我が家はリゾートふつうの生活空間に非日常感を組み込んで

我が家はリゾートふつうの生活空間に
非日常感を組み込んで

キーワードはリゾート

すぐ近くで相模川へと合流する川の前に建つ鈴木邸。川側から見ると、周囲の住宅よりも背がやや低め。横に横に広がったその壁面は、近寄って見ると弧を描いていて、建物が川に向かって扇状に広がった平面になっているのがわかる。

川側のその壁面に横一列にずっと開口の開けられた鈴木邸の家づくりのキーワードは“ リゾート” だった。「旅行が好きなので、リゾート地にいるような生活が家でもできたらいいなと思っていました」(鈴木さん)


川に向かって建つ鈴木邸。横一列に開口が開けられているが、扇状平面で部屋の向きがそれぞれ異なるうえに床のレベルが異なるため、部屋ごとに見える景色に大きな変化がある。

川に向かって建つ鈴木邸。横一列に開口が開けられているが、扇状平面で部屋の向きがそれぞれ異なるうえに床のレベルが異なるため、部屋ごとに見える景色に大きな変化がある。

玄関側から見たリビング。鈴木さんの要望通りに大きなスペースがつくられた。

玄関側から見たリビング。鈴木さんの要望通りに大きなスペースがつくられた。


奥さんの寛子さんが話してくれた新婚旅行のエピソードが面白い。ヨーロッパ好きの寛子さんに対して、鈴木さんはサーフィン好き。どちらか一方の好みで目的地を選ぶのではなく、休みを15 日間取って、7日+成田一泊+ 7 日という旅程でイタリアとバリの両方での休暇を楽しんだという。

そして寛子さんはこの旅行をきっかけにバリをはじめとするリゾート地の魅力にとらわれた。「それからはバリに行ったりハワイに行ったりとリゾート地ばかり回るようになって、“ そういうような開放的な空気感にあこがれています” と建築家にお話ししました」


リビングには玄関を入って奥に見える階段を上る。右側にキッチンがある。

リビングには玄関を入って奥に見える階段を上る。右側にキッチンがある。


本質的なリゾート

設計時には、鈴木さんがモルジブの海に1人で出かけたり、家族でリゾートに行くようになっていた。

「その間を過ごす時間も、次のリゾート、あるいはサーフィンへのワクワク感がずっと持続していられるような空間がいいんじゃないかというお話はしましたね」とは建築家の保坂さん。

さらに、リゾートといっても、リゾート地のデザインに近いテイストでリゾート感を演出するのではなく、もっと本質的なところで、夫妻が心から楽しめるリゾートを実現できればという思いで、お2人の話をじっくりと聞き取りながら設計に臨んだという。


寛子さんが独身時からもっているテーブルには海外旅行の思い出の品が収められている。

寛子さんが独身時からもっているテーブルには海外旅行の思い出の品が収められている。

キッチンからリビングを見る。ダイニングテーブルはPACIFIC FURNITURE SERVICE の製品。

キッチンからリビングを見る。ダイニングテーブルはPACIFIC FURNITURE SERVICE の製品。


リビングからダイニングとキッチンスペースを見る。

リビングからダイニングとキッチンスペースを見る。
 

ブラインドにもこだわり、木製のものを購入した。

ブラインドにもこだわり、木製のものを購入した。

鈴木邸では何カ所かにフレームに入った絵が置かれているが、こちらには結婚式で撮られた写真が収められている。

鈴木邸では何カ所かにフレームに入った絵が置かれているが、こちらには結婚式で撮られた写真が収められている。


リゾートのための仕掛け

外観で目を引く、壁面を横一列に連続する開口もリゾートをつくるための仕掛けのひとつだろう。左右にまったく視界を遮るものがない開放感は海での体験に近いものがあるが、これを実現するためには目の前を走る電線の問題があった。

「リゾート感ということからは、やっぱり電線が目に入ってこないようにしようと思いましたね」と保坂さん。そこで電線が目に入らないように通常の2 階レベルよりも少し下げた位置にリビングを設定したが、この高さを決めるのにはもうひとつの要因があった。

「リゾートではドラマチックに周りが動いているように見えることがありますが、そういう高さを探りつつ、すでにつくられている目の前の景色をどのようにこちらへと引き寄せて融合させていくかということも設計では大事なポイントでした」


リビングスペースに夫婦で選んだ家具が見事にフィットしている。素敵な色のソファもPACIFIC FURNITURE SERVICE で購入したもの。

リビングスペースに夫婦で選んだ家具が見事にフィットしている。素敵な色のソファもPACIFIC FURNITURE SERVICE で購入したもの。


高低差をつくる

白を基調とした室内では、天井に何本も走る大きめサイズの木梁が目を引くが、サッシにも木を採用して独自のリゾート感をつくり出している。また、平面が扇形をしているため、各部屋が違う向きを向いていて、ひとつの家の中でそれぞれに趣の異なる部屋へと移動するようなプチ旅行感を味わうこともできる。

