Style of Life

染織作家の家1階は土間のアトリエ、
見晴らしのいいリビングを3階に

染織作家の家 1階は土間アトリエ、 3階は見晴らしのいいリビングに

教会を思わせるアーチ窓が美しい

杉並区内の静かな住宅街に建つ染織作家の高見由香さんのお宅。1階には念願のアトリエを構えた。
設計は『佐藤・布施建築事務所』
「幼い頃から渡辺篤史さんの『建物探訪』が大好きでずっと見ていました。素敵だなと思った建物は『佐藤・布施建築事務所』 が手がけていたり、雑誌を開いていいなと思えば『佐藤・布施建築事務所』だったりと、いつか自分で家を建てることになったらぜひお願いしたいと思っていました」
作家として独立する以前は、美大でインテリアデザインを学び、内装設計の仕事をしていた高見さん。木や石の素材感やデザインなど、自分の住まいへのイメージはしっかりとあったのだそう。建築家との打ち合わせには、自作のファイルを持参した。

1階と2階の窓際には吹き抜けを設け、内側にアーチ型のデザインの開口を作った。
「建築家が写真を見せてくれた海外の教会の窓のイメージです。壁の厚みを生かし、テーパーをとることで光の変化が感じられる、美しい窓になりました」

家族は3人。プロダクトデザイナーの荒川正之さん、そして7歳のいおりちゃん。
「アトリエと家族の住まいの両方をどう実現していくかが課題でした」
3階建てを建てられる土地を探し、1階にアトリエ、2階に個室と洗面とバスルームをまとめ、視界が開ける3階をリビングとダイニングキッチンにした。

外から見ると格子の窓は、内側から見ると吹き抜けをはさんで美しいアーチを描く。
外から見ると格子の窓は、内側から見ると吹き抜けをはさんで美しいアーチを描く。
1階がアトリエ、2階に寝室や水回りなどのプライベート空間、3階が眺めの良いリビングダイニング。下見張りにしたレッドシダーのエントランスが物語を感じさせる。経年変化が楽しみだ。植栽も美しい。
1階がアトリエ、2階に寝室や水回りなどのプライベート空間、3階が眺めの良いリビングダイニング。下見張りにしたレッドシダーのエントランスが物語を感じさせる。経年変化が楽しみだ。植栽も美しい。
1階は手動の織機のあるアトリエ。「織機は畳むこともできるので、1Fのスペースを広く使い、展示会を開くこともできます」
1階は手動の織機のあるアトリエ。「織機は畳むこともできるので、1Fのスペースを広く使い、展示会を開くこともできます」
ピーター・アイビーの照明は、ぜひ使いたいものだったそう。
ピーター・アイビーの照明は、ぜひ使いたいものだったそう。
アプローチから室内へと連続する床のトラバーチンはあえて磨いていない裏面を表にして張り、ナチュラルな表情を楽しむ。
アプローチから室内へと連続する床のトラバーチンはあえて磨いていない裏面を表にして張り、ナチュラルな表情を楽しむ。
正面の棚の裏側はウォークスルークローゼットになっている。右側の仕事場からグルリと回遊できる。
正面の棚の裏側はウォークスルークローゼットになっている。右側の仕事場からグルリと回遊できる。
「糸巻きのサイズに合わせて、戸棚の幅を決めたので、無理なくきれいに収まります」
「糸巻きのサイズに合わせて、戸棚の幅を決めたので、無理なくきれいに収まります」
収納やドアのハンドルは『千sen』の真鍮金物を使っている。
収納やドアのハンドルは『千sen』の真鍮金物を使っている。

素材感と機能を両立

漆喰の壁、トラバーチンの床、オークの階段、真鍮の把手と、ひとつひとつの素材感を大切にした高見邸。光の美しい家に仕上がった。

アトリエの正面の棚の下段には、作家の作品を並べる。
「間合いを大切にしながら飾っています。時々レイアウトを入れ替え、楽しんでいます」

一方で、使い勝手のよい動線や収納にもこだわっている。
ウォークスルークローゼットはグルリと回遊できるように設計され、予め何を収納するか決めて作った棚はピッタリと無駄なくモノを収納できる。

壁に飾られているのはカシミアを使い立体的に織られた作品。
壁に飾られているのはカシミアを使い立体的に織られた作品。
アーチ状の開口部の奥が仕事場。手前のアームチェアはフィン・ユールの「No.45」。
アーチ状の開口部の奥が仕事場。手前のアームチェアはフィン・ユールの「No.45」。
左官の壁と木のバランスがとても美しい。
左官の壁と木のバランスがとても美しい。
作業台は壁付に。棚の間に玄関を伺える小窓をつけた。
作業台は壁付に。棚の間に玄関を伺える小窓をつけた。
作業場の奥には染色に使うコンロとシンク、染めた糸を干すバーを設置。
作業場の奥には染色に使うコンロとシンク、染めた糸を干すバーを設置。
少しだけグレーを混ぜた左官の壁。オークの床材は、土足で歩く部分は荒目、靴を脱いで上がる段から目を整えている。
少しだけグレーを混ぜた左官の壁。オークの床材は、土足で歩く部分は荒目、靴を脱いで上がる段から目を整えている。
ウォークスルークローゼットはグルリと回遊できるようになっている。2階へ上がる階段の手前で靴を脱ぐ。
ウォークスルークローゼットはグルリと回遊できるようになっている。2階へ上がる階段の手前で靴を脱ぐ。

