Green
溢れる緑と光鵠沼の景色に溶け込む
癒しとパワーに満ちた家
残された鵠沼を大切にしたい
湘南の海の香りが街中に漂っているかのような鵠沼海岸。美しく生い茂る植物に囲まれた家に、ヨガ教室「スタジオ ジョーティ」を営む木下さん夫妻は暮らしている。
「もともと祖父が別荘として建てた家なんです。築50〜60年は経っているかな。10年前からふたりでリフォームしながら住んできました」。と語るのはご主人の正勝(チャキ)さん。この辺り一帯はお祖父さんの土地で、幼い頃から親戚に囲まれこの近所で育った。
「せっかくスペースがあるのだから、ヨガ教室をここでやろう、と私が提案してスタジオを完成させました」。奥さんの阿貴さんは東京の都心出身。チャキさんとの出会いが、ヨガやマントラの出会いとなり、鵠沼との出会いとなった。
「鵠沼は今、土地がどんどん分割されていて広い庭のあるところが少ないんです。ここは最後に残された鵠沼らしい場所じゃないかと、大事にしていきたかったんです」。庭やまわりの環境を大切に、スタジオを訪れる人とともに鵠沼の空気をシェアしたい、そんな思いから手を加えていった。
環境に合わせた庭づくり
1階、中2階、2階のスキップフロアの構造、船底をイメージしたリビングの天井…。お祖父さんの別荘は、当時としてはかなりモダンな造りだったと思われる。「でも、最初はとにかくひどかったですね。まず自分たちで庭から何とかしよう、と考えました」。
当初のアイデアは“森にしたい”ということ。「ヨガスタジオだから緑が欲しいと思って、木をたくさん買ってきて植えたのですが、いっぱいになりすぎちゃって。やはりプロの手を借りた方がいいねということになったんです」。そして出会ったのがインターパーツの野口さん。
「まず彼が言ったのは“君たちは海に山をつくろうとしている”と。庭はスペースで考えてはいけないんですね。空やまわりの環境、景色を捉えて全体で空間づくりをしていくことを教わりました」。海の近くの環境に合うアガパンサスをメインに、オーストラリアの植物など環境に適した植物を植えることに。「アガパンサスはこの辺りの道端に、ちょこちょこ咲いている花です。それを群生で植えるとこんなに奇麗になるということも知りましたね」。
異文化ミックスでオリジナルに
テラコッタの鉢や壷など、植物とコーディネートして庭に置いているのは、ふたりでよく訪れるインドのものが多い。どこかエスニックなムードが全体から漂ってくる。
「特に何風とか意識してはいないんです。アジアもあれば北欧のものもあって、いろんな文化のミックスですね」。デンマークで生まれ、子供の頃オーストラリアにも住んでいたというチャキさん。日本の骨董品もあればIKEAもあり、いろいろな文化の融合がオリジナルの空間を生んでいる。
「鵠沼からずれた環境はつくりたくないけれど、ちょっと新しいこともやりたいですね。地面から自然に生えてきたような、まわりに調合する家が理想です」。そんな感性で彩られる住空間は、美しさと心地よさで統一されている。
お祖父さんの代からそのまま使っているというテーブルが置かれたダイニングとワークスペースには、サンルームが隣接。鉢植えやハンギングの植物が潤いを与えている。「ほとんどがインターパーツで購入したもので、それをアレンジしたりして楽しんでいます。サンルームは空間が広くないからハンギングが多いのですが、ジャングルみたいになって好きですね」。
ふたりが好きで揃えている江戸〜明治の石皿などもシェルフに飾られている。素朴で味わいのある器が、ジャングル風の空間と不思議となじみ、時空を超えて穏やかな時間が流れていくかのようだ。
癒しの力が働くスタジオ
毎日瞑想の時間を過ごすというスタジオは、庭に面した広々としたスペース。かつては和室などがあったところを、床の間など、昔の名残を残しつつリフォーム。漆喰の壁にはあえて穴を開け、開口部を設けてもらった。「“ジョーティ”というのはサンスクリット語で人の心の内側にある美しい光をさします。だから採光を取り入れたいと考えたんです」。“ここを訪れた人の心が光り輝くように”、チャキさんはヨガ、阿貴さんはマントラで、その思いを伝えている。
床はほどよく硬く、ひんやりとするような触感が心地よい。ミャンマーのチーク材を使用し、床下には備長炭が敷かれているという。「1000年以上前から日本で行われているらしいのですが、地中の微生物が活性化して、土地のエネルギーがよくなるらしいんです。磁場を整える効果もあるそうです」。
そのためなのか訪れる生徒さんなどから、パワーを感じると言われることが多いそうだ。確かに、静かなスタジオで美しい緑を眼前にし、澄んだ空気に包まれていると、まるでパワースポットにいるような気持ちがしてくる。
静寂の中でマントラを唱える阿貴さんは、「今となってはもう湘南にしか住めないですね」。音が身体に響いてくるのは、ここが植物の息吹きに満たされたパワーのある場所だからかもしれない。「ヨガと植物が核」というチャキさんとともに、残された鵠沼の景色を護り継いでいくのだろう。