Architecture
変形プランが多様な場を生み出す三角の敷地に建てられた
ジグザグ壁のある家
敷地は三角形
富永邸は世田谷区の大きな公園に近い角地に建つ。敷地が道路より1階分以上高いため、この地区では珍しく見晴らしがとても良い。この敷地は、富永さんが車で通りかかったときにピンと来て、見てみたらすっかり気に入ったのだという。「遠くまで視線が気持ちよく抜ける場所で、自分たちが考えていた条件にもぴったりだと思って、奥さんにすぐここが良いって言ったんですね」
奥さんの佐積(さつみ)さんも見て気に入ったが、ひとつひっかかったことがあった。土地の形が三角形だったのだ。そのため、どんな家が建てられるのか少し不安があったという。
斜めの壁をつくらない
佐積さんは土地が三角形であるというよりも、家の中に斜めの壁ができるのが嫌だったという。当時住んでいた家のリビングの壁が斜めになっており、家具を置いてもうまくはまらないなどの問題があった。三角という変形敷地のためにまたそのような事態になるのではと思ったのだ。
「前の家で斜めの壁があったのですが、私にはどうもうまく使いこなせなくて。“また斜めになるのか?”みたいな思いはありましたね」
設計を手がけた建築家の岡村さんの案は、実は3案目だった。それまで他社から出された2案が斜めの壁は嫌だと伝えていたにもかかわらず、どちらにも斜めの壁があった。それに対し、岡村案では室内に斜めの壁がまったくなかった。それを見た佐積さんは「あっ、壁が斜めじゃない!」と驚き、「このまま建ててください」とすぐさま伝えたという。
広くつくる
富永邸の現状のプランがつくられるのに、斜めの壁をつくらないということのほか、もうひとつ重要なリクエストがあった。
富永さんは出来る限り仕切りを設けず開放感のある空間にしたかったという。「間仕切りや収納はいらないので、とにかく広くつくってほしいというのをお願いしましたね」
コーナーをつくる
この2つのリクエストに対して、建築家はまず斜めの壁をつくらないということが建築的にも面白くできそうだと思ったという。「最初にラフな模型をつくったんですが、玄関側の壁がジグザグになってそれがまた上下でずれる。これはデザイン的にすごく面白いはずだと思ったんです」
さらにまた内部でも、たとえば和室のコーナーだったり、子ども部屋やライブラリーだったりといろいろなコーナーができるのが面白いと思ったという。実際、家具などが置かれた現在では、それぞれに特徴をもった多様な場がつくられている、そんな印象がある。
このアイデアは斜めの壁をつくらないということに加え、空間をあまり区切らないというリクエストがあったから可能になったものだと岡村さんはいう。「それぞれのコーナーが、大きなスペースがあってのものなので、そういう場所が素直に2つのリクエストから導き出されたと思っています」
さらに2つのこだわり
夫妻ともにはじめに提示された案がすっかり気に入り、プランは結局そこからトイレと階段の位置を変えただけというが、奥さんがこだわった部分が2つあった。
ライブラリーと子ども部屋の間の壁に窓が付いていて両者のつながり感が面白い。これは工事中にアドリブ的に付けてもらったものだという。
「全体的に、風が通る設計になっていたんですが、ライブラリーと子ども部屋の間だけ風の行き来がなかったんですね。それで、あそこに窓を付けたら風が通るなって思ったんです」。大きさや材質など、1カ月くらい考えて製作してもらったという。
もうひとつは内部の仕上げ。外部が白と黒によるシャープな印象だったので、外観からは予想できないギャップを感じられるものということで、木を使って柔らかい印象に仕上げてもらったという。
そして、これから…
「時間をかけてちょっとずつ中をつくっていくのが楽しいですね。2階もガランとつくってあるので、ここどういうふうに使えるかなとかいろいろと想像ができます」(佐積さん)
富永さんも「スペースを大きくつくってもらったからこれからどういうふうに変えていくのかが楽しみで、またそういうことを考えるのが楽しいですね」と話す。
すべての人が富永邸のようなジグザグプランを喜んで受け入れるわけではないだろう。プランをうまく使いこなせない人もいるはずだ。そういう意味では住み手の力量を量る家なのかもしれない。しかし、これからどう変えるのか考えるのが楽しみというお2人にとって、そのあたりはまったくのノ―プロブレム、そんなふうに見えた。