見晴らしのいい3階リビング

3階は広々としたワンルームのリビング&ダイニングキッチン。
周囲は2階建ての建物が多い住宅街のため、屋根越しに視界が開ける。

リズミカルに連続する窓が美しい。
「実はアルミサッシなのですが、内側に木製の方立をつけてくださいました」

リビングの一角には、テラスのグリーンを眺めながら籠もれるデイベッドも設えた。

天井高もたっぷり。継ぎ目のない天井材が美しい。
天井高もたっぷり。継ぎ目のない天井材が美しい。
ダイナミックな変形の切妻天井。見晴らしがよく、船にいるかのような気分になる。
ダイナミックな変形の切妻天井。見晴らしがよく、船にいるかのような気分になる。
オークのダイニングテーブルはstudio fujinoの藤崎均さんが制作。「家族が3人が座りやすいように脚を3本にしていただきました」。フォールディングチェアはデンマークのモーエンス・コッホ。
オークのダイニングテーブルはstudio fujinoの藤崎均さんが制作。「家族が3人が座りやすいように脚を3本にしていただきました」。フォールディングチェアはデンマークのモーエンス・コッホ。
階段の壁は一部ガラスにすることで、リビングからも照明器具の明かりを楽しむことができる。「飛松灯器のペンダントライトは、ぽっかりと浮かぶお月さまのようで気に入っています」
階段の壁は一部ガラスにすることで、リビングからも照明器具の明かりを楽しむことができる。「飛松灯器のペンダントライトは、ぽっかりと浮かぶお月さまのようで気に入っています」
ガラス作家の大室桃生さんにオーダーしたペンダントライト。
ガラス作家の大室桃生さんにオーダーしたペンダントライト。
デイベッドの張り地はデンマークのKvadratのもの。木枠は板の中央に目地を入れて細いピッチにした。
デイベッドの張り地はデンマークのKvadratのもの。木枠は板の中央に目地を入れて細いピッチにした。
見晴らしの良いコの字型の造作キッチン。「シンクはシャープなエッジにこだわって作っていただきました」
見晴らしの良いコの字型の造作キッチン。「シンクはシャープなエッジにこだわって作っていただきました」
ライムストーンを細かく砕いて貼った壁が美しい。
ライムストーンを細かく砕いて貼った壁が美しい。
アントニン・レーモンドの戦前の建築として名高い東京女子大学の礼拝堂の鐘楼が見える位置を確認しながら小窓を作った。
アントニン・レーモンドの戦前の建築として名高い東京女子大学の礼拝堂の鐘楼が見える位置を確認しながら小窓を作った。

2階には個室と水回りを

「寝室と娘の部屋、クローゼットと、バスルームや洗面の水回り、それらを限られた面積の中でどう収めるかに頭を悩ませました」
狭さを感じさせないよう、洗面台の下はあえて空間を開けるなど、工夫をこらしている。

前川國男邸でも使われているテクスチャーが美しい葛布クロスを引き戸に使っている。
「今は廃番になっているそうで、建築家が大切に保管していた貴重なクロスを使わせいただきました」

2階の寝室にもアーチ型の開口部。
2階の寝室にもアーチ型の開口部。
「吹き抜けのカーテンは1階までの長さがあります。キレイな透け感のある生地を探し、自分で縫いました」。手前はリネンのカーテン。
「吹き抜けのカーテンは1階までの長さがあります。キレイな透け感のある生地を探し、自分で縫いました」。手前はリネンのカーテン。
クローゼットの引き戸は寝室側と廊下側の両方から開くことができるので、風通しが抜群。「普段は娘の部屋側の引き戸も開け放ち、風を通しています」
クローゼットの引き戸は寝室側と廊下側の両方から開くことができるので、風通しが抜群。「普段は娘の部屋側の引き戸も開け放ち、風を通しています」
両サイドは葛を織り込んだ表情豊かなクロスの引き戸。右側が寝室のクローゼット、左側がいおりちゃんの部屋のクローゼット。
両サイドは葛を織り込んだ表情豊かなクロスの引き戸。右側が寝室のクローゼット、左側がいおりちゃんの部屋のクローゼット。
バスルームの扉は木で造作。グレーのタイルが美しい。シャワーはグローエ社のもの。
バスルームの扉は木で造作。グレーのタイルが美しい。シャワーはグローエ社のもの。
「浴室乾燥の機能があるので、ここで洗濯物も干します。ハンガーバーはデザイン性にこだわり、あえて角型のものにしました」
「浴室乾燥の機能があるので、ここで洗濯物も干します。ハンガーバーはデザイン性にこだわり、あえて角型のものにしました」
洗面ボウルは台から浮き上がったようなフォルムが美しいDuravit社のもの。
洗面ボウルは台から浮き上がったようなフォルムが美しいDuravit社のもの。
棚の小口を斜めにカットすることで、軽やかなイメージに。
棚の小口を斜めにカットすることで、軽やかなイメージに。
大理石のモザイクタイル。細やかな仕事が美しい。
大理石のモザイクタイル。細やかな仕事が美しい。

荒川邸
設計  佐藤・布施建築事務所
所在地 東京都杉並区

構造 木造
規模 地上3階

延床面積 102㎡