Green
プロが伝授する“植物が育つ家” 思い入れのある家具と
花や緑に寄り添う暮らし
植物が育つ環境を作る
東京・中目黒で花屋『farver』を営む渡辺礼人さんと安樹子さん夫妻。7歳の娘さんとイングリッシュ・コッカー・スパニエルのナナちゃん(メス・4歳)と暮らすご自宅は、グリーンや花が生活になじみ、“植物のプロ”ならではの手法が随所にのぞく。渡辺さん夫妻の家づくりは、植物を取り入れた暮らしを前提にスタートした。
「植物が育つには、日当たりと風の抜けが大切です。土地を決めてからはしょっちゅうここに来て、太陽の動きをチェックしていました。花市場から戻ってきた朝6時頃に来て、どこから日が昇り、どのように動き、季節によってどのように変化していくか、ずっと見ていましたね。そのうえで、窓の位置や大きさを細かく指定したのです」(礼人さん)。
家族が長く過ごすリビング・ダイニングは日当たりのよい2階に配置。高い天井にこだわり、開放感を重視した。東側と西側に天窓を設け、大きな掃き出し窓には全開できる折れ戸を採用した。
「隣が駐車場なので、目隠しのためにバルコニーには壁を設けました。両側を開け、風の抜けを確保。空気がよどんだところでは植物は育ちませんからね。屋根を付けないことで雨や日照条件もクリアしました」(礼人さん)。
昨年夏には、家族3人で、壁や梁を塗ったという。「砂が混じった塗料なので、程よいムラ感が気に入っています」と礼人さん。
「光の当たり方でグレーっぽく見えたり、ピンクっぽく見えたり。1日の陽の移ろいや天候によって表情が変化します。照明をつけない日中もいいですが、照明をつけた夜はコントラストが効いてまた素敵ですよ。壁自体に陰影がつくと、飾っている植物やものも生きてきますね」(安樹子さん)。
“植物のプロ”のコンセプトハウス
この家を建てたのは4年ほど前。
「当時は、植物のプロが自宅ではこのように植物を育て、飾っていますよ、とリアルに生活に取り入れている様子を伝えていきたいという思いが強かったんです。コンセプトハウス的なイメージもありました」と話す礼人さん。
以来、ご自身たちの勉強も兼ねて、実験的に育てたり、活けたりしている植物もあるという。「お客様に提案するためにも、経験しないと説得力が違いますからね」。
玄関のアプローチに始まり、三和土、書斎、リビング、子ども部屋など、どの部屋も花やグリーンで彩られている。主張しすぎることなく、その場にすっと馴染んだ植物が、心をほぐしてくれる。
「たくさん活ける必要はなく、ちょっとしたところにあると、空間の角が取れ、気持ちがやわらぎますよね。目線の高さや奥行を固定させないようにジグザグに物を置き、植物を飾っています。より立体的に、奥行き感を出すことが飾るポイントですね」(礼人さん)
愛着のある家具たち
木をベースとした使い込まれた北欧テイストの家具に、少しモダンなテンションを加えた絶妙なバランスが心地よさを生んでいる渡辺邸。家具のほとんどが以前のマンション時代から使われていたものという。
「結婚してから妻と一緒に揃えてきたもので、どれも思い入れがあります。どこに何を置くか考えながら設計を進めていきました」(礼人さん)。
リビングでさりげなく存在感を放っているのが『TRUCK』のソファ。
「もともと『TRUCK』の家具が好きで、大阪のお店まで足を運んで実際に見てきたものの、即決できる価格ではなくて。迷った挙句、娘が生まれた“出産祝い”ということにして、購入を決めました」(安樹子さん)。
細長いダイニングテーブルは9年近く愛用しているとのこと。フランスのビンテージで、恵比寿の『RECTOHALL』で出会ったもの。
「『RECTOHALL』はお店の什器などもよく買っていたところです。清潔感のあるビンテージものが多く、空気感が好きなんです」(礼人さん)。
現在、テレビ台として使用しているラックは、安樹子さんの友人が結婚祝いに作ってくれたもの。ほかにも、以前経営していた観葉植物の店で使用していた什器などを上手に再利用している。
また、整理整頓上手な安樹子さんが、見せる収納、隠す収納をバランスよく用い、どこを見てもすっきり美しい。丁寧な暮らしぶりが伝わってくる。
玄関は明るいギャラリー空間
実家を出てから、長年マンション暮らしだったという礼人さんと安樹子さん。
「マンションの玄関は、暗くて閉塞的なので、戸建てを建てるときは広くて圧迫感のないスペースにしたいと2人で話していました」(安樹子さん)。
玄関を入ると、1畳ほどの三和土があり、正面の書斎が目に飛び込んでくる。玄関脇の造作の棚や書斎に置かれた什器には、「物が好き」という礼人さんのコレクションである大小の花器や天然石、流木などが飾られ、まるでギャラリーのようである。
書斎に置かれた大きな什器は、以前営んでいた店で使用していたもので、碑文谷のインテリアショップ『JIPENQUO』で購入。
「和物の家具のリペアなどもしていて、オーナーさんの趣旨が伝わってくるかっこいいお店です。絵になる収納家具も多く、空間づくりの参考にもなり、よく使わせてもらっていました」(礼人さん)。
インテリアが好きで、アンティークやインテリアのお店めぐりが「目の保養」という礼人さん。渡辺家の家具はほとんど礼人さんが選んでいるとのこと。
「お店づくりを見てきて、好みのテイストも近く、安心して任せられます」と安樹子さんからも絶大の信頼を得ている。
1階の天井はあえて低く
「2階の天井を高くするために、1階の天井は通常よりも低めに設定しています」と礼人さん。1階と2階のギャップにより、2階はさらに開放感を感じる仕掛けになっている。
1階の1番奥に位置するのは寝室。「天井が低い分、とても落ち着き、よく眠れますね」とお2人。
寝室の手前は子ども部屋で、アンティークのデスクや椅子、箪笥が置かれ、娘さんの描いた絵が額装して飾られている。
「現在は、僕らが選んだ家具に囲まれ、親のエゴが出ている部屋ですが、いずれは娘が自由に変えていってくれればいいと思っています」(礼人さん)。
どこの空間を切り取っても、まるで絵のように美しい渡辺邸。
安樹子さんの特にお気に入りの場所は、「玄関」とのこと。「三和土の窓から差し込む光が木の影とともにキラキラと揺れる感じがすごく好きです。飾り棚をずっと見ていられます」と。一方、礼人さんは、「天気の良い日に2階のソファに座り、犬を抱っこしながら天井をぼーっと見ているのが至福の時」と笑う。
光と風の抜けを計算しつくし、愛着のある家具や植物に囲まれた心地よい暮らしは、何気ない日常の幸せに気づかせてくれる。