Family
好きなものを自由にちりばめて本とアートと珈琲と家族
家の中の時間を楽しむ
豊かな自然が残る土地
里山のほど近く、周りには田畑が広がる緑豊かなロケーション。長谷(ながたに)さん夫妻は東京都町田市のこの地に、2010年に家を建てた。「以前はマンション住まいだったのですが、自然の中でのびのびと子どもを育てたいと思ったんです。この場所を見にきたときは真夏。里山の鮮やかな緑が目に飛び込んできて、ここだ!と思いました」と話すご夫妻。千葉県出身のお二人は、この場所が子どものころに自身が遊んだ自然豊かな風景と似ていると感じたそうだ。
この家に暮らすのは、夫の芳教さん、妻の睦子さん、長女の野乃子ちゃん、次女の草葉子(そよこ)ちゃん、三女の風生子(ふうこ)ちゃんの5人家族。8歳の野乃子ちゃんはご両親の願い通り自然の中でのびのびと育ち、その元気さ活発さは近所でも有名だそう。「好きなものは何?」と聞くと「虫!」という元気な答えが返ってきた。同級生の男の子が書いた文集には「野乃子ちゃんみたいに虫が触れるようになりたいです」という文言もあるというから、なんとも頼もしい。「この家に住んでから次女と三女も生まれて、家の中はいつもにぎやかです」とご夫妻は微笑む。
空間をつなげ自然光を取り込む
エンジニアとして働きつつ、週末は珈琲家として活動する芳教さんは、細部にこだわり好きなことをとことん追求する気質。睦子さんはイラストレーターとして活躍する芸術家肌。そんなお二人がつくりあげた家は、細部にまでこだわりがつまっている。
「玄関から廊下を通って自分の部屋に直行できてしまう家は嫌だったんです。家族全員が必ず顔をあわせる家にして欲しいと要望を出しました」と話す芳教さん。長谷邸は、玄関を入ると土間、ダイニング、リビング、和室がすべてスキップフロアでひと続きになっている。2階には寝室、睦子さんのアトリエなどがあるが、中央部に設けた吹き抜けや部屋の間の壁につけた窓によって、家の中がすべて一体化しているような感覚を覚える。「扉はすべて引き戸にしてもらったので、開ければさっと空間がつながるんです。みんなの声も筒抜けで、あっ今2階で奥さんが子どもと話しているな、なんてよくわかる」と芳教さんは笑う。
大きな窓からたっぷり入る自然光も印象的だが、ここにもご夫妻の希望が反映されている。「自然光で本を読みたい、絵を描きたいと思っていたんです」と睦子さん。遮る建物がない東側に大きな窓が設けられた長谷邸は、電気をつけなくても日中は十分に明るい。2階には2つの天窓もあり、家中どこにいても自然の光を感じられる。「マンションにいたときよりも広いし家族も増えたのに、電気代は半分くらいになったんですよ」(睦子さん)。
本とアートに囲まれて感性を養う
「あちこちに本棚をつくって、どこにいても本が手にとれる家にしたかった」と話す夫妻の言葉通り、長谷邸にはいたるところに本、本、本が。お二人はそろって大の本好きなのだ。「キッチンには料理本、ダイニングにはライフスタイルや住宅系の雑誌、リビングにはじっくり読みたい小説、2階には子どもに枕元で読み聞かせる児童本、土間には珈琲の本、と場所によってちがうジャンルの本を置いているんです」と睦子さん。どの本棚も、そこに置きたい本や雑誌のサイズに合わせてつくってもらったそうだ。
まるで図書館のような長谷邸では、家のどこにいても本が目に入り、好奇心が刺激されインスピレーションが沸く。芳教さんは「子どもが成長するにつれ、さらに本が増えるだろうなあ」と楽しそうにつぶやいていた。
そしてこの家にさらなる彩りを添えるのが、デザイン会社出身で現在はフリーランスのイラストレーターとして活躍する睦子さんが描いた絵画。「登山やピクニックが好き」と話す睦子さんの作品は、心なごむやわらかいタッチで自然の風景を描いたものが多く、家にとても似合っている。
週末は珈琲家
週末の芳教さんは、「みなづき珈琲」という屋号の珈琲家に変身。自宅で焙煎した豆をご近所に販売したり、地域のさまざまなイベントに出店したりしている。「根っからの珈琲好きなんです。小学校の時から飲み始め、大学生の時には喫茶店巡りをしていました」と話す芳教さん。2002年にコーノ式珈琲塾の焙煎士養成講座に通って以降ずっと、焙煎法、ブレンド、挽き方、淹れ方などを探求し続け、イベント出店や珈琲教室をしながら珈琲の魅力を広めているそうだ。
「家を建てるときに、“自分の家で焙煎する”文字通りの自家焙煎珈琲をつくりたいと思って、土間を設けそこに焙煎機を置きました。僕は土間を書斎と呼んでいます(笑)」と話す芳教さん。「地域の方と珈琲を通じた和やかなつながりができるのがうれしい。田んぼの収穫祭に呼ばれて珈琲を淹れたこともあるんです」。長女の野乃子ちゃんは「珈琲は苦くて飲めないけど淹れるのは好き。豆がもこもこ膨らんで面白い」と教えてくれた。
「この家に住んでから、外にでかけるよりも家の中の時間こそが贅沢だと思うようになりました」と話すご夫妻。ご夫妻それぞれの活動、増え続ける本、そして子どもたちの成長、長谷さん一家はこれからもこの家で家族の歴史を重ねていくのであろう。