Outdoor
パリ郊外、2棟の工房を大改装外を取り込みアートと暮らす
画商の夫と、作家の妻の一軒家
子供達に庭のある生活を
作家のアンジェリック・ヴィルヌーヴさんは、2000年からパリ郊外マラコフの一軒家に住んでいる 。
「それ以前は夫の仕事の関係で、家族5人スウェーデンで暮らしていました。かの地の住まいはご想像どおり広く快適で、もちろん庭のある一軒家です。パリに戻ることになった時、子供たちは6歳と8歳、そして10歳とまだ小さく、できれば庭のある暮らしを続けさせたい、と。夫も私も、幼少期の思い出は庭や大きな家と共にありますし、この希望は私たち夫婦にとって自然なものでした」
とはいえ、パリ市内に庭のある一軒家を購入することなど、予算オーバーであることは明らかだ。そこでパリ郊外、マラコフに目をつけたわけである。タイル工房と漆喰細工の工房、隣接した2つの工房が売りに出ていた。
「夫と下見に来た時は本当にひどい状態でしたが、私たちの予算を考えれば悪条件の物件を安く買って、改装するより方法はありません。その改装工事がどんなに大がかりだったことか! 瓦礫を運び出すだけでもトラックで30往復したエピソードから、ご想像いただけるかもしれませんね」
思いを優先した家づくり
それでも、自分たちの思い通りの家を作る改装一軒家プロジェクトを、家族全員が楽しんだという。工事中の写真には、色とりどりの長靴を履き、瓦礫の搬出を手伝う子供たちの姿がある。
「元々が工房だった場所ですから、その面影を残したいと思いました。とはいえロフト然とした内装は私の好みではなく、インダストリアルすぎるスタイルにも興味がなくて……。要は、家らしい住まいが好きなのです。加えると、当時フランスはオープンキッチン流行りでしたが、料理の匂いが家中に充満することにも抵抗がありました。自分の好みを優先して、住みやすい間取りを決められる自由度は、一軒家ならではの醍醐味だと思います」
建築家に希望を伝え綿密な打ち合わせをし、改装に着工。その7ヶ月後、アンジェリックさん家族のライフスタイルにぴたりと沿った現在の住まいが完成したのである。敷地面積が約200m2、庭が約160m2。1階にリビングとキッチン、夫の書斎、夫婦の寝室があり、2階に子供達の寝室が3つ、客用寝室兼アンジェリックさんの書斎、テレビルーム、バスルームが3つ、という間取りだ。
外を取り込むいい塩梅
玄関を入ると、壁という壁にアートを飾ったリビングが広がる。アートは画商である夫の仕事柄増える一方というが、雑多にならず、空間そのものが落ち着いているのは、どのアートにもいい居場所が与えられているせいだろう。広いリビングには仕切りがなく、窓辺のソファのコーナー、暖炉のコーナー、ダイニングコーナー、といった具合に、使い勝手の演出でもって空間分けがされている。そのせいで、だだっ広さがきわだつことはない。アンジェリックさんがこだわった「家らしい住まい」の暖かさ漂っている。
リビングの先、一段低くなったところは夫の書斎コーナー。壁を付けず、段差だけで空間を仕切っているため、窓から入る自然光も空間の広がりも遮られることがない。
「夫の書斎と夫婦の寝室の窓は、実は角度に工夫があります。建築家のアイデアで、庭の外の塀に直面する壁には窓を付けていません。庭に対角になる壁にだけ、大きな窓を付けました。こうすることで視界に広がりが生まれますし、その結果斜めになった窓からより多くの緑を家の中に取り込むことができます」
緑とアートに囲まれて
仕事を始めると一日中家の中にこもり、執筆に専念するアンジェリックさんにとって、外の緑を感じることは重要だ。ソファコーナーの窓辺には鉢植えの花を欠かさず、室内には常に切り花を飾る。切り花のない生活は、彼女には想像できないらしい。12月、さすがに庭は寂しげだが、それでも天気のいい日にはブランケットを出して、日向ぼっこがてらデッキチェアで読書をすることもあるという。
「塀全体がバラで覆われる5月の庭を、お見せできないのが本当に残念。友人をアペリチフに呼んだり、家族でテーブルを囲んだり、庭は私たち家族にとってとても大切な生活の場です 。成長してこの家を離れた子供達さえも、ほとんど毎週帰ってきては庭に出ているのですよ。第一、私たち夫婦が旅行に行くと、大喜びで猫の世話に飛んで来ます。もちろん住み込みで(笑)」
緑を取り込む広い家。アートに溢れる一軒家。ライフワーク、という言葉があるが、ライフとワークの仕切りがなくなりその二つが調和する様子を、アンジェリックさんの住まいに見るようだ。そしてワークがパッションでもあるとき、住空間はこんなにもぬくもりに溢れるものになる。
「 今でも夫と一緒に蚤の市に出かけます。アートもオブジェも増え続けそうですが、幸いに夫とはいつでも趣味があって、意見がぶつかるということがありません。これからも二人で100%賛成しあいながら、人生を一緒に作ってゆけることを幸せだと思っています」