Outdoor
パリ郊外カフェオーナーの家温めてきたアイデアを実現
庭のある一軒家
マンションでは得られない暮らし心地
フランスにもどうしても一軒家にこだわりたい、という人たちがいる。パリ郊外のマラコフに住むソフィーさんも、そんな一人だ。
大学生の長男と次男、中学生の長女、そして銀行マンの夫。自身は近所にカフェ兼雑貨店『ル・プチ・ラルース・マラコフ』を経営するソフィーさんのファミリーは、6年前に現在の一軒家に引っ越した。
「以前は250m2のアパルトマンに住んでいました。庭もありましたし広さも十分で、家族全員が満足していましたが、私はどうしても一軒家に暮らしたかったのです」と、ソフィーさん。
ブルターニュに生まれ育ち、のんびりとした田舎暮らしの快適さに慣れ親しんできた彼女は、パリで学生生活を始めてからも一軒家に憧れ続けたという。
「家探しを始めて、以前住んでいたアパルトマンのすぐそばにこの家を見つけました。L字型の庭に、築年数ざっと90年の一戸建て、という物件。キッチンを増築すれば、ブルターニュの実家のようにガレージとキッチンをつなぐことができる、と判断し、購入を決めました」
改装工事はハプニングが多くクタクタになったが、1年間の工事の末、温めてきた希望を全て満たす住まいが完成した。
日々の便利さ・快適さにこだわる
しかし引越し当初、子供達はあまり乗り気ではなかったという。それまでの住まいが実に快適で、住み替えの必要を感じなかったからだ。
「確かに今思い出しても、あのアパルトマンは素晴らしかったです。ただ、それは一軒家ではありませんでした(笑)。幼少期に育まれた私のこの価値観ばかりは、どうしても変えることができませんね。でも今では私だけでなく、家族全員がこの家を気に入っています。一軒家ならではの開放感や自由の実感は、実際に暮らしてみるとよくわかりますから」
玄関を入ると、ガラスの仕切りの向こうにキッチンが見える。右側に広がるリビングは、ざっと70m2。もともとはここにキッチンを含む6部屋があったが、壁を全て取り壊しワンルームに作り変えた。増築したキッチンはウッドデッキにせり出し、庭の緑を取り込んでサンルームのように明るい。そして壁の黒いドアを開ければ、そこがガレージになっている。
この、キッチンから直接ガレージにつながるレイアウトは、一軒家を造る際に是非実現したかったソフィーさんの希望の1つだ。
「『ル・プチ・ラルース・マラコフ』で出す料理をこのキッチンで作って、車に積んで搬入して、という一連の作業がスムーズにできることは、毎日の問題ですからとても重要です。キッチンとガレージが直結しているおかげで、どんなにストレスが解消されていることか! 雨の日に買い物をしても濡れずに荷物を家の中まで運べますから、この便利さにはこだわって本当に良かったと思っています」
長く住みたい、一生の家づくり。
ソフィーさんのもう一つのこだわりは、洗濯物の回収口。2階にあるバスルームに設置した。
「ばかばかしいかも知れませんが、友達の家でこれを見て以来、自分が家を建てる際にも絶対に採用しようと決めていました。バスルームの作り付け棚の扉の一つを開けると大きな穴が空いていて、そこから地下の洗濯ルームまで煙突のようにつながっている、というだけの仕組みです。子供達は洋服を脱いだら、ここにポイと放り込めばいい。使ったバスタオルも同じです。大工さんに説明した時はびっくりされましたが、これも採用して大正解でした」
これまで心に書き留めてきた様々なアイデアを盛り込んだ現在の家は、ソフィーさんにとっては自身の人生経験と夢を反映させた理想の集大成といえる。住空間の面積はトータルで約250m2、庭を含む敷地面積は360m2とかなり広いが、将来子供達が独立し夫婦2人きりになってもずっと住み続けたいと語る。
「多くのパリジャンが、結婚して子供が生まれると郊外に移り、そして子供達が巣立った後はまたパリに戻って夫婦2人でアパルトマン暮らしをしたい、と考えています。でも私はそう望みません。なぜならマラコフはほとんどパリのようなもので何の不便も感じませんし、第一私はいつでも自転車でパリ中を移動しているくらいです。それに先々孫ができた時、小さな孫達を大勢呼べる広い家があるのはいいですよね」
自分のために、そして大きくなる家族のために。
バカンスが明けたばかりの9月のこの日、ソフィーさんと長男のユーゴさんはウッドデッキのテーブルで遅めのランチを取っている。新年度がスタートし社会は従来のスピードを取り戻したが、ソフィーさん宅にはバカンスのままののどかな風が吹いている。来週末は友人ファミリーを招き、庭でバーベキューをするという。何年か先、予算の工面ができたら未完成の屋上にも手を入れて、ソファを並べもう一つの住空間にする計画もあるそうだ。一軒家ならではの自由度を謳歌しつつ、ソフィーさんは毎日を暮らしている。