Style of Life
マルチに使える地下空間人生を楽しむ“シンプルな箱”
しなやかで可変性に富んだ家
自宅にヨガスタジオを造る
真っ黒な箱のような外観が目を引く岡山邸。ベビーヨガやマタニティヨガのインストラクターをしている妻の佐和子さんのヨガ教室が、日々繰り広げられている。「赤ちゃんとママ、小さい子たちが集まる黒い家なので、“ヨガハウス チビクロ”と名付けました」。
岡山さんご夫妻が家を建てたのは6年前。家を建てるにあたっての佐和子さんの希望は、「自宅にヨガスタジオが欲しい」のひとつだけだったという。子どもたちが帰宅したときに、自身が家に居て迎えたいという思いからであった。
親子で行うベビーヨガや子どもを対象にしたキッズヨガでは、長男の麟太朗くん(9歳)や長女の風花ちゃん(4歳)も“小さな先生”として、ママと一緒に活躍中だ。
住まい手が自由にカスタマイズ
現在、エンジニアリング会社に勤務する夫の信男さんは、以前は建築の構造設計をしていたという。それだけに、家へのこだわりは強い。妻の唯一の希望であった“ヨガスタジオ”以外は、信男さんのイメージで家づくりが進められた。
信男さんが求めていたのは、そのときどきの暮らし方に応じて柔軟に使いこなすことができる家。「家族構成も将来もどうなるかわからないのに、3LDKとか4LDKとか部屋をガチガチに決めることに違和感があったんです。部屋の構成に家族の暮らし方を合わせていかなくてはいけなくなるのかなって。それが面白くなかったんですね」
建築や内装、家具の設計・デザインも手掛ける、H2DO一級建築士事務所の久保和樹さんから提示された案は、“シンプルな箱”がコンセプトだった。間仕切りや造作を設けず、各階がワンルーム仕様。住まい手が、自由に空間をカスタマイズして生活していくというスタイルに、信男さんのイメージが合致した。「これは面白いと思いましたね。個室はトイレくらいしかないんです(笑)。実際、当時は下の子も生まれていなかったし、建てた頃と状況は変わっています。環境が変われば空間自体も変化する。その都度住まい方が変えられるのが楽しいですね」。
階によって異なるテーマ
玄関を入って目の前に広がる1階は、真っ白なリビング空間。「真っ黒な外観とのギャップを狙いました」と信男さんは笑う。壁一面の窓に天井高5mの吹き抜け、またトップライトからの光がたっぷり降り注ぎ、眩しいほどである。以前から使っていたテーブルやソファを生かして、“シンプルモダン”をテーマとしている。
2階はガラリと趣の異なる“和”空間。「この手ぬぐい、この風呂敷をディスプレイしたい」という信男さんのイメージが明確にあり、それらが映えるような壁紙やフローリング、手すりにこだわった。「住居用では黒いものがなく、店舗用のカタログを取り寄せて選びました。吹き抜け部分の手すりは、それでもピンとくるものがなかったので、久保さんにデザインしてもらいました」。
市販で気に入ったものがないときには、イメージを伝えて久保さんにデザインを依頼。「お金はかけませんが、妥協はしません」と、暮らしを徹底的に楽しもうとする信男さんの姿勢がうかがえる。
34畳の地下空間を楽しみ尽くす
岡山邸の敷地は25坪強と決して広くはない。そのため、建ぺい率に入らず、防音の面でも好都合の地下空間を造ることは、設計の最初の段階で決まっていたという。地下を最大限に生かした34畳の大空間は、佐和子さんのヨガスタジオとして、またオーディオが趣味の信男さん念願のシアタールームとして誕生した。
現在は、小学校で吹奏楽をしている麟太朗くんがトロンボーンの練習をしたり、ドラムを叩いたり。多趣味の信男さんが現在最も打ち込んでいるという自転車のトレーニングもここで行っている。また、「寝苦しい夏は、ひんやりとした地下で眠るのが心地よい」(信男さん)と季節によっても有効活用しているようだ。
さらには、お子さんたちの友達を集めて映画の上映会を開いたり、テントを張ってキャンプ気分を味わったり。「天気の悪い日は、ここで野球が始まることもあるんです」と苦笑する信男さん。
当初の目的以上にさまざまな活用法がある地下空間。その広々とした大らかな空間が、大人も子どもも自由にのびやかな気持ちにさせてくれるのだろう。
取材時に、「もうすぐ犬を飼い始める」と目を輝かせていた岡山さんご一家。今頃は新しい家族が増え、また暮らし方が変わっているかもしれない。