DIY
街にひらいた住まい事務所、店、家が一体となり
訪れる人をあたたかく迎える
家と店を兼ねるオープンな空間
通りに面したガラス戸をがらりと開けると、まず目に入るのが丁寧にディスプレイされた暮らしの道具たち。その横には、本棚で仕切られたこぢんまりとしたデスクスペース。そして、奥の1段あがったところには、丸いダイニングテーブルが見える。
建築家の寺林さんの家は、自らの設計事務所と、妻の眞紀さんが営むショップを兼ねた「家店」だ。この家と店を兼ねた住まいは、とにかくオープン。店のスペースと家のスペースは、段差でゆるやかに区切られているだけ。設計上引き戸を設けているが、「なんだか狭く感じるから」と、ほとんど閉めることはない。
「前を通りかかった人がお店をのぞくと、奥で私たちが普通にごはんを食べてるから、びっくりするみたい(笑)」(眞紀さん)
商店街にとけこむ住まい
この家が建つまで、築60年の借家住まいだった寺林さん一家。住み慣れた家だったけれど解体が決まったため、新たな住まいを探していた。「いろいろな家や土地を見に行ったんですが、なかなかピンとこなくて……どうしたものかと思っていました」。
そんなときこの場所を見て、「ひと目で、我が家はここだ!と即決しました」と寺林さん。2年近く探した末に出会ったその家は、商店街の一画に建つ築40年の元クリーニング屋さんだった。
1階は道路に面してお店、奥に作業スペースがあり、2階が住まいという、典型的な商店の間取りが気に入った。ここなら事務所とショップを兼ねた住まいにぴったりだ。
当初はリフォームして住むことを考えたが、耐震面などから解体・新築することとなった。「でも、間取りはほぼ前のクリーニング屋さんのまま。古くからある商店街の中に新築するので、目立ちすぎず、周囲となじむ家にすることを心がけました」
設計事務所とショップが仲良く並ぶ店のスペースは、杉板張りの床があたたかみを感じさせる。ちょっと知り合いの家に寄ったような、肩肘はらない雰囲気が心地いい。
そんなゆったりとした空気感は、周囲の商店街にも共通する。パン屋さん、八百屋さん、ラーメン屋さん……みんな顔見知り。ご近所さんが見守ってくれる安心感があるから、寺林家の愛娘・吟ちゃんも外でのびのびと遊んでいる。
ささやかだけれど、美しい暮らし
家のスペースのメインとなるのは、店から1段上がったダイニングキッチン。寺林さんが設計した合板にシンクをはめこんだオリジナルのキッチンと、眞紀さんが選んだ道具や食器が並ぶ。
職と住が一体となった「家店」のため、たいていの日は、朝昼晩の三食をこのダイニングキッチンでつくり、食べる。お店がオープンしている11時から17時半の間の昼食も「普通にここで食べる」ため、冒頭で紹介したように、道行く人にびっくりされることも。
けれども、寺林さん夫妻の話を聞いていると、それが一家にとってはごく自然なことなのだと思えてくる。主に住宅の設計を手がける寺林さんと、暮らしまわりの道具を扱う眞紀さん。そして愛娘の吟ちゃんと、猫のトト。寺林さん一家の日々の暮らしは、そのまま家の設計や暮らしの道具と結びついているのだ。
さらに寺林さんの家では、家族だけでなく、友人や知人も多く訪れ、一緒に食卓を囲む。「前の家もそうだったけれど、狭くても気にせずどんどん来てもらってます」。寺林さんに家の設計を頼んだ施主がここで食事をして「同じような家をつくってください」と言うことも多いのだとか。
家族とともに成長していく家
2階に上る階段のつきあたりの壁は、ペンキが塗りかけのままになっている。「途中でペンキがなくなって、もう2年そのままになってます」と寺林さん。ペンキだけでなく、「引越しにあたって、本当に使うものを厳選しました。その整理がいちばん大変だった」と眞紀さんが話す道具を並べる棚も、すべてDIY。
「構造や断熱性能、外装、基本設備等は普段の設計と同じくケチらなかった。そうしたら、内装にまわす予算がなくなって」と寺林さんが笑えば、「住みながら少しずつ手を入れていけばいいかなといつも言ってるんです」と眞紀さん。
暮らしながら、家族の成長に合わせて少しずつ手をいれてつくりあげていく。無理のない日々の暮らしが、そのまま家につながっていく。寺林さん一家の「家店」からは、そんな等身大の住まいのあり方が伝わってくる。
設計 寺林省二
所在地 東京都国立市
構造 木造在来工法
規模 地上2階
延床面積 56.67m2