Column

ニュー・ブーランジェリー-2-神田「ホーフベッカライ
エーデッガー・タックス」

神田万世橋「ホーフベッカライ エーデッガー・タックス」

ハプスブルク家御用達のベーカリー「ホーフベッカライ エーデッガー・タックス」が、神田万世橋に海外第一号店をオープンした。14世紀から営業をはじめ、1888年に王家御用達の称号を与えられて以降、当時のレシピを変えることなく伝統のパンや菓子を作り続けている老舗の味を日本でも楽しむことができる。

ハプスブルク家御用達のベーカリー

オーストリア第二の都市、グラーツをご存知だろうか。街の中心は中世から現代までを象徴する建造物が立ち並び、1993年に世界遺産に登録されたという古都だ。このグラーツ最古のベーカリーとして知られるのが「ホーフベッカライ エーデッガー・タックス」。14世紀頃には営業を開始したとされており、中世の面影が色濃く残るグラーツの中でも殊に時代の重みを感じられる老舗店だ。エーデッガー・タックスはその長い歴史だけではなく「ハプスブルク家御用達」の店としても広く知られている。1883年、ハプスブルク帝国の皇帝フランツ・ヨーゼフ1世にパンを献上し、1888年には王家御用達の称号を与えられ、その後、レシピの大半を変えることなく現代に受け継いでおり、かつての皇帝が愛したパンと同じものを現在も提供している。
焼きたてのパンの数々はグラーツに住む人々に愛され続けており、また、この店を目指してグラーツに立ち寄る観光客も少なくない。創業以降この1店舗だけで粛々と営業を続け、オーストリアはおろかグラーツの街から出たことがなかった、ホーフベッカライ エーデッガー・タックスが海外出店第一号の場所として選んだのは、東京の神田。1912年に誕生した赤レンガ造りの万世橋高架下は、歴史を重んじる空間そのものでもあり、下町を中心とした地元の人々や観光で訪れる人で賑わうという点でもグラーツと重なる部分が多い。9代目オーナー、ロベルト・エーデッガー氏はこの日本出店に際し、赤坂のウィーン菓子店「Neues」オーナーの野澤孝彦シェフとパートナーシップを組み、自らレシピを伝授したという。この日本店では14世紀から続く伝統の味と、ここでしか味わうことのできないオリジナルスイーツなど、日本限定メニューで訪れる人を出迎える。


オーダーは対面式。客とスタッフの距離が近いので、パンの特長やわからないことは聞きながら選ぶことができる。
オーダーは対面式。客とスタッフの距離が近いので、パンの特長やわからないことは聞きながら選ぶことができる。

店内は、ホーフベッカライ エーデッガー・タックスの長い歴史を感じさせるようなクラシカルなインテリアでレイアウトされている。
店内は、ホーフベッカライ エーデッガー・タックスの長い歴史を感じさせるようなクラシカルなインテリアでレイアウトされている。

オーストリアパンの魅力

私たちが日頃から親しんでいるパンの中には、オーストリアが発祥とされるものが少なくない。まず、オーストリアパンの中でもっとも有名なカイザーゼンメル。カイザーとは「皇帝」を意味し、パンの表面にある5本のカーブ模様が王冠のように見えることから名付けられ、オーストリア以外でもドイツ語圏内で広く一般に親しまれている。現在では効率化がはかられ、専用の機械や型を使って作られることが多いが、エーデッガー・タックスでは今でも職人の手で一つずつ成形されており、そのことから「ハンドカイザー」と呼ばれている。また、クロワッサンの原型とも言われる「キプフェル」はトルコ軍を破った勝利を祝い、三日月型に作られたという所以がある。そのほか、日本ではデニッシュとして親しまれている「プルンダー」もオーストリアが発祥。このプルンダーにクリームチーズを包んだ「トプフェン」も提供している。野澤氏はオーストリアのパンは柔らかすぎず、硬すぎないというバランスに富み、日本人が好きなふわふわ、もちもちとした食感を楽しめることも特長のひとつと話す。このようにパンを通してシンプルな素材の美味しさを楽しめるとともに、オーストリアの歴史や文化に触れられる点も興味深い。


