Style of Life

家づくりはエンドレス間取りから仕上げまで
自分色にまとめる

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プランを考える

作曲と作詞をそれぞれ手がけるH夫妻。夫婦でともに曲作りをすることもあるという。この家づくりでも2人は緊密な協力体制で臨んだ。

間取りと動線に関して、ベーシックな部分は自分たちで考えた。定規を使って50案以上。建ぺい率も計算したうえで50分の1の縮尺でまとめたという。

「作業を進める中で、うまくいかないところが出てきたときに建築家の井上玄さんに相談して、あと、設計上、耐力壁がどうしてもここにないといけないというような構造に関することや法規上のことなどを指摘していただいて変更するということはありましたね」と話すのは作詞家の奥さん。


壁のレンガはオランダから取り寄せた古材、テーブルの上の照明は70年代のデンマークの製品で、奥の斜めの壁に貼られた壁紙ともしっかりとコーディネートされてコージーな雰囲気をつくり出している。
壁のレンガはオランダから取り寄せた古材、テーブルの上の照明は70年代のデンマークの製品で、奥の斜めの壁に貼られた壁紙ともしっかりとコーディネートされてコージーな雰囲気をつくり出している。

3階のLDK。家にいる時間が長いため、西からの光がほしかったというH夫妻。外からの視線があるため、西側の窓は設計途中で腰壁部分を高くしたが、ソファに座ると外から見えないためカーテンを付ける必要がないという。

素材を選ぶ

竣工後3年ほどのH邸だが、当初から、遊びに来た友人に「ずっとここに住んでいたようだね」とよく言われたという。作曲家のHさんは「それがさらにいい感じにボロくなっていくのを直しながら使っていくという感じにしたかった」と話す。それがこのH邸の家づくりでのテーマでもあったという。
動線に関しては奥さんがメインでまとめたが、インテリアはすべてHさんが手がけた。「インテリアを考えるのが大好きなので、この壁に使ったレンガも含めすべて自分で選びました」

プランと同様、「この場所にこの素材を使っても大丈夫なのか」などテクニカルなことは井上さんに相談をしたが、基本的に「ここはこんな“感じ”にしたい」というようなリクエストはひとつもなかった。3階のLDKに使用したレンガもネットで調べて自らサンプルを取り寄せて決めたという。


 

新しいものが好きではないというHさん。キッチンで使ったのも古材だ。古物市で購入した小物がしっくりとキッチン周りに収まっている。
新しいものが好きではないというHさん。キッチンで使ったのも古材だ。古物市で購入した小物がしっくりとキッチン周りに収まっている。

もちろん家具や照明も

インテリアで手がけたのは仕上げだけではない。もちろん、家具から照明器具までHさんの考えですべてその配置を決めた。
「新品はきらい」というHさん。新築に際し新たに買い求めたものはほとんどなく、いまこの家にあるのはジャンクショー東京などの古物市でこれまでずっと買い集めてきたものという。

以前住んでいた家ではダイニングテーブルの上にあった照明をキッチンカウンターの上に配するなど、ふさわしい収まりどころを考えた上で配置を決めていった。
「キッチンがこのLDK空間でのフォーカスポイントになると思ったので、“あれを置いたらかわいいよね”という感じで決めました」


階段側から3階のダイニング部分を見る。
階段側から3階のダイニング部分を見る。
Hさんが時々演奏するという楽器の上には、娘さんが小さいころに描いた絵がかけられている。
Hさんが時々演奏するという楽器の上には、娘さんが小さいころに描いた絵がかけられている。


Hさんが本を読みながら、あるいは映画を観ながら飲んでいることが多いという3階の階段脇の部屋。
Hさんが本を読みながら、あるいは映画を観ながら飲んでいることが多いという3階の階段脇の部屋。
東側の開口からも光がふんだんに入る。サッシはすべて木製にしたかったが防火の関係であきらめたという。
東側の開口からも光がふんだんに入る。サッシはすべて木製にしたかったが防火の関係であきらめたという。


