Green
自然との共生の中で庭づくりに、サックス吹き…
楽しみと挑戦へと触発する家
新たなチャレンジに向けて
道路から駐車スペースを経て10m以上奥に立つ山﨑邸。平屋の白い建物の先端部分が緑の中に顔を見せる。山﨑さんがこの家を建てたきっかけは、仕事を退職したことだったという。
「ちょうど60歳でしたから、人生一回りしたところで少しリセットして、いろいろな意味でこれからどうやっていこうかと模索しているところでした。今までとは違う楽しみを探して、新たな挑戦もしたいと考えている時に、息子から新しい家の提案があったんですね」
息子で建築家の健太郎さんからの提案は、「自分たちだけではとてもできない発想」に満ちたものだったが、山﨑さん夫婦のリクエストを深く理解し、共感した上で練られたものだった。
山﨑さんから健太郎さんへの要望は、「自然とできるだけ共生できて、楽でシンプルな生活」。奥さんからは、「とにかく庭と一体となれるような家」というリクエストがあったという。
左右にずれながら25m続く家
庭と建物の関係がひとつの大きな肝となる計画。シンプルながら特徴あるこの住宅は、間口4mの玄関部分から入ると、そこから右に左にとずれながら仕切りのない1室空間が北から南へと裏庭まで25mも続く。
こうしたつくりにしたのは、まず庭との関係を考えてのこと。700m2近くあるという広い敷地で、北側に家を寄せ、南側に庭を設けると、大きな庭を前に、「どこから手を付けていこうか」ということになりかねない。また、庭との一体化という面でも難しくなる。
つまり、空間をずらして配置するという1つの操作で、家の周囲に小さな庭をいくつかつくり出し、かつ、通風、採光、間取りと構造がすべて解決できるというもので、しかもこれはコスト的に見てもとても合理的なものだという。
建築をつくり込まない
「この建築は2人がもっと楽しくやるために背中を押すようなくらいがちょうどいいんじゃないか」と考えた健太郎さんは、空間を完璧につくり込むのではなく、お2人が自分たちの手で空間を豊かにすることのできる余地を残したという。
家の周りにできた小さい庭に、その健太郎さんの考えがよく表れている。
「寝室の脇の庭にはこういうお花を入れようとか、リビングから見えるお庭はこういうふうにしてみようか、といった具合に、自分でもいろいろ発想が膨らむような仕掛けだけをしておいて、あとは“お母さん、ご自由に、長い時間をかけて自分たちのお庭をつくっていってくださいね”と」
自然体の庭
その庭は竣工時にはまばらだった植栽が今ではほどよい密度にまで増えている。しかもとても自然な感じでしっくりと建物になじんだ風情が素晴らしい。
そして、ターシャ・チューダーの庭が好きという奥さんの、気取らず、あくまでも自然体で接する姿勢が伝わってくる。
丹精を込めて育てているこの庭から、奥さんはエネルギーをもらっているという。「育てることによって、エネルギーをもらえるんですね、育てるということに対して、庭が返してくれるんです」
サックスと読書の空間
一方、山﨑さんは、新築を機に、アルトサックスを始められたという。「おやじも楽器ぐらいなんかやってみたら」という健太郎さんとのちょとした会話をきっかけに 一念発起。南端の、はるか遠くまで眺めのきく、この家でいちばん開放感のある部屋で多い日は2時間ほどサックスを吹くという。
日々、それ以上に費やしているのが読書。歴史小説を中心に、3~4時間ほど読む時間を割いている。この部屋は読書環境としても最高で、「密閉された空間ではなく、気持ちいいほど前がバーッと空いていますから、そういう中でゆっくりと本を読むのが好きですね」と山﨑さん。
設計 山﨑健太郎デザイン ワークショップ
所在地 千葉県佐倉市
構造 木造(一部鉄骨造)
規模 1階建て
延床面積 94.67 m2