Green
庭の自然を眺めながら料理教室を明るくひらかれた家から
自宅でつくれるフレンチを発信
いつか料理教室を
緑が多く落ち着いた住環境の東京都国分寺市。戸建が並ぶ閑静な住宅街に、宇山民枝さんご夫妻が暮らす家はある。広々とした敷地内には、民枝さんのご両親の家もあり、見事な梅林や竹林を備えた広大な庭を、二世帯でシェアして楽しんでいる。
「ここに住む前は、主人の仕事の関係でシドニーに住んでいたんです。帰国をきっかけに、私が生まれ育った実家の敷地に家を建てることにしました。主人もこのロケーションをとても気に入っていたそうです」と民枝さんは話す。
家を建てるにあたり、民枝さんの頭にはある計画があった。それは、自宅で料理教室を開くこと。「夫婦そろって食べることが大好きで、日本でもシドニーでも色々なレストランに行っていたんです。そのうちフレンチに凝って、作り方を勉強し始めました。ホームパーティーで料理を振る舞うのも好きで、いつか料理教室を開きたいと思っていたんです」。
そんな民枝さんの、思い立ってからの行動力は見事だった。帰国後すぐ、フランス料理教室「ル・コルドン・ブルー」に通い、厳しいレッスンを主席で卒業。家が建ったその年に、念願だったフランス料理教室「Tammy’s kitchen」を始めた。
人が楽しく集える家
「この家は最初から、料理教室の生徒さんや友人が訪れることを考えてつくりました」と話す民枝さん。設計の担当者には、バブリックエリアとブライベートエリアをはっきり分け、ゲストも住人も居心地よく過ごせる家にして欲しいと要望を出したそうだ。
もちろん、民枝さんの仕事の要となるキッチンにもこだわった。「生徒さんが調理の様子を見やすいように、大きなアイランドキッチンにしました。とにかく使いやすく、無駄のない動線、大容量のオーブン、ガスとIH両方使えること、など色々な希望を詰め込みました」。
宇山邸は、東京では珍しい平屋建てで、庭を囲むコの字型になっている。「庭を楽しめるようにと、設計の方がこの形を提案してくれました」。土地の広さを生かした広々としたつくりの家では、ゲストもゆったりとくつろげる。
恵み多き庭
宇山邸の広い庭には梅の木がたくさん。毎年時期になると、見事な花が咲き誇る。「実も大量になるので、梅酒や梅ジャムをつくったり、青梅を煮たりします。あと、フレンチではないですが(笑)、醤油に梅を漬けておくと、梅フレーバーの付いた醤油ができるんですよ」と、民枝さんはさまざまな活用法を教えてくれた。
春にはふきのとうや竹の子も収穫できるそうで、新鮮な旬の味覚が食卓に彩りを添える。
「庭を眺めていると穏やかな気持ちになります。料理教室の生徒さんも、窓の外の景色を楽しんでくださっています」。民枝さんが子どものころから慣れ親しみ、遊んでいた庭が、今も彼女のライフワークを見守っている。
家庭でつくれるフレンチ料理教室
民枝さんが料理教室の舞台に自宅を選んだのにはわけがある。それは、「自宅ではつくれない」「難しい」と思われがちなフレンチを「自宅でつくれるもの」にすることだった。彼女が考案するレシピには、特殊な厨房機器や調理器具は出てこない。食材も、基本的にスーパーマーケットで買えるものだ。一方で、味と見た目はフレンチレストランそのもの。「生徒さんから『家でも美味しくつくれて、家族に喜ばれました!』という声を聞くのがなによりうれしいです」と民枝さんは微笑む。
フレンチの魅力である繊細な盛りつけを大切にされている民枝さん。そんな彼女は食器が大好きで、特に有田焼には目がないそうだ。「『カマチ陶舗』という有田の窯元の食器を集めています。色々なフレンチレストランで目にしていて、素敵だなあと思っていたんです。一般販売はしていないのですが、ゴールデンウィークの有田の陶器市にだけは出店すると知って、毎年行ってまとめ買いしています」と楽しそうに教えてくれた。
民枝さんのレッスンはデモンストレーション形式。生徒さんは、先生である民枝さんの調理の様子をじっくり見て、覚えて、お料理を味わって、帰る。「生徒さんには、気負いせず、楽しくリラックスした時間を過ごして欲しいと思っています。だから洗い物もなしです!」。
「Tammy’s kitchen」には、料理初心者から上級者まで、20代から70代まで、実にさまざまな生徒さんが訪れるそう。この家はこれからも多くの人に、フランス料理の魅力を発信し続けていくのだろう。