さらに、この家の中につくりこまれた仕掛けがアップダウンだ。リビングと寝室にはそれぞれその下部に外部空間がつくられているが、この2つの部屋に挟まれた子ども部屋は床面が地盤面に近く、リビングから寝室へと向かう際には必然的に家の中で上ったり下がったりという大きな上下動を経験することになる。

「ふつうに生活しなければいけない空間の中で、リゾートの非日常感を出すのに起伏があるというのは、少し面白い要素になるんじゃないかなと」(保坂さん)。視線のレベルが変わることで、場所によって外の景色が劇的に変わるだけでなく、内部でも大きな変化が味わえる。たしかにこれは、一般的な住宅では難しい体験だ。


リビングから寝室方向を見る。途中の右側が子ども部屋で、左側には水回りがある。

リビングから寝室方向を見る。途中の右側が子ども部屋で、左側には水回りがある。

子ども部屋。子どもたちが伸び伸びと育つように、大きな空間に。

子ども部屋。子どもたちが伸び伸びと育つように、大きな空間に。


寝室にもリゾート感が漂う。

寝室にもリゾート感が漂う。

寝室側からリビング方向を見る。一般的な住宅にはないアップダウンが非日常感を演出する。

寝室側からリビング方向を見る。一般的な住宅にはないアップダウンが非日常感を演出する。


キッチンでのリクエスト

奥さんがこだわったもののひとつがキッチンだった。「パンをつくるのが好きなので、パンをつくるスペースと、料理も好きなので、IH にして作業スペースを取っていただきたいとお願いしました。あとはオーブンをビルトインのものと普通の据え置きのもののふたつを用意していただきたいと。食洗器などの設備もつけていただきたいというのもお伝えしました」

「小学校の2年か3年のときにパン焼き器をいただいてつくり始めたら楽しくて、一人で研究しつつ今まで焼き続けている」という寛子さん。腕前はプロ並みで、鈴木家で食するパンはすべて寛子さんオリジナルのものという。

キッチンでの要望はもうひとつ。「前に住んでいたアパートだと区切られていてのぞき込まないとリビングが見えなかったので、子どもたちからこちらを見ることができて、わたしも子どもたちのことが把握できるようなつくりにしてもらいました」。もちろんこれは同時に、家族との一体感を感じられるということでもあった。


寛子さんがつくった総菜パン。

寛子さんがつくった総菜パン。
 

パンづくりのために設けたスペースで、パンづくりの用意をする寛子さん。

パンづくりのために設けたスペースで、パンづくりの用意をする寛子さん。

キッチンの奥のパントリーのさらに奥に、収納スペースがつくられている。

キッチンの奥のパントリーのさらに奥に、収納スペースがつくられている。

寛子さんが研究してつくっているパンの種類は多彩。このほか、フランスパンもつくっているという。

寛子さんが研究してつくっているパンの種類は多彩。このほか、フランスパンもつくっているという。


寛子さんの希望でキッチンはリビングに向かい合うようにつくられた。

寛子さんの希望でキッチンはリビングに向かい合うようにつくられた。

こちらはチョコレートを巻き込んだ食パン。

こちらはチョコレートを巻き込んだ食パン。


春には菜の花を楽しむ

ふつうの家では味わえないリゾート感が溢れる鈴木邸。鈴木さんのいちばんのお気に入りの空間はリビングという。「基本的には家族でここにいる時間が長いので空間的には大きく取ってもらうようお願いしました。ソファに座って外を眺めると、春には菜の花が咲いて、夏は遅くなった夕日の時間を楽しむ。冬は冬で早く暗くなりますがその時間が逆にまた良かったりで、年間を通していろんな光景を楽しめる。富士山が見えるので、その変化でも四季を感じることができますね」

寛子さんもリビングから見える菜の花が気に入っているという。「菜の花は桜が咲くよりも前の3月あたりに満開になるのですが、川べりの遊歩道の両脇が一面黄色になって本当にきれいなんですね」。取材時は残念ながら季節外れでその光景を楽しむことができなかったが、春に川側から鈴木邸を見ると、菜の花とその上に見える建物の、黄と白のコントラストが見事なのだろうなと想像した。


広々としたリビングは一家5人が集まってもまだ余裕がたっぷりとある。

広々としたリビングは一家5人が集まってもまだ余裕がたっぷりとある。

リビング下のスペースでは、子どもたちが雨の日でも遊ぶことができる。夏にはこの場所で友だちを呼んでプール遊びをするという。

リビング下のスペースでは、子どもたちが雨の日でも遊ぶことができる。夏にはこの場所で友だちを呼んでプール遊びをするという。

鈴木さんはサーフィンから帰ると奥のドアから入ってシャワーを浴びる。

鈴木さんはサーフィンから帰ると奥のドアから入ってシャワーを浴びる。

HOUSE119(鈴木邸)
設計 保坂猛建築都市設計事務所
所在地 神奈川県厚木市
構造 木造
規模 平屋
延床面積 116 m2