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屋上庭園のある都心の2世帯住宅すべてをゼロベースで
考えてつくられた家

屋上庭園のある都心の2世帯住宅 すべてをゼロベースで 考えてつくられた家
1、2階を子世帯、3階を親世帯が占める一色邸。窓が少なめで閉じた印象のRCの外観とは対照的に、中庭を中心にキッチン、リビング、子供部屋などが放射状に配された2階は、開放的な佇まいが心地良い。しかし、家づくりにおいてこの開放感を実現することは第1のテーマではなかったと一色さんは言う。

「この家で私、妻、そして両親がどういう生活をしたくて、お互いの関係をどうつくりたいのか、子供たちにどう育ってほしいのかとをまず徹底的に話し合って、そこから我々が生活をする上で最適な空間を建築家と一緒に考えていきました。もちろん開放感も重要な要素ではあったんですが、それを柱にしてというようなことではなかったですね」


キッチンから中庭を通して子供部屋と親世帯が住む3階を見ることができる。
キッチンから中庭を通して子供部屋と親世帯が住む3階を見ることができる。
「必要な機能が集まっていてすごくいい」と奥さん絶賛のキッチン。
「必要な機能が集まっていてすごくいい」と奥さん絶賛のキッチン。


手前がダイニングで右手にキッチン。奥に子供部屋。ダイニングからも2階のスペースがすべて見渡すことができる。キッチンの手前に設置されているのは放射冷暖暖房システム。湿気も取ってくれて一年中快適に過ごせるという。
手前がダイニングで右手にキッチン。奥に子供部屋。ダイニングからも2階のスペースがすべて見渡すことができる。キッチンの手前に設置されているのは放射冷暖暖房システム。湿気も取ってくれて一年中快適に過ごせるという。

もっと根源的なところから、「すべてをゼロベースで考えて」家づくりをしたかったのだという。たとえばリビングのデザインでは、この空間で何をしたいかを起点にして考えていった。

「食事の後などに、夫婦で話をしている時に子供たちがその近くで遊んでるとか、子供たちが自分たちの部屋に入っても見渡せて彼らの様子がわかるとか、そのようなところを出発点にして、ではこの空間に必要なものは何だろうかと考えていったんですね」

こうして実現した2階の空間は、リビングから見て右手のキッチンから左に見える子供部屋まで、ゆるやかに分節されながらも見通せるつくりになっている。一室空間ではないが、連続感があり、それが中庭への視覚的な“抜け”ともあいまって心地の良い開放感をもたらしている。


奥にある放射冷暖暖房システムの関係で少しいびつな形状になっているオリジナルのソファ。色のバランスも素敵だ。
奥にある放射冷暖暖房システムの関係で少しいびつな形状になっているオリジナルのソファ。色のバランスも素敵だ。
ダイニングから奥さんの仕事スペースまで壁がなく、奥まで見通すことができる。
ダイニングから奥さんの仕事スペースまで壁がなく、奥まで見通すことができる。
ソファのデザイン(DRILL DESIGN)では子供たちとのコミュニケーションも重要な要素だった。
ソファのデザイン(DRILL DESIGN)では子供たちとのコミュニケーションも重要な要素だった。


家具や植栽もゼロベースで

建築部分だけではなく、家具やインテリア、植栽でも「ゼロベース」にこだわり、洗面台の高さまで話題にしたという建築家との打ち合わせは、5時間以上に及ぶこともしばしばだった。

「このスペースにはどういう形がふさわしいかととてもこだわって決めた」というリビングのソファは、2つのソファが背中合わせでくっついたようなデザイン。背の部分を低くしたのは、座っていても2階すべてを見渡せるようにしたかったから。そしてまた、子供たちと遊べるスペースにしたかったからでもあった。どのような色にするのかも、当然ながら何度も話し合って、グレーとイエローのコンビネーションとなった。

中庭に植えられている木はモミジだが、この家のシンボルツリーをどの樹種にするのかもじっくりと検討された。1階部分まで1日中日が差しこむわけではない中庭では、日陰で育ったモミジじゃないと適さないということから、群馬県の高崎まで条件に合うモミジを探しに行き、まさに今植わっている木そのものを選んできたという。


