Style of Life
元JAXA教授のセカンドライフ 人が集い、知を探求する
外部空間を楽しむ家
人生の転機に実家を和から洋風の家へ
山田隆弘さんは定年退職を迎えるにあたり、茅ヶ崎の実家を延床面積120㎡の屋上付き2建ての新築に建て替えた。今はパートナーの小百合さんと2人で暮らしている。庭にそびえる樹齢100年程だというシンボルツリーのシイが印象的だ。「これは私が生まれた時から生えていました。父親が茅ヶ崎に引っ越してきた際に、この土地を購入して家を建てたんですよ」と山田さん。
山田さんはJAXAの教授として“はやぶさ”や“あかつき”など、宇宙を観測するための人工衛星と地上との通信を効率的にやり取りする方式を開発してきた。「仕事に必要で自費購入した本が職場に大量にありました。定年が見えてきて、この本たちの置き場を作らなきゃと思ったのが建て直すキッカケです」。
和風建築だった以前の家では本棚を設置する十分なスペースを確保する事ができず、思い切って洋風の建物にした。
定年というライフスタイルの大きな変化から生まれた新居には、これまで歩んできた人生の足跡とこれからが詰まっている。
書籍の収納をリビングの一面に
最も重視したのは建て替えるキッカケとなった大量の本の置き場だった。「本を引き取らなくちゃいけないけど、ダンボールに入れておくのはもったいない。そこで、本を置くスペースを最優先にしてリビング一面と2階の一部に天井いっぱいの高さがある備え付けの本棚を設置しました」。空間の邪魔にならないよう、本棚は壁に埋め込まれた。
玄関を入ると、正面に本棚が印象的なリビングとダイニングがつながる吹き抜けの空間が広がる。人が集まる家にしたいという山田さんの要望で1階を広い空間にした。「天気のいい日は外で、悪い日は室内で友人たちと楽しめる場を作れたらいいなと」。
リビングとダイニングの中央にはシーリングライトではなくファンを配置。そのため、照明はダウンライトを採用した。本棚、ヴィンテージ家具、ヘリンボーン張りの床、間接照明が上質な空間を演出している。
室内よりも屋外の暮らしを重視
山田邸の大きな特徴は、外での生活を大切にしていることだ。560㎡ある土地のほとんどは庭に使われている。
「日本では家の中にいる時間が多かったりしますが、海外では、外で食事をしたりするんですよね。家の中も大事ですが、野外で食事をしたりくつろいだりするための場所が欲しくて意識して設けました」。そこで、工務店に1階、2階に広めのウッドデッキ、庭から屋上に繋がる階段をつけてほしいと要望した。「夏が近づいてくるとサンシェードをつけて2階で過ごします。風が通りますし快適です。春は屋上、冬は1階のウッドデッキや芝生など気候に合わせて過ごす場所を変えています」。
芝が敷かれた庭も以前とは大きく変化した部分だ。縦長の敷地に、以前は縦に沿って家が建てられていた山田邸。新居は敷地の横奥に建てることで、庭を広く取るようにした。「以前は建物の位置の関係で、庭がL字になっていたんですね。そこ建物を奥にして、庭をより広く使えるようしました。自宅を友人たちが集まって楽しめる場所にしたくて」。
庭にある物置には、来客に備えトイレと洗い場を設けた。「トイレに行く度、靴を脱いだり履いたりするのは面倒ですよね。ですから、物置のトイレは靴を履いたまま使えるようになっています。終わった後の片付けも、洗い場があると便利ですね」。
ライフスタイルの変化に自宅を合わせる
「仕事を引退してからは、ずっと家にいるので、くつろげる空間を作りたかった」と笑顔で話す山田さん。天気の良い時は1日の大半を外で過ごす。しかしそれは趣味の読書や庭の手入れを楽しみ、のんびりするばかりということではないようだ。「人間の言葉をコンピューターで処理する技術を確立したくて、1日6時間は勉強しています」。
36年間、宇宙を探索する仕事に関わってきたが、今は言語を探求する日々。ライフスタイルの変化に合わせ、生活の拠点となる家を計画的に建て替えた。それは探求の場を、職場から自宅に変えるための環境づくりだ。それが整った今、新たな目標に向かって歩みを進めている。