Column
街の本屋-2-本の楽しさを伝える、
荻窪の「Title」
街で親しまれている本屋を紹介する後編。今回は2016年1月にオープンして以降、本好きの間で高い人気を誇る荻窪の「Title」へ。
駅から約10分ほど歩くと、看板建築風の建物が懐かしい「Title」が見えてくる。この店を切り盛りするのは辻山良雄さん。それまで長らく、都内の大型書店に勤めていた人物だ。組織から離れて独立し、自分の店を開こうと思った理由を聞いた。「大型書店に限らずですが、本が売れなくなると、さまざまなところで予算を削っていかなければならなくなります。そうすると売り場は疲弊して、本そのものがおもしろく見えなくなってしまうんです。でも、いい本はいい。だからその良さをきちんと伝えられたらと思い、自分で新刊の書店を作ることにしたんです」
当初は鎌倉や松本も候補に上がったというほど、出店場所は特に決めていなかったという。ある程度の人通りがあるところがいい、とぼんやり思っていた矢先にこの荻窪の物件と出会った。もともと鶏肉屋の店舗兼住居として使われていた建物で、年季の入った木の梁が気に入った。知り合いの大工に頼んで、なるべく元の状態を生かし、小さな本屋を完成させた。ここに自分の目が届く範囲で、勧めたいと思う本だけを並べる。さまざまな世代の人に響くよう人気の小説から、実用書、雑誌、マンガ、リトルプレスなど幅広いジャンルの本など約1万冊を取り揃えている。
当初は鎌倉や松本も候補に上がったというほど、出店場所は特に決めていなかったという。ある程度の人通りがあるところがいい、とぼんやり思っていた矢先にこの荻窪の物件と出会った。もともと鶏肉屋の店舗兼住居として使われていた建物で、年季の入った木の梁が気に入った。知り合いの大工に頼んで、なるべく元の状態を生かし、小さな本屋を完成させた。ここに自分の目が届く範囲で、勧めたいと思う本だけを並べる。さまざまな世代の人に響くよう人気の小説から、実用書、雑誌、マンガ、リトルプレスなど幅広いジャンルの本など約1万冊を取り揃えている。
「今の人に今の本をすすめる」が信条の辻山さん。まんべんなく揃うジャンルの中でも、特に「生活の本」が揃っているという。それは衣食住に限らず、働き方だったり、哲学だったり、その人の暮らしを少しだけ豊かにしてくれる本のことを指す。時代の流れとともにライフスタイルの多様化は進み、ものの選択基準は人それぞれ変わってくる。「自分にとって何が大切か」を見つめなおすきっかけになる、そんな本だ。また、本好きの間で店の評判が広まり、本の持ち込みも増えているという。自作のZINEを置かせてほしいと遠方から足を運ぶ人も少なくない。さまざまな本好きがここに立ち寄って、それぞれの本を選んでいく。迷ったときはリクエストに答えて、辻山さんが本を選ぶこともあるという。遠方に住む本好きの人のために実店舗で売るだけではなく、ウェブショップも作った。毎日twitterに「毎日のほん」と題して、おすすめの1冊をコメント付きで紹介している。「受動的にお客さんが入ってくるのを待っているだけでは成り立たない」と辻山さん。本の魅力をきちんと伝えるためにも、SNSを駆使し、積極的に情報を発信している。
「正直に言って、新刊はどこででも買えます。都心の大型店にもあるだろうし、ネットで注文すればすぐに届く。でも、そういっていたらここで本は売れません。ここにしかない本、ここでしか体験できないことを用意する必要があります」。そう話す辻山さんはこの場所でさまざまな企画を手がけている。2階のギャラリースペースでは、本の装丁を手がけるデザイナーや、挿絵を担当した作家などを迎えて、本と親和性の高い作品を展示。作家のファンが展示を見たあとにここで本を選んでいくことも少なくないという。また、周辺の古書店に声をかけ、古本市を行うこともある。本の販売スペースでは、作家を招いてトークショーも開催する。さらに、1階の奥にはカフェを設けた。買ったばかりの本をすぐに読むことができ、また、本選びに疲れた時にはちょっとした休憩もできる場所だ。このスペースは辻山さんの奥さんが担当。厚焼きのフレンチトーストや「bocca」のスコーンやパイなど本を片手に食べられる軽食を用意するほか、吉祥寺の「コーヒー散歩」の豆のコーヒーを浅煎りと深煎りで提供している。「Title」では、本という一つのメディアを通じて、さまざまなコミュニケーションが生まれている。スマートフォンが普及したことで、情報は今まで以上に検索しやすくなったが、ネットで自分の興味のあるものだけを拾い集めるのではなく、今まで接点のなかった分野や事柄にも偶然出会うという本屋ならではの楽しさを改めて教えてくれる場所だ。