奥さんの仕事スペース。子供たちもその横で勉強や読書ができる。手前の収納にはTVが納められている。
奥さんの仕事スペース。子供たちもその横で勉強や読書ができる。手前の収納にはTVが納められている。
「この家の壁がコンクリートなので、子供部屋はちょっと自然を意識したいというような話をしました」と奥さん。
「この家の壁がコンクリートなので、子供部屋はちょっと自然を意識したいというような話をしました」と奥さん。


中庭に植えられたモミジの周りを一輪車と自転車で元気よく走り回る姉弟。
中庭に植えられたモミジの周りを一輪車と自転車で元気よく走り回る姉弟。

奥の引き戸を開けると玄関ホール。エレベーターがあって、ご両親はそのまま3階へ上がることができる。
奥の引き戸を開けると玄関ホール。エレベーターがあって、ご両親はそのまま3階へ上がることができる。
中庭前の書斎にル・コルビュジエとシャルロット・ペリアンによるシェーズロング。黒色が空間によく合っている。
中庭前の書斎にル・コルビュジエとシャルロット・ペリアンによるシェーズロング。黒色が空間によく合っている。


屋上は緑と水の楽園

SKY GARDEN HOUSEというこの家に付けられた名前の由来となった屋上庭園のデザインももちろんゼロからのスタートだった。

「最初のころの設計では屋上には室外機が置いてあるだけでしたが、コンクリートなので、土を盛って庭をつくるだけの強度は確保できるという話から、じゃあ屋上に庭をつくったらいいんじゃないかということになり、さらにそこからまたどんどん話が大きくなっていきましたね」と語るのは一色さん。

出来上がったのは、都心では考えられない心地の良さを満喫できるスペースだ。特注でつくられた全天候対応のソファやパーティ対応のシンクと冷蔵庫も備えたボックスと、子供たちがその中に入って遊べる水盤。そして、植栽は季節ごとに花が咲くだけでなく、借景的に利用している隣地の緑とのバランスも考えてデザインされた。


都心の住宅では嘘のように恵まれた屋上空間。緑とともにある開放感が堪らない。
都心の住宅では嘘のように恵まれた屋上空間。緑とともにある開放感が堪らない。
「水があると気持ちいいだろう」とつくった水盤。子供たちが遊びに来ると全員入ってビショビショになる、という。
「水があると気持ちいいだろう」とつくった水盤。子供たちが遊びに来ると全員入ってビショビショになる、という。
屋上のソファはこの家のためのオリジナルデザイン((DRILL DESIGN)で、全天候対応。
屋上のソファはこの家のためのオリジナルデザイン((DRILL DESIGN)で、全天候対応。
木のボックスには、シンクや冷蔵庫がセットされ、パーティにも対応。
木のボックスには、シンクや冷蔵庫がセットされ、パーティにも対応。


家づくりのプロセスは非常に楽しく、また、高揚感もあって、もう一回体験したいと思うくらいだったという一色さん夫婦に、この家でのお気に入りの場所や過ごし方を教えていただいた。

まずは一色さん。「夏場でも日差しが強くない時間帯に屋上のソファで横になって本とか読んでいる時とかですかね。気持ちが良くなって、知らない間に眠り込んでいたりします」

奥さんは、キッチンと自身の仕事スペースとともに屋上がお気に入りのベストスリーだという。「初夏ぐらいから時々夕ご飯を屋上で食べたりするんですが、その時の開放感はいいですね」。こういった時には屋上は必ず「スカイビアガーデン」になるのだという。


植栽は、季節ごとに花が咲くようにデザインされた。奥に見える公園の緑とのバランスも考えられている。
植栽は、季節ごとに花が咲くようにデザインされた。奥に見える公園の緑とのバランスも考えられている。
「春になると急にカラフルになって、あ、春が来たってすごく良くわかる」と奥さん。
「春になると急にカラフルになって、あ、春が来たってすごく良くわかる」と奥さん。
屋上へは2階から螺旋階段で上がる。
屋上へは2階から螺旋階段で上がる。


一色邸(SKY GARDEN HOUSE)
一色邸(SKY GARDEN HOUSE)
設計  芦沢啓治建築設計事務所
所在地 東京都
構造 RC造
規模 地上3階・地下1階
延床面積 346.53m2