして少しずつ手を加えていきました。子供の頃から住宅のチラシを見るのが好きだったり、家具とリフォームの工房で働いたこともあったりして、もともと空間には興味があったんです。自由に家を改築できるのは夢のようでしたね」。
平屋を独創的な空間に
現在8歳の長女・そらちゃんの部屋となっている中2階のスペースは、もとは押し入れだったところを活用。材木で支柱を立て水に濡らして曲げた石膏ボードを張り、曲線を描く壁を作って漆喰を塗った。リビングダイニングの奥の部屋は天井と階段を設けて屋根裏部屋に。平屋のワンフロアに、段差のあるスペースが混在しているのが楽しい。
「以前は自分で庭に建てた小屋で仕事をしていたのですが、子供に目が行き届くようにアトリエをダイニングにつなげて増設しました」。武井さんは“Norbulingka”を屋号に、天然素材だけを使った服を作って販売したり、自宅で洋裁教室を開いたりして暮らしている。創作活動の中心であるアトリエは、窓の外に庭のグリーンが広がり、やさしい日差しが室内に届けられる。
「内装のペンキ塗りや棚の取り付け、庭に出るドアの階段などはDIYです」。壁の一部には開口を設けてプラスチックのボードを張り、光がダイニングまで通過するように工夫。ピンチハンガーを使ったディスプレイなど、素朴で味のある演出が雰囲気を出している。
「自己顕示欲が強いのかな。ボロボロのものに手を加えて完成させる、自分にしか表現できないものを創り上げるのが嬉しいんです」。
暗かった庭の一部を再生
アトリエに続いて、庭に完成させたのがデッキとパーゴラ。「ここは少し薄暗い場所だったんです。家にそういう場所があってはいけないと聞いていたので、デッキを設けてジャスミンやブドウの木を植えたらすごく気持ちのよい場所になりました」。
そらちゃんがブランコで遊んだり、テーブルを出して食事をしたり、友人を招いてバーベキューパーティーをしたり。「お米もここで炊きますよ。かまどとロケットストーブを大工さんに作ってもらったんです」。ロケットストーブはまわりをコンクリートで固めて、母娘で行った海で拾ってきた貝殻を埋め込んだ。人が集う温かな場所が、庭に誕生した。
「もともとものづくりが好きだったんです。それは服に限ったことではなく生活全般に及んでいますね」。服を縫い始めたのは大学生の時。自分が着たい服を独学で作ったのがきっかけだという。今では、廃材や拾ってきた流木でテーブルや椅子を作るなど、インテリアもほとんどがお手製。「ここに住み初めて、自分で生み出すものが増えました。自分でものを生み出せると、自由になれるし、ストレスが減っていくんです」。
暮らしから生きるヒントを得る
石鹸、洗剤、化粧品など市販のものは一切使わず、お酢や重曹など天然素材を活用し、自給自足のような生活を送る武井さん。「庭で育ったクワの木の実をジャムにしたり、葉っぱを天ぷらにして食べたり。これがとても美味しいんですよ(笑)」。
そんな暮らしの楽しみを伝えたいと、月に4回ほど自宅を開放する「オープンライフ」を開催している。「一緒に縫い物をしたり、保存食作りをしたり、大工仕事をしたり…。色々な手仕事を体験しながら、素朴な暮らしの豊かさを体験してもらえたらと思って」。
その思いはさらに加速して、「次の目標はゲストハウスなんです。宿泊してもらいながら一緒に手作り生活を体験できる施設を作りたいと思っています。今、大分に古い物件を見つけて計画中なんです」。
そんな行動力と決断力は子供を思って培われたものでもある。「ここに辿り着くまで色々ありましたが、今がいちばん楽しいんです。子供にイヤイヤ仕事をしている姿を見せたくはありません。思いきって好きなことをして、そうすることで子供にも自分で生きる力を学び取ってほしいですね」。