ハンドカイザー(プレーン)200円。ハムやソーセージなどの具材を挟んでサンドイッチにしても楽しめる。
ハンドカイザー(プレーン)200円。ハムやソーセージなどの具材を挟んでサンドイッチにしても楽しめる。
キプフェル250円。本場オーストリアでは食事パンとしてはもちろんのこと、おやつとしても親しまれている。
キプフェル250円。本場オーストリアでは食事パンとしてはもちろんのこと、おやつとしても親しまれている。
ハンドカイザーはプレーン以外にも塩が効いた「ザルツ」や、「けし」、「ゴマ」もラインナップ。各220円。
ハンドカイザーはプレーン以外にも塩が効いた「ザルツ」や、「けし」、「ゴマ」もラインナップ。各250円。
ザルツシュタンゲル220円。岩塩とキャラウェイシードを表面にまぶした細長い形のパン。口に含んだ瞬間、爽やかなハーブの香りが広がる。
ザルツシュタンゲル250円。岩塩とキャラウェイシードを表面にまぶした細長い形のパン。口に含んだ瞬間、爽やかなハーブの香りが広がる。


チーズを巻き込んだケーゼシュタンゲルやチョコレートが入ったショコキプフェルなど約20種類のパンが並ぶ。
チーズを巻き込んだケーゼシュタンゲルやチョコレートが入ったショコキプフェルなど約20種類のパンが並ぶ。

日本限定のオープンサンドや、
美食の街の魅力を詰め込んだケーキ

日本店のみで実現したレシピもある。「本店と違うスタイルに挑戦したい」というエーデッガー氏の意向で開発されたオープンサンドがその一つだ。オーストリアでは子どもから大人まで広く親しまれている食べ物で、ちょっとした小腹を満たしたり、ビールやワインと一緒にアペリティフ感覚で楽しまれている。エーデッガー氏はこのオープンサンドのため、パンの開発から着手。ハムやサーモン、野菜など素材の味を引き立て、時間が経っても具材の水分を奪わず一体感を残したまま食することができるように特別に作られたという。具材はオーストリア産の生ハムやベーコンのほか、新鮮な野菜やスモークサーモンなどが色鮮やかにトッピングされており、選ぶ楽しさも味わえる。

また、グラーツはオーストリアの台所とも言われるほど食材の宝庫として知られるシュタイヤマルク州の州都であることから、この土地の代表的な食材をスイーツで表現したオリジナルケーキ「エーデッガートルテ」も登場。オーストリアでごく日常的に食されるパンプキンシードをキャラメルクリームと合わせ、赤ワインに浸したレーズンをチョコレート生地の中にしのばせた、いくつもの味わいが楽しめるケーキだ。

ベーカリーだけではなく焼き菓子でも大変な人気を誇るエーダッガー・タックスらしく、オーストリア菓子のラインナップも豊富。マリー・アントワネットの好物としても知られるクグロフは、2、3口で食べられるよう日本ではミニサイズにアレンジされている。そのほか、女王エリザベートのために開発された一口菓子「シシーブッセル」も人気を集めている。こちらはヘーゼルナッツを混ぜ込んだ生地の中にアプリコットジャムが入った菓子で、コロンとした形が特徴。上品な酸味を楽しめるスイーツだ。


スライスした特製のパンの上に、スモークサーモンやホワイトアスパラ、ハムやチーズ、イチヂクやモモなどがたっぷりとのったオープンサンド 350円〜。(具材は日によって変更)
スライスした特製のパンの上に、スモークサーモンやホワイトアスパラ、ハムやチーズ、イチヂクやモモなどがたっぷりとのったオープンサンド 350円〜。(具材は日によって変更)
エーデッガートルテ540円。ワイン愛好家であるロベルト・エーデッガー氏にちなんで赤ワインに浸したレーズンがアクセントになっている。
エーデッガートルテ540円。ワイン愛好家であるロベルト・エーデッガー氏にちなんで赤ワインに浸したレーズンがアクセントになっている。
ショーケース上段に並ぶのは「マジパンクグロフ」。パンプキンシードやオレンジピール、レーズンの3種類を用意。中央右には「シシーブッセル」が並ぶ。ケーキは期間限定の味も登場。通うたびに新しい味と出会うことができる。
ショーケース上段に並ぶのは「マジパンクグロフ」。パンプキンシードやオレンジピール、レーズンの3種類を用意。中央右には「シシーブッセル」が並ぶ。ケーキは期間限定の味も登場。通うたびに新しい味と出会うことができる。
東京メトロ銀座線神田駅6番出口より徒歩2分、JR線秋葉原駅電気街口より徒歩4分。
東京メトロ銀座線神田駅6番出口より徒歩2分、JR線秋葉原駅電気街口より徒歩4分。

ホーフベッカライ エーデッガー・タックス
東京都千代田区神田須田町1-25-4 マーチエキュート神田万世橋 S3区画
月〜金 8:30〜21:00
土 11:00〜21:00
日・祝 11:00〜20:00