Style of Life
満開の桜をひとり占め 愛しいものを眺めて暮らす
日常を豊かにする古民家風の家
桜を愛でるための家づくり
緩やかに傾斜した桜並木が続く閑静な住宅街。権さん夫妻は、「豊かな自然環境で子育てをしたい」と、10年以上住んでいた横浜市の中心部を離れ、横須賀市へ越してきた。不動産業を営む友人の勧めで見に来たこの地を一目見て気に入ったという。
「この辺りは景色が抜けて、空が広くて気持ちいいというのが第一印象でした。最初に訪れたのは夏だったのですが、街路樹が桜と気づき、春には素晴らしい景色が臨めると思い、即決しました」(ご主人)。
設計は、『一級建築士事務所 秋山立花』の秋山怜史さんに依頼。家の前に植えられた2本の桜の木をどう活かすかを第一に考え、家づくりはスタートした。
黒い建物から飛び出している2つの部屋は、和室と“ブックヌック”と呼ばれる小ぢんまりとした読書スペース。それぞれの部屋の窓には桜が目の前まで迫り、迫力満点の景色が楽しめる。
飾り棚も開口も額縁に見立てる
「秋山さんには、僕たちの好きな映画や本、生活スタイルをお伝えし、また好みの空間やインテリアなどをPinterestなどからピックアップして、会話を重ねていきました。僕たちの好みをしっかりキャッチして提案してくれましたね」(ご主人)。
「四角いものが好きで、切り取られた景色や“額縁”が好きなんです」と話す奥さま。生活の中心である2階のリビングの壁一面には、額縁のようなデザインの飾り棚を造作した。以前の住まいでも使用していた古い箪笥や蚤の市などで買い集めた古い小物が木製のフレームの中に美しく収まり、その背景をご夫妻が好きというウィリアム・モリスの鮮やかな壁紙が彩っている。好きなものをいつも眺めながら暮らす楽しさが伝わってくる。
また、権邸の2階は、建具で完全に仕切られたスペースはない。リビングに隣接して和室やブックヌック、キッチンを配しているが、下がり壁や段差などで区切りをつけている。
「部屋の外から見た中だったり、部屋の中から見た外だったり、隣の部屋から見た景色が映画のワンシーンのように切り取られ、まるで“額縁”の中に収まっているように見える造りになっています。小さい部屋のおこもり感も好きで、それぞれの部屋の世界観をぎゅっと凝縮して詰め込みたかったんです」(奥さま)。
手仕事のにおいが残るものに囲まれて
以前はコンクリート造のマンションに住み、無機質なインテリアが中心だったという権さん夫妻。
「せっかく木の家を建てるので、今回はガラリと変えて、古民家風の家にしたいと思いました」(奥さま)。
天井の梁を現わしにし、天井や床は濃いめの茶色をセレクトした。1階の浴室の引戸やトイレの扉はアンティークショップで古い建具を購入。予算の関係で書斎の引戸は造作にしたが、床や階段など全て同じ塗料を塗ることで統一感をもたらした。
広縁には、インドのサリーを継ぎ合わせたタペストリーを柱にかけたり、イランのギャッベを床に敷いたり。古民家風の造りとも違和感なく溶け合っている。
また、骨董市などで出会ったお気に入りの作家の作品に加え、奥さま自ら作製したアートボックスが壁のそこここにかけられ、丁寧な暮らしぶりが感じられる。
「ギャッベにはまっていて、いつかもう一枚欲しいなと思っています。照明も今は仮でつけているものが多いのですが、時間をかけて揃えていきたいですね。住みながらあれこれ手を加えたり、心に響いたものを少しずつ集めたりと、余白があるからこそ得られる楽しみを味わっています」(奥さま)。