Hobby
ピロティと出窓でLDKが広々 サボテンとハンモックの
ある家で暮らす
敷地は小田原の海の近く
山口邸の敷地は小田原の海から歩いて3、4分ほど。漁港もすぐ近くに位置するこの場所は敷地近くで道路が行き止まりになっていて歩行者しか通ることができない。小田原市内で高級住宅街といわれているエリアだが、車が通り抜けできないことからか相場よりも安めで手に入れることができたという。
奥さんのみづ江さんの姉の野地さんが夫の玉井さんとともに建築家であったため、設計は姉夫婦に依頼した。敷地を見た玉井さんは「袋小路ということでネガティブに取る人もいいますが、家の脇までしか車が入ってこないので子どもを道で遊ばせていても安心だし、角地というのもいいんじゃないかと思った」という。設計者の目からすると、正面に延びる坂道のその先に丹沢の山並みが見えるのも魅力的に映ったという。
サボテンとこもれる部屋
みづ江さんは姉夫婦が手がけた建築を実物のほかにも本などで見ていたので設計は大部分をお任せでお願いしたというが、夫の洋平さんとともにこだわりの部分はしっかりと伝えた。
「わたしはとにかくサボテンが好きだからサボテンをたくさん置きたいということをまず伝えました。あとは好きにグリーンを置きたい。夫のほうは個室がほしいということで、この2つが大きかったと思います」
洋平さんは「こもれる部屋」を強く希望した。「広さはどうでもいいので、とにかく空間を全部遮断してくださいとお願いしました」
ピロティと出窓
野地さんと玉井さんのお2人はサボテンを愛でる空間は2階のLDKとし、2階には他に寝室とバス・トイレを配した。1階は車を3台停めたいという希望があったため半分以上をピロティとしそのほかに洋平さんの個室と倉庫、トイレをつくった。
隣の家などは道路側に車を置くつくりだが、そうすると建物を建てるエリアが小さくなって床の広がりを取ることができない。そこでピロティ形式にして2階は建ぺい率いっぱいに床面積を取って広く使える空間にしたという。
ピロティとともにこの家の大きな特徴となっているのが全長で幅9mほどの出窓だ。出窓は一定の条件をクリアすれば床面積に入れなくてもよい。この丹沢の山並みに向けてに開けられた出窓が、ふつうに建ぺい率いっぱいにつくるよりも、2階に広がり感を与えている。
LDKから寝室側にL字に曲がりながら続くこの出窓、室内側にもガラス戸を設けてサンルームのようにしている。このスペースにサボテンとそのほかのグリーンを置いているためLDKにいればそれらをつねに間近に感じることができる。このスペースにはまた120mm角の斜材が入っていて空間の大きなアクセントになっているが、これは下の隅柱を省くために必要なものだったという。
「1階ピロティの隅の柱を無くすためにトラスを組んでいます。このトラスをよけて窓をつくると小さな窓をいくつもつくることになってしまうのですが、窓を外に押し出して出窓にしたので窓自体を大きく取ることができました」(玉井さん)
ハンモックを吊るす
1階をピロティとしまた出窓をつくることで2階の広さを十分取ることができたため、みづ江さんがサボテンを置くこととともにこだわったというハンモックも余裕をもって吊るすことが可能になった。
「子供を産むまでハンモック研究会というのを10年ぐらいずっとやっていて、サボテンはその研究目的でメキシコにいったときに魅力に取りつかれてしまったんです」(みづ江さん)
玄関に入る前から家のなか
2年ほど前に竣工した山口邸。洋平さんは2階のLDKについて「くつろぐことを考えたときに、ここはいろんな場所で横になれる。以前住んでいたアパートではくつろげる場所はだいたい決まっていたんですが、そこでごろごろしたりあそこでごろごろしたりというのができるんです」と話す。
洋平さんに念願だった個室について聞くと、「こもれるだけでなく使いやすく、とても気に入っている」という。さらに続けてこんなことも話してくれた。「アパート暮らしが長かったので余計感じるんだと思いますが、車でピロティのところまでくるともうすでにそこが家のなかという感じがするんですね。それでドアツードアでそのまま自分の部屋に入れる。部屋までがずっとフラットなので、そのすごいスムーズな感じがとても心地いいですね」
話しかけられやすい家
家の前にはサボテンやアガベを植えたロックガーデンがつくられているが、これが家族だけでなく家の前を通る人たちの目も楽しませているようだ。
「越してきたばかりの頃に、散歩しているおばあさんが庭をよく見てくれていて“いつも楽しませてもらっています”と話しかけてきましたね」と洋平さん。みづ江さんは「サボテンが花が咲くのを知らない人が多くて、花を見て驚かれて“お花咲きましたね~”とかもよく言われます」と話す。
洋平さんは「話しかけられやすい家になっている」というが、これはロックガーデンをつくっただけでなく、1階をピロティにして街に対してオープンなつくりにしたことも大きく作用しているのだろう。
山口邸
設計 玉井洋一+野地智美
所在地 神奈川県小田原市
構造 木造
延床面積 119.24㎡