Style of Life
デザイナーのアトリエ兼住居作品が引き立つ
シンプルな白の空間
住み慣れた街に家を建てる
ある休日のお昼前。デザイナー、アートディレクターとして書籍のデザインなどを手がける中澤睦夫さんと、デザイン事務所でマネージャーを務める奥さまの千佳子さんの自宅を訪ねると、穏やかな光が差し込む3階のダイニングで、お二人がゆったりとブランチを楽しんでいた。
中澤さん夫妻がこの家を建てたのは、6年ほど前のこと。睦夫さんのアトリエと自宅を兼ねるため、マンションではなく戸建てにしたいと考えていた二人は、千佳子さんが子供の頃から慣れ親しんできた東京・高円寺、阿佐谷周辺で土地を探すことに。そうして、いわゆる狭小地ではあるが、駅から近く周囲の街並みもきれいなこの土地に出会った。「この辺りは周囲に高い建物がなくて、視界が抜けているのが気に入りました」と振り返る睦夫さん。
限られた敷地に理想の住まいをつくるため、設計は奥さまの叔父である建築家の小野寺利朗さんに依頼した。
心地よい居場所がいくつもある
中澤邸は、1階に睦夫さんのアトリエ、2階に水まわりと寝室、3階にダイニング・キッチンとリビングというつくり。3階は日当たりのいい南側にダイニング・キッチンをつくり、階段の踊り場と吹き抜けを挟んだ北側にリビングを配置している。リビングの窓の外には視界を遮る大きな建物がなく、ダイニングからリビング、その先の景色まで視線が通るため、実際の面積以上に広く感じる。
「休日はテレビを観たりお茶を飲んだりとダイニングでのんびりしている時間が大好きです」と千佳子さん。一方の睦夫さんは、特にリビングが気に入っているのだそう。「設計当初の案ではリビングの場所に部屋がなかったのですが、リクエストしてつくってもらいました」と話す。
また、ダイニング・キッチンとリビングが離れていることで、心地よい居場所が複数あるのも魅力のひとつ。「友人が集まったとき、ダイニングで食事をして、その後リビングでゆっくり話をしたり」と千佳子さん。「タバコを吸う人はベランダへ行ったり、それぞれが好きな場所に分かれて過ごしますね」と睦夫さんも続ける。千佳子さんは、ダイニングとリビングの間の踊り場にヨガマットを敷いてストレッチをするのも好きなのだとか。「ちょうどいい広さで、集中できるんですよね」(千佳子さん)。
作品が引き立つ白の空間
室内のいたるところに、絵や陶器、雑貨などが飾られている中澤邸。知人のアーティストから譲ってもらったイラストや陶器なども並ぶが、中でも目を引くのが、画家でもある睦夫さんが描いた音楽家をテーマにした作品たち。「数年前に個展を開いた時に描いたものです。誰もが覚えているであろう、音楽室に厳粛に飾られていた肖像画を、“現代の空間に飛び出させたらなんか合うんじゃないのかな”と思い、心地よいクラシックが聞こえてくるようなイメージで巨匠達を僕なりに描いてみました。我が家にはゆる〜く合っていて自分の作品ながらとても気に入っています」(睦夫さん)。
さまざまな作品が印象的に目に映るのは、シンプルな白の空間だからこそ。設計時から、このようにたくさんの絵を飾ることを前提に、壁や床はもちろん、ドアなどの建具、キッチンや洗面台などの設備まで白にこだわって選択したのだという。
白い花が咲く庭
白へのこだわりは、玄関前の庭にも。取材に訪れた1月は冬の表情だったが、夏にはアジサイやサルスベリ、ハニーサックル、マグノリアなどの「白い花」が賑やかに咲くそうだ。
じつは、当初は庭をつくる予定ではなかったのだという。「北側斜線の関係で、玄関前の空間が空いてしまって。普通はコンクリートを敷いて駐車スペースにするんでしょうけど、必要ないからどうしようかと考えて」と睦夫さん。そんなとき、たまたま井の頭公園で開催されていた緑化フェアを二人で訪問。出展していた自由が丘のショップ「BROCANTE」のブースを訪れ、「すごくきれいで魅力的な庭をつくっていたのを見て、急遽お願いすることに決めました」と千佳子さんは振り返る。
「BROCANTE」がつくり出したのは、小さなスペースながら訪れた人を迎え入れてくれるようなおおらかで自然な雰囲気の庭。「近所のワンちゃんやアイドル猫が、散歩の途中によく立ち寄ってくれます。夏になるとカエルも来てくれて」と笑顔で話す千佳子さん。「家だけだと味気ない。やっぱり庭があるのはいいですね」と睦夫さんも。楽しそうに話すお二人の様子から、家や庭への愛着が伝わってきた。