Kitchen
故郷の文化に心酔オープンな空間でつながる
家族と故郷への思い
開放的なイランの家をイメージ
テヘラン出身の聡美さんが、日本人の夫、ふたりの息子とともに暮らす家は、東京ののどかな郊外に建つ。5年前に新築。家の設計には、イランの生活様式を取り入れたいという、聡美さんのアイデアが活かされた。
「初めて日本に来た時、家が狭いことに驚いたんです。私の母や親戚が来日したときも、一番驚いたのはその点でした。以前はマンション暮らしだったこともありますが、天井が低いのと、部屋の間仕切りが多いのがやはり気になって。イランはリビングとキッチンが広々としていてオープンなんです。そういう解放感のある空間にしたかったですね」
35・6畳はあろうかと思われるリビング&キッチンは、耐震の関係で設計士がゆずらなかったキッチン前の仕切りを除いては、さえぎるもののない広々とした空間。開口部も多く設けられ、四方から明るい日差しが差し込む。さらに2階のベッドルームまで吹き抜けにして、天井高も確保。
「吹き抜け部分の2階の窓は、息子たちの部屋の窓なんです。下のリビングにいても声をかけられるようにつけてもらいました。どこにいても閉塞感がないようにと考えましたね」
イスラムの文化を取り入れて
白い床にペルシャカーペットもイランスタイル。ソファーは広い空間に向かい合わせに置かれ、それぞれのソファー前に、小さなテーブルがいくつか設置されている。
「イランでは家族や親戚、友人が集まることが多いんです。対面するようにソファーに座って、ナッツなどを食べながら歓談します。大きいテーブルがあると邪魔なので、脇にちょっとグラスなどが置ける小さいテーブルがあれば充分だと思いましたね。これもイランスタイルかもしれません」
帰国する度に買い集めたイランの調度品や、タペストリーを使った壁掛けなどもエキゾチックなムード。取材で訪れた日はイランのお正月ノウルーズに近く、7つの“S”の頭文字のものを飾るハフト・スィーンのテーブルも備えられていた。
家族とのつながりを大切に
「私自身が子供の頃、祖母の家で過ごした楽しい思い出があって、それを再現したいという気持ちがありました。私の希望が活かされたのは、みんなで集まれるリビング&キッチンと、あとは屋上! 祖母の家の屋上で、テントを張って、おしゃべりしながらみんなで一晩過ごした、とても楽しい思い出があるんです。だから家をつくるときは、絶対に屋上が欲しいと思いました」
夏になると、さえぎるものの何もない広々とした屋上でバーベキュー。そしてテントを張り、4人で朝まで眠るのだとか。家族の絆の強さが伺える暮らしぶりだ。
ペルシャ料理を日本に伝える
自宅で料理教室も開く聡美さん。あまりなじみのないペルシャの家庭料理の味を学びに、遠方からも生徒が通う。
「ペルシャ料理って辛いイメージがあるみたいなのですが、香辛料は使わず、味付けは塩、こしょう、ターメリックを使ったシンプルなものです。日本人にもなじみやすいと思いますね」
この月は、イランのお正月料理が教室のメニューだった。鯛の中に、ドライフルーツやプルーン、炒めた玉ねぎ、刻んだくるみを詰め込み、オーブンで焼いた豪華な逸品は、甘みと酸味、歯応えのあるものとないものなど、様々な食感が絡み合う。
食事の後は、イランのポットで入れる、濃厚な紅茶が生徒にも人気。
「下からの蒸気でゆっくりとお茶の葉を出すので、濃いけれど苦くない紅茶が出るんです。私の母はカルダモンを入れていたのですが、私はそれに加えて、庭で咲かせたバラやオレンジの皮をドライにしたものを入れて香りを出しています」
芳醇なお茶から漂うイランの文化を偲んでいると、次男の昌人くん(13)が帰宅した。家族のつながりを大切にし、故郷を思う聡美さんだが、ここ数年はイランに帰っていないとか。
「母が他界してからは、帰らなくなりましたね。でも、寂しくはないです。私の家族がここにいるし、今はここが私の家ですから」