Design
ボタニカル・ライフいけばなで養う感性
Tumbler&FLOWERS
今、植物を購入できるのは花屋やホームセンターだけではない。インテリアショップはもちろん、カフェやアパレルショップでもコーナーが設けられ、植物はインテリアの一部として、私たちの生活により近くなった。今回は、独自の切り口で植物を取り扱う店舗を2軒紹介。前編は、いけばな教授者が開く、いけばな教室・花店の「Tumbler&FLOWES」。
Tumbler&FLOWERS—名前の由来
表参道の閑静な住宅街にひっそりと佇むヴィンテージマンション。この1室に居を構えるのがTumbler&FLOWERSだ。事前予約制のいけばな教室・花店として2012年春にオープンして以来、クリエイターやデザイナーなど感度の高い人を中心に人気を集めている。「いけばな」と聞くと、古臭くかしこまったイメージが先行してしまいがち。しかしこちらでは、私たちが普段から見慣れている花(=花屋に並ぶ花)を使い、いけばなの手解きを受けることができる。「せっかくレッスンを受けるのだから、自分で選び、いけた花を自宅でも飾られるようにしたかった」と語るのは主宰の渡来徹さん。自身がいけばなの道を歩みはじめたとき、授業で使われるクラシックな花材と自宅のインテリアにギャップを感じ、もっと今の生活に沿った花で学べる教室を開きたいとかたちにしたそう。また、「花器はなくても構わない」とも。茶碗やカフェオレボウルなど日用雑器に剣山を据えれば、なんでも花器になるという。Tumblerという店名も、生活の中で水に近いものを考えたときに“タンブラー”が一番初めに思い浮び、名付けたんだとか。私たちの暮らしに馴染みのあるアイテムを花器に見立て、見慣れた花を立体的に生ける。それがT&F流、花の嗜み方だ。
いけばなで育てる感性
Tumbler&FLOWERSのいけばな教室では、70種類程ある花の中から、まず生徒が1本の花を選び、渡来さんが取り合わせしてレッスンがスタート。なぜ1本目は生徒が選ぶのか? それは、予め用意された花ではなく、自分で選ぶことでより興味を抱くから。対象をよくみて、特徴を捉える。自分なりに好きなところを見つけて、そこを生かす。一目見て「かわいい」「おしゃれ」で終わらせず、その花のどこが好きなのかをとことん観察し、考えて、良いところを引き出そうとすることが大事だという。実は渡来さん、以前はファッション誌の編集者・ライターとして活動していた経歴の持ち主。その観察力は取材や撮影を重ねていた時代に培われたもの。自らの経験をいけばなに落とし込み、独自の解釈を加えた。いけばなの基本のルールには、日本人の美意識とバランス感覚が集約されており、その教えをある種の公式として学べるのは非常に有益なことだという。いけばなは、いくつもの選択の連続。花の選び方に始まり、はさみの入れ方、抑揚の付け方、間引き方。自分で問いを繰り返しながら、美をつくりだす作業は普段の生活にもいかされる。いけばなや植物を通じて養われる感性は、料理の盛りつけや、服の合わせ方、空間構成や家具の選び方にもつながり、私たちの生活をより豊かにするはずだ。
花を選ぶコツ、飾るコツ
花選びはまず、自分の部屋のサイズ、飾る場所を考えて、イメージを膨らませてから行うとスムーズ。ただ漠然と花屋に行くよりも、何の器に入れたいのか—それはワインの空瓶でもいい—を考えて、器の口径に合う茎の形状、本数を決める。Tumbler&FLOWERSは、外から程よく入る自然光と蛍光灯が室内を照らす。オレンジの白熱電球が灯るこなれた花屋とは一線を画している。花本来の色・状態がわかりやすく、何を組み合わせて、どういけるかをじっくり考えることができる。花屋にもそれぞれのキャラクターがあり、どんな種類をそろえ、どのような組み合わせをしているかで、自分との相性が見えてくるに違いない。渡来さんの作品はお店のインスタグラムやFacebookで日々更新されているので事前に見て来店するのもオススメ。並べられた作品写真を眺めていると、花の選び方や合わせ方、自宅での飾り方の参考にもなり、自分の引き出しが増えるはず。ギフト用ブーケの相談や、季節に応じて様々なワークショップのスケジュールはHPでチェックを。