Architecture

4層を楽しむ光溢れる最上階、重厚な1階
場所ごとに多彩な表情を持つ

4層を楽しむ  光溢れる3階や地下、重なる壁。 多彩な表情を持つ家

3階からはグルリと四方の空が見える

建築家の安立悦子さんが家族のために設計した家は、ここが横浜駅から徒歩10分という便利な場所とは思えない閑静な住宅街に建つ。
「北斜面の傾斜地という理由のせいか、土地がポッカリと空いていたんです。ならば私がここに家を建て、街並みの一員になりたいと思いました。事務所を独立したばかりで仕事が忙しい時だったのですが、『今年建てるといいらしい』という夫の言葉もあって、奮闘して作りました(笑)」

斜面を上手く使った、地下1階+地上3階のコンクリート打ち放しのお宅は、それぞれのフロアでまったく雰囲気の違う顔を見せる。

3階は四方グルリと空が見える開放感たっぷりの空間だ。
「昼間は景色を楽しめますし、夜は月や星、稲光もよく見えるんです」
 部屋にもバスルームにも明るい光が差し込む2階は、リゾート気分でくつろげる。


四方が窓になっている開放感たっぷりの空間。屋根はアルミパネル。「牛舎で使われているもので、雨音の感知器でもあります(笑)」
四方が窓になっている開放感たっぷりの空間。屋根はアルミパネル。「牛舎で使われているもので、雨音の感知器でもあります(笑)」
悦子さんのくつろぎスペース。写真の左下に写っているのが階段の脚の部分。なんとダンベルが使われている!
悦子さんのくつろぎスペース。写真の左下に写っているのが階段の脚の部分。なんとダンベルが使われている!
2階は4メートルの吹き抜け。4階に上る階段は、建設現場で使われる仮設階段を使用。
2階は4メートルの吹き抜け。4階に上る階段は、建設現場で使われる仮設階段を使用。
 
立派な鹿の角をオブジェに。角とブランケット、木目の温もりを楽しむコーナーが新しく生まれた。
立派な鹿の角をオブジェに。角とブランケット、木目の温もりを楽しむコーナーが新しく生まれた。


コンクリートに木の温かさをプラス

家族の成長とともに、住まい方は少しづつ変化する。
「コンクリート打ち放しの空間に、木の温かさが欲しくなったことと、娘が成長して生活時間帯が変わったので、2階を改装しました。ふたりで寝ていた3階のベッドを娘に明け渡し、2階にもうひとつベッドを作って、今は私がそこに寝ています」
 
ベッドを囲むように新しく木の壁を作った。材料はフローリング材。
「現場で使った材料が気に入ったので、それで壁を作りました。DIYが絶望的に下手なので、大工さんに作ってもらいました(笑)」


1階に植えたノウゼンカズラが2階のテラスに緑の木陰を作っている。キャビネットは無印良品のもの。
1階に植えたノウゼンカズラが2階のテラスに緑の木陰を作っている。キャビネットは無印良品のもの。
開放感たっぷりのバスルームと洗面所。今は植物に覆われているけれど、バスルームの先はプールだったのだそうだ。
開放感たっぷりのバスルームと洗面所。今は植物に覆われているけれど、バスルームの先はプールだったのだそうだ。
お嬢さんが使っている机。「机の向こうに寝ている私の顔が見えるのが安心するようです」
お嬢さんが使っている机。「机の向こうに寝ている私の顔が見えるのが安心するようです」
カウチソファをベッドとして使用。ベッドカバーにしているのはペンデルトンのブランケット。
カウチソファをベッドとして使用。ベッドカバーにしているのはペンデルトンのブランケット。
洗面台が宙に浮いている!? 白い扉の向こうが2階のトイレ。その下のグレーの扉が玄関ドア。
洗面台が宙に浮いている!? 白い扉の向こうが2階のトイレ。その下のグレーの扉が玄関ドア。


建築資材を使ったアイランドキッチン

アイランドキッチンは、リビングから階段2段分ほど下がっている。
「家の中の段差は、視線が変化するのが楽しいです。ダイニングで食事をしている人と、キッチンに立つ人が同じ目線で会話ができます。アイランドキッチンを囲んで、料理をしながらおしゃべりもできますし、トップライトのある奥のスペースでは、イスに座りながら下ごしらえをすることもできます」
 キッチンが、安立さんの大事なくつろぎの空間になっているのだ。

