Renovation
異国の文化を愛でる静謐な空間で感じる
北欧ノスタルジー
北欧文化との出会い
閑静な住宅街の中で異彩を放つ、昭和初期に建てられた民家。コピーライターとして仕事をする傍ら、北欧の食やインテリアなどの文化を伝える森百合子さんの自邸は、森の中の一軒家を連想させる、ノスタルジックな空間だ。
「北欧に興味を持ち始めたのは、フィンランドの建築家アルヴァ・アアルトの展覧会を見に行ったのがきっかけです」
それは衝撃的な出会いだった。
「アアルトは北欧を代表する建築家ですが、日本と共通する部分も随所に見受けられ、モダンだけど、どこか親しめる感じがあります。細い木を組んで天井を波打たせた有名な『ヴィーブリの図書館』が、展示会で復元されていたのですが、それを見てすごい! と。それまでデザインを意識したことはあまりなかったんですけど」
北欧スタイルを活かしてリフォーム
本物を見たいとフィンランドを訪れたのがきっかけで、以来、度々北欧に足を運ぶように。家をリフォームする際には、もちろん北欧スタイルを取り入れた。
「アアルトの自邸のアイデアなのですが、段差を設けて家の中にアクセントをつけているんです。そこで、リビングの床は、ダイニングや廊下より少し低くしたり、天井は逆に高くして広さを出したりと、変化をつけました。前に住んでいた人が壁を抜いてしまっていたので、できる限り元に戻すようにしました」
しかし、完全に部屋を分けるのではなく、部屋同士がゆるやかにつながっているのが北欧風。そのため、ダイニングとリビングを壁で仕切りつつも、大きな開口を設けてカウンターを設置した。
「家のどこかにカウンターが欲しかったんです。あと出窓。あちらの家は壁が厚いので、窓部分に奥行きができて、そこにキャンドルやオブジェを飾っているのがいいなと。昨年から飼い始めた猫達が窓辺を気に入っているので、今はあまり飾れないのですが」
もともとこの家にあった日本家屋ならではの木の窓枠はそのままに。なるべく手を加えず、古いものを活かしておく、というのもコンセプトだ。
「北欧では築100年以上の家はよくあって、古いものだと17、18世紀の建物に住んでいます。時間を経たものの魅力を楽しみながら生活するという部分を見習いたいですね」
こだわりのインテリア
木の温もりが伝わってくる室内には、年に1度は訪れる北欧で買い集めたインテリアや雑貨が。
「照明器具は、デンマークのルイス・ポールセンなど、ほとんどが北欧のものです。家具は北欧っぽく見えますがイギリスのもの。日本のものもあります。古いものが好きで、フリーマーケットや古道具屋さん、リサイクルショップも見てまわります」
照明は部屋全体を照らすのではなく、スポットごとに当てるようにいくつも設置されている。夜になるとかなり暗めだが、その雰囲気が和むのだという。
「照明で明るすぎる室内が苦手で。北欧の灯りの使い方は特に参考にしています。照明を変えるとそれだけで部屋の雰囲気って変わりますよね」
「訪れる度に、北欧のものが増えてますね。他の国に旅行してもフリーマーケットをのぞいたりしますが、北欧のヴィンテージに一番、惹かれます。かなり年配の方が、“私のおばあさんが使っていたのよ”と売ってくれたかごとか、生活に根付いた道具に出会えるのも楽しいです」
カフェのような心地よさ
現地では、カフェめぐりを楽しむことも多いが、カフェのインテリアも、参考になるそうだ。
「今、北欧のカフェめぐりはおもしろいと思います。デザイナーのインテリア家具で統一したカフェもあれば、古道具や放出品でお金をかけずに手作りしたお店もあって。自分の国の製品を愛用していたり、古いものを大切に使っていたり、それぞれにこだわりがあって、いろいろな発見ができ楽しいですね」
最近では、北欧のコーヒー豆も買って帰る。照明を抑えた静かな空間で、1930年代のジャズを流し、北欧の器でライトローストのコーヒーを愉しむ。居心地のよいカフェのような時間がここには流れている。