Renovation
古民家を現代に日本の伝統を受け継ぐ
双子姉妹の挑戦
日本の文化を守りたい
手入れの行き届いた端正な日本庭園に、静謐な日本家屋。瀟洒な鎌倉の街並みに溶け込むかのように、その家は静かに佇む。住人は、双子の姉妹、池田めぐみさんとさゆりさん。
「藤沢の、築100年の解体される古民家から資材を譲り受けて再利用したんです。古い家の持つ良さを、私たちは残しておきたいと思って」
鎌倉市内のマンションで育ったふたりが、こう考えるようになったのは、卒業旅行での体験がきっかけだったという。
「同じ大学の同級生と3人でスペインなどを旅して、現地ならではの生活を体験してきました。その時、その土地の人が自国の文化の独自性を大切に暮らしているのに触れて、逆に私たちは日本文化を大事にしきれていないな、と思ったんです。鎌倉の街並みも景観が変わっていって、だんだんと味気ないものになっている、という寂しさも感じていました」
古い家から思いを発信
帰国後、共に旅をした奥谷舞子さんと自分たちに何ができるかを考え、辿り着いたのが古い日本家屋に住み、そこから思いを発信していくこと。住居としてだけでなくレンタルスペースとして開放し、ワークショップなどを開催する「蕾の家」を立ち上げた。
「ワークショップは、私たちの思いを共感できる方と、一緒に企画することが多いです。お寿司のイベントや茶道、お月見会など、日本の文化を感じてもらえるものが多いですね」
古民家が残るということは、文化や技術が残るということ。そこをオープンにすることで、伝統の大切さを感じ取ってほしいというのが、3人の願いだ。
リノベで和を現代風に
もともとここに建っていたのは築70年の平屋の家。そこに古民家からの資材を使って、日本の文化を再現するようにリノベーションした。
「建具などは藤沢の古民家から頂いてきたものです。縁側で使われていた古材をげた箱の板にしたり、トイレの収納の扉を作ったり、柱を使って洋服かけにしたり。廃材もインテリアとして再活用しました」
やはり取り壊された横浜の家からもらった古材を使って、床をリメイク。玄関やキッチンの収納扉も、古材を貼って古く懐かしい味を出した。
「壁には珪藻土を塗るなど、できるところは自分たちでDIYしましたね。手をかけることで、もっとこの家を大事にしたい、ずっと使っていきたいという思いが沸いてくると思います」
インテリアは和を活かしつつ、モダンなテイストを加えた。イサム・ノグチの照明や、インドのアンティークのキャビネット、イギリスのアンティークランプ、トルコのキリムなど、池田さん姉妹が選んだインテリアが、日本家屋を現代になじませる。
四季を感じる家
「実際に住んでみると、私たちは自然と隣り合わせに生きているんだな、ということを実感しますね。トタン屋根なので雨が降ると雨音がするし、風が吹くときしむ音がしたり、嵐の時はちょっと怖かったり。光の差し込み方や、建具の動き具合で季節も感じられます。冬は木がしまって建具が動きやすいのですが、湿気の多い日は動きにくかったりするんですね。木も呼吸しているんだなって感じます」
夏は風が通り抜けて涼しい代わりに、冬は寒いのだが、なぜか風邪をひかなくなり、身体が丈夫になったのだとか。
「温度変化を体感することが、健康にいいらしいんですね。便利さでいえば障子の張り替えをしなくてはいけなかったり、庭掃除をしなくてはいけなかったり大変なこともあるのですが、手間をかけることの中に、忘れてはいけないものがあるんじゃないかと思っています」
人が集まる不思議な力
庭には夏ミカンやモミの木、ヤマザクラ、アジサイ、サンショウ・・・・、色々な木々や植物が生い茂る。
「ボケの花が咲いたから、もう春だねとか、四季の移ろいを庭からも感じられます」
かつて住んでいたスイス人のおばあさんが、日本庭園を目指して育てたという庭には、リスや青大将など、様々な生物も現れる。テラス風の縁側からは、そんな庭を眺め、自然を満喫することができる。
「ここでお月見会を開き、十五夜を眺めたときは風流な感じでしたね。縁側はワークショップでもよく使いますが、私たちはお茶をしたり、余裕がある朝はヨガをやったりしています」
開放感のある庭と縁側、懐かしさに包まれる家の雰囲気。その魅力に惹かれてか、「蕾の家」には、訪れる人が絶えない。
「この家に包まれると、和める気分になるようなんです。誰もがへだてなくフラットにつながることができる、不思議な力を持っているようです」
懐かしさと温かさが人を招き寄せる。古き良き日本の文化の魅力が、ここから発信されていく。