床と天板に建築資材を使っているのもおもしろい。
「建築資材は取り換えも簡単なので、汚れを気にしなくていいところも気に入っています」


アイランド型のキッチン。カウンターは鉄で枠を作り、天板や食洗機をはめ込んである。「冷蔵庫もこの下に収まっています」
アイランド型のキッチン。カウンターは鉄で枠を作り、天板や食洗機をはめ込んである。「冷蔵庫もこの下に収まっています」
床とキッチンの天板に使われているのはコンクリート平板。歩道などに使われている建築資材なので安くて丈夫。
床とキッチンの天板に使われているのはコンクリート平板。歩道などに使われている建築資材なので安くて丈夫。
 
出窓を食器棚に。ここからも気持ちのいい緑が見える。「アクリルで扉を作りましたが、ほとんど使っていないです(笑)」
出窓を食器棚に。ここからも気持ちのいい緑が見える。「アクリルで扉を作りましたが、ほとんど使っていないです(笑)」
お寺で使われていた柱を棚板に。「棚に好きな食器や調理器具を並べると、こんな色合いの統一感になるようです(笑)」
お寺で使われていた柱を棚板に。「棚に好きな食器や調理器具を並べると、こんな色合いの統一感になるようです(笑)」
上からの光が美しいスペースに、調理道具がオブジェのように並ぶ。ここで椅子に座ってお嬢さんとおしゃべりしながら、野菜の下ごしらえなどの単調な作業も料理の楽しみにチェンジ。
上からの光が美しいスペースに、調理道具がオブジェのように並ぶ。ここで椅子に座ってお嬢さんとおしゃべりしながら、野菜の下ごしらえなどの単調な作業も料理の楽しみにチェンジ。
ガスレンジの蓋を閉めると、フラットな台になる。
ガスレンジの蓋を閉めると、フラットな台になる。


2階3階がお嬢さんと安立さんが過ごす光溢れる女性らしい空間なのに対して、1階リビングは打ち放しコンクリートが光の当たり方の違いで様々な表情を見せる重厚な印象だ。

リビングの奥には、2畳の薄畳が敷かれたスペースがある。ご主人のリクエストで急遽作った場所なのだそうだ。ご主人はここに布団を敷いて休んでいるのだそう。
 地下にはガレージと、書庫とクローゼット、洗面とトイレもある。
「主人が地下と1階を中心に生活していて、娘と私は2階に多く居ます。家族が一箇所に集まるのではなく、気配を感じながら暮らしている感じも楽しいです」

竣工時には小学生だったお嬢さんも大学生に。
「ここを事務所として使っていた時期もありましたし、家はその時々で住まい方が変わります。これから先も変わっていくでしょう」
 安立邸には、変化を受け止める大らかさや、器の大きさを感じた。それはきっと作った人……安立さんの包容力が映し出されているからかもしれない。


ご主人のリクエストで急遽作ったという2畳の畳スペース。引き出しには布団が入っていて、ご主人はここに布団を敷いて寝ている。
ご主人のリクエストで急遽作ったという2畳の畳スペース。引き出しには布団が入っていて、ご主人はここに布団を敷いて寝ている。
階段を上り、光が揺れる木陰の小道を行くと玄関ドアが現れる。ワクワクドキドキがあるアプローチが楽しい。
階段を上り、光が揺れる木陰の小道を行くと玄関ドアが現れる。ワクワクドキドキがあるアプローチが楽しい。
トップライトから光が差し込む2階への階段。悦子さんのスニーカーがリズミカルに並ぶ。
トップライトから光が差し込む2階への階段。悦子さんのスニーカーがリズミカルに並ぶ。
 
竣工は2001年。14年の間に植物が大きく育ち、建物が緑で覆われた。
竣工は2001年。14年の間に植物が大きく育ち、建物が緑で覆われた。


安立邸
設計 安立悦子(ARTEC)
所在地 神奈川県横浜市
構造 RC造+一部S造
規模 地下1階地上3階
延床面積 113m2