DIY
創作とともにある暮らし木、鉄、土。自然素材を生かし
作家が手作りした家
「馬小屋のすぐ近くに使われていなかったバーベキュー小屋があったので、その骨組みを利用して家を作りました。大工さんに分けてもらった端材を使って床を上げて。けれど風呂は五右衛門風呂で、トイレは庭に穴を掘っただけ。そんなふうに暮らしていて10年ほど経った頃でしょうか、妻の美雪がポツリと言ったんです。『もうキャンプは止めたい』と。ドキっとしましたね。これはいかんと思いましたよ(笑)。で、一念発起して、風呂とトイレを作り、家を増築したんです」
増築部分の基礎工事はKINTAさんと仲間で仕上げ、大工さんには家の骨組のみを作ってもらったそうだ。
「大工さんの作業が2ヶ月ほど、その後、自分で屋根と壁を作り、合わせて3ヶ月半ほどで家ができあがりました。壁はコンパネにペンキを塗っただけで仕上げています。コンパネの継ぎ目はわざと隠しませんでした。後から家に手を加える時、継ぎ目を見れば釘を打って効く場所がわかるので、そのほうが便利なんです」
「最初は2階部分はそのゲストルームだけにしようと思ったのですが、吹き抜けが大きすぎたので、反対側にも部屋を作りました。階段を2箇所作ることも考えましたが、渡り廊下でつなぐことにしました」
その渡り廊下が子どもたちには大好評。鴨居が低いのでくぐらなければならなかったりと、ちょっとしたスリルを味わいながら、反対側の書き物専用アトリエに辿り着ける。
「渡り廊下もそうですが、ドアでも壁でもなんでも、自分で家を作れば、壊れたり不具合が出ても、人に文句を言わなくて済むのがいいですね。すべて自分のせいですから(笑)」
ドアはみんな違ってみんないい。
KINTA宅のドアは、建物の中のドアも外回りのドアも、同じドアはまったくない。桜や栗、楓など、種類ごとに違う木の色の表情を楽しめる組み木のドアや、真鍮や銅、鉄などを使った月日とともに変化していく様を味わうドアなど、素材も様々。発想のユニークさ、風情にも幅があって、どれもとてもおもしろい。
そんなKINTAさんの作るドアの魅力に惹かれて、カフェやギャラリー、骨董品店、そして個人宅から、ドアの制作を依頼されることが多いという。
「どんなドアを作りたいのか、力強いドアか、優しいドアか。その方の好みを聞いて作ると、自分の想像を超えた新作ができるのがおもしろいんです」
けれどKINTA宅の母屋の入り口のドアは、ここに住んで約20年、ずっと手をつけられないまま。
「二重扉の玄関を作りたいと思っています。ドアは思いっきりふざけたものを作りたいですね。今年こそは完成させますよ!」
キッチンと二階建ての子ども部屋は母屋に。
キッチンのカウンターの中には、プロユースのステンレスの厨房機器が並んでいるけれど、どれも格安で手に入れたものだそう。陶芸の町、益子のキッチンは、食器の数も種類も多い。大きなガラス扉の食器棚に器が収められている。
「もともと食器棚として作られたものではないので、たくさん器を入れると棚板がたわんでしまいます。なので、棚板を支える補強を加えました。もともとは引き出しが一番下の床面にあったのですが、上下を入れ替えてまん中を引き出しにすることでとても使いやすくなりました」と美雪さん。
KINTAさん、美雪さんのそんな美意識から生まれた空間の中では、古くなれば魅力を失うようなプラスティック製品は浮いてしまう。現代の生活に必要不可欠な電化製品もあるにはあるけれど、他の家庭よりそれらの数は圧倒的に少ないし、うまく隠されている。
素材が持つ声に沿って作品を作るアーティスト・KINTAさんの手によって生まれた家は、家族の成長やその時々のニーズを柔らかく受け止めるしなやかさを持っている。この先、どんなふうに変化していくのか、KINTAさん自身もわからないような楽しさがこの家にはある。