さらにまた、「インテリアを手がけた」というのはこうした素材の選択や家具の配置といった次元にとどまらない。自ら手を動かして仕上げの作業までしているという。

「3階の階段脇の部屋の壁を最近緑に塗ったんですが、下の階の廊下のサイザル麻だったところは、汚れがひどくなったのではがして自分で古材を張りました。子ども部屋ももともとは絨毯敷きだったんですが、それもはがして家族みんなで木を張りました」。もともとDIYが好きなので、どれも楽しみながらの作業だという。


ひとなつっこいネコのこなつ。撮影時も素直にモデルをこなしてくれた。
ひとなつっこいネコのこなつ。撮影時も素直にモデルをこなしてくれた。
階段の隙間からのぞくこなつ。
階段の隙間からのぞくこなつ。
子ども部屋の娘さんとこなつ。この部屋の壁と床は家族の手で現状の仕上げにリニューアルした。
子ども部屋の娘さんとこなつ。この部屋の壁と床は家族の手で現状の仕上げにリニューアルした。


1階の玄関ホール。
1階の玄関ホール。
奥さんが「けっこう好き」という1階奥のスペース。道路側につくられている。
奥さんが「けっこう好き」という1階奥のスペース。道路側につくられている。
H邸の玄関部分。地下のスタジオへは一度外に出て、別の入口から下る。
H邸の玄関部分。地下のスタジオへは一度外に出て、別の入口から下る。


いろんな居場所で気分転換 

「どのような空間にするのかを考えるのは作曲と似たところがある」というHさん。「家具と小物、そして仕上げと、デザインテイストが異なるものがうまく調和するようにしていますが、この調和、ハーモニーという点で似ているかもしれませんね。最終的にはいろんな要素を自分色にまとめるというような感じですが」と話す。
さまざまなデザインテイストのモノによってつくられているばかりでなく、それぞれに空気感の異なる場所がつくられているのも特徴だ。「家にいる時間が長いのでいろんな居場所がほしいというのはありましたね」と奥さん。

地下に作曲のためのスタジオと録音ブースを備えているため、家にいる時間がとても長い。仕事の合間の息抜き時間にリラックスできる場所が何カ所もあるとその時の気分に合わせていく場所を選べる。これが気分転換にはとてもいいようだ。


地下のスタジオには作曲に必要な機材が揃っている。壁側に立てられているのは整音材。
地下のスタジオには作曲に必要な機材が揃っている。壁側に立てられているのは整音材。
ヴォーカルやギターなどの録音を行うというブース。
ヴォーカルやギターなどの録音を行うというブース。
スタジオに向かう通路の収納棚の上にはHさんが手がけた曲が収録されたCDが数多く並べられている。
スタジオに向かう通路の収納棚の上にはHさんが手がけた曲が収録されたCDが数多く並べられている。


もうひとつの気分転換

「この壁をこんな色に塗ったらとか、木を張ったらどうなんだろうとか考えているのが至福の時間」だというHさん。このように考えること自体もまた気分転換になっているという。「大好きなことなので、好きな酒を飲みながらずっと考えていますね」


「井上さんは土地探しの段階から建築家というプロフェッショナルでありながら常に同じ目線で寄り添って、最高の仲間として家をつくり上げてくれました」というHさん。この家づくりがきっかけになって、井上さんと照明器具を選んだりとコラボする話もあるという。
「井上さんは土地探しの段階から建築家というプロフェッショナルでありながら常に同じ目線で寄り添って、最高の仲間として家をつくり上げてくれました」というHさん。この家づくりがきっかけになって、井上さんと照明器具を選んだりとコラボする話もあるという。
そして実際に「どんどんどんどん変えていきたい」というHさん。今もいろんなプランがあるという。「1階の壁を木にして自分たちで張りたいとか、そういうのをどういう順番でやるかも含めて2人で一緒に楽しみながら考えています」。H邸の家づくりはどうやらエンドレスのようだ。


Hさんお気に入りの屋上テラス。作曲もこの場所ですることがあるという。
Hさんお気に入りの屋上テラス。作曲もこの場所ですることがあるという。
H邸
設計 GEN INOUE
所在地 東京都渋谷区
構造 木造+RC造
規模 地下1階地上3階
延床面積 140.9m2