Family
子育てにも優しいインナーテラスを最大限に活用
職住一体の心地良い暮らし
楽しみが広がるインナーテラス
自然豊かな住宅街の一角に、自宅兼アトリエを構えた建築家の加藤景さん・雪乃さん夫妻。住宅を設計するときに常に心掛けているのは、長い目で見て“暮らしやすい家”というお2人。そのコンセプトを明確に表現する家が完成した。
現在、4歳の陽くん、1歳11か月の直ちゃんの子育て真っただ中のご夫妻。景さんが強く希望したのは、2階に広めのインナーテラスを設けること。屋内のリビングとほぼ同じ広さで、屋根もしっかり深めに付けた。
「大きなリビングを造っても長年住んでいると慣れてしまいますが、屋外にもリビングがあるとできることが広がりますよね。今は子どもが小さいのでプールを置いたり、シャボン玉で遊んだりと、主に子どもの遊び場になっています。屋根もあるので、雨の日でも外で遊ぶことができ、子どもたちものびのび楽しんでいますね」(景さん)
また、雪乃さんは、「家事をしていても、目の届くところで子どもたちが遊んでいるので安心です。道路に出る心配もないですから」と。「体のいい檻ですね」と景さんが大らかに笑う。
「子どもが大きくなれば、また違った使い方ができると思いますね。イメージは東南アジアのリゾートホテル。多様な使い方ができ、贅沢に寛げる時間が過ごせるのではないでしょうか」(景さん)
来客人数や用途で変幻自在
2階リビングは、設計の打ち合わせやワークショップなどにも使用。ナラ材で造作した棚には、オモチャや絵本が楽しくディスプレイされている。これらは、陽くんと直ちゃんが遊ぶためだけのものではない。小さな子ども連れの来客も多いため、その子どもたちも自由に手に取り、遊べるようにと加藤さん夫妻の心遣いである。
オーク材のテーブルは、210cm×90cmの細長いタイプと、90cm×90cmの正方形タイプの2卓を造作。2つ並べると3mの長いテーブルになり、10人以上の来客にも対応可能にした。また、脚の長さも2タイプ用意し、人数や用途に合わせてダイニングテーブルあるいはローテーブルと使い分けている。
「外で使用できるちょうどよいソファがなかったので自分たちで造りました」というのが、テラスのベンチ。玄関まわりに使用して余っていた杉板で製作し、雨に強い屋外用クッションを置いた。アウトドアリビングとして活用することで、さらに多くの人数にも対応できる。
キッチンやバスルームは低コストに
雪乃さんがこだわったのは、「2階で家事を完結できること」。キッチンに隣接する位置に洗面所、洗濯機置き場、浴室を配置し、そのまま洗濯物を干すバルコニーへと出入りできるよう、リビングの開口とは別にドアを設けた。また、家族4人分のファミリークローゼットも2階に配置した。
「クローゼットは全てハンガー収納にしました。洗濯したらハンガーにかけて干し、取り込むときはそのままクローゼットにかけるだけ。たたむ手間が省けて、とてもラクです。ハンガー収納にして、子どもたちが自分で洋服を選ぶようになりました」(雪乃さん)
キッチンは、『TOTO』のリーズナブルなシステムキッチンをチョイス。ダイニング側にはシナ材を貼り付け、キッチン背面の棚の扉も同素材で造作した。LD側に座る来客からは、自然素材を使ったオリジナル感のあるキッチンに印象づける。
「キッチンやバスルームというのは、どんなに手入れをしても年月とともに傷んでいくものです。10年くらい経ったら思い切って入れ替えることを前提に考え、どのメーカーにもある定番サイズのシステムキッチンを入れています。そのときのお好みでイメージチェンジもでき、コストダウンにもつながりますよ」(景さん)
長く新鮮に住まう、ひとつの知恵といえそうだ。
家族の成長により変化する“飽きない家”
景さんと雪乃さんのアトリエは1階に配置。ひのきの玄関を開けると仕事の打ち合わせスペースがあり、左側は居住スペースとなる。仕事スペースは床にコンクリートを採用し、土足で行き来できるようにした。アトリエに続くスペースは20cm床を下げ、居住スペースと趣を変えて、気持ちの切り替えを促す工夫をしている。コンクリートの下には温水式の床暖房が入っていて、冬場はその場だけでなく、家全体をもほんのり暖めてくれる。
穏やかな環境に馴染んで建つ加藤邸。真っ白い外観に、玄関ポーチと屋根の軒天に用いた明るい色の杉板があたたかな個性を放っている。玄関へと続くアプローチには3か所の植栽スペースを設け、訪れる人を出迎える。
「最初はガーデンデザイナーの方に造っていただき、それから自分たちでプラスしています。子どもたちの“丸いのがいい”“ピンクが可愛い”という意見も取り入れながら植えていますが、こんなにハマると思いませんでした」(雪乃さん)
屋内外にあるグリーンが目に優しく、手足に直接触れて感じる自然素材が心地良い。家づくりのヒントも満載で、訪れた人に惜しみなく開放している。
「何十年も住み続ける家ですから、奇をてらったものよりも飽きの来ない家が重要だと考えます。自然素材だから生まれる経年美の趣を感じながら、家族の成長に合わせてこれからどのように変化していくのか、自分たちでもわからないだけに楽しみですね」(景さん)
加藤邸
設計 一級建築士事務所 アトリエけい
所在地 神奈川県逗子市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 111.38㎡(ロフト含まず)