Style of Life
ジュエリーデザイナーの感性を結集時を超えた
オリジナルワールド
うっそうとした庭をのぞむ
「さびゆくものに思いをはせる」。そんなコンセプトで、ジュエリーデザインを手がける香取亮さんと鴨下優子さん夫妻。1年前に建てられた新居は、先鋭的でありながら、どこかノスタルジックでどこか温かい。
「古くなっても、それによって深みを増していくものが好きなんです」
懐かしい風情が残る千葉の下町の、のどかな住宅街。その一角に、ふたりの新居とアトリエが設けられた。木の門扉を開け、「できるだけうっそうとした感じを残したかった」庭を抜けると、ふたりの感性に彩られた空間が出迎えてくれる。そこは、シャビーな雰囲気に溢れたワンダーランド。
年代ものを今に活かす
「昔から古いものが好きで、什器や雑貨などいろいろと集めていたんです。アンティークショップで買うと高いので、ジャンク屋みたいなところで買って来て、リメイクして使っています」
玄関脇にはかつて中学校で使われていた古い下駄箱、映画撮影用の照明、古代ギリシャ風の柱、朽ちたドア…。
「柱はどうしてもこれを取り付けたいと、工務店さんに頼んで取り付けてもらいました。耐震とか、家の構造に役立っているわけでは全くないらしいのですが」
仕事で訪れるパリの蚤の市で買ってくる雑貨や、作品にも用いる鳥類の剥製。そしてレストランで食べたスカンピの殻に魚の剥製まで。あらゆるものが、宝物のように、創造性豊かな空間にあふれている。
イメージを形に
1階のキッチン、リビング&ダイニング、2階のベッドルームやバスルームなどの設計も、ふたりで相談しこだわり抜いた。
「工務店さんにはかなり面倒くさがられましたね。洗面所にも、文句を言われながらタイルを貼ってもらいました」
白いタイルに業務用のシンク、ヴィンテージのキャビネットが、ヨーロッパの雰囲気を醸し出す。やがて子供用にする予定の部屋のドアは、鮮やかな緑と青に、ふたりでペイント。
「キッチンは意見が割れましたが、コンクリートを張れるということだったので、シンクまわりはコンクリで固めてかっこよく。収納、コンロ、レンジなどはIKEAのものを選びました。コスト面も大事でしたね」
水洗金具はネットでアメリカのメーカーのものを見つけて、洗面所で使うものと合わせて購入。現地の友人に送ってもらうことで、予算もカットできた。
ふたりの感性を作品に結集
「ふたりが好きなものが一緒だということは、幸せですね。例えば、陶芸作家のオブジェ。4年前に初めて見たときに、ふたりとも衝撃を受けたんです。そのときのいい記憶が残っていて、結婚を機にもう一度見てみようということになって。結局、買ってしまいました」
それは窓をテーマに、西洋の融合を表現した作品。
「同じものを見て同じように感動できる、というのは嬉しいですね。だから仕事も一緒にできると思うんです」
ふたりがパートナーを組んで、ジュエリーの制作にあたるアトリエは、家の裏手にある。もともと倉庫だったところを増築。ヴィンテージの什器に、宗教美術や動植物などをモチーフとした作品をディスプレイ。作品の世界観が、その空間からも伝わってくる。
疲れたときは、アトリエの外のテーブルでひと息入れる。まわりは喧騒と無縁の、緑豊かな環境。
「以前は渋谷のセンター街の近くに住んでいたんですけど、もう考えられないですね」(香取さん)
庭の正面のウッドデッキも拡張し、テラスでビールを飲んだり、ランチをしたり、ガーデン計画も進行中。豊かな暮らしが、創造性を育んでいく。