Architecture

子どもたちのための家づくり3人の兄弟が走り回る
“アクティヴ”な家

子どもたちのための家づくり  3人の兄弟が走り回る “アクティヴ”な家

自由に走り回れる家

I邸の子どもたちは男だけの3人兄弟。7歳、4歳、2歳の全員が揃うと、とにかく家中をにぎやか元気に動き回る。奥さんは「以前はマンションでいつも“静かに”って言っていたので、3人が自由に走り回れるような家にしたかった」と言う。

しかし、建ぺい率50%、容積率100%と建築できる面積が制限されているため、I邸の100m2に満たない敷地では1、2階の面積はそれぞれ50m2を切る。もちろん、寝室や水回り、収納などは必要なため、3人が「自由に走り回る」には十分とは言えない広さである。


2 階ダイニング側からリビングとキッチンを見る。手前の柱は鉄柱に麻を手で巻いている。木を使用した床・天井とマッチして違和 感を感じさせない。キッチンは料理好きの夫婦の作業に子どもたちも参加できるようオープンなつくりにしている。
2 階ダイニング側からリビングとキッチンを見る。手前の柱は鉄柱に麻を手で巻いている。木を使用した床・天井とマッチして違和
感を感じさせない。キッチンは料理好きの夫婦の作業に子どもたちも参加できるようオープンなつくりにしている。
リビングの天井高3.9 mに対して手前のダイニングスペースは2.2 m。開放感のあるリビングに対して親密感のある空間になって いる。
リビングの天井高3.9 mに対して手前のダイニングスペースは2.2 m。開放感のあるリビングに対して親密感のある空間になって
いる。
2 階のLDK は南側の開口のほかに、北側にハイサイドライト、東側にロフトの開口があり、天井が高いこととあいまって開放感 の感じられるつくり。奥の長男の立っているところにハシゴがあるが、ハシゴを使用しない時は扉を閉じることができる。
2 階のLDK は南側の開口のほかに、北側にハイサイドライト、東側にロフトの開口があり、天井が高いこととあいまって開放感
の感じられるつくり。奥の長男の立っているところにハシゴがあるが、ハシゴを使用しない時は扉を閉じることができる。

もうひとつの縦動線

設計を担当したアトリエスピノザの井東さんと市原さんのお2人はまず、バルコニーやロフトなど、建築面積に入らない部分をうまく配置し、さらにドアを極力設けずオープンなつくりにして空間をできるだけ広く感じられるようにした。その上で、東側の壁面に、1階の子ども部屋から2階のLDKを介してロフトにまで通じるハシゴを設置した。

建築可能な面積からすると自然と横の動きが限られてくるため、ロフトを含め2つの床を貫通させて縦の動きをつくろうという発想だ。
階段とは別の、その縦動線を通して、「3兄弟のあり余るエネルギーが1階にとどまらずに家中に発散できるようにした」と井東さん。この動線は屋内を突き抜けて、さらにルーフテラスにまで続いている。


ロフトから見下ろす。左の開口は家の正面(南)側。 
ロフトから見下ろす。左の開口は家の正面(南)側。
 
2 階とロフトとをつなぐハシゴ。
2 階とロフトとをつなぐハシゴ。
LDK 上のロフトから見下ろす。ハイサイドライトは北側に設 けられている。
LDK 上のロフトから見下ろす。ハイサイドライトは北側に設
けられている。
ロフトからルーフテラスへと出入りができる。
ロフトからルーフテラスへと出入りができる。


2階が家の中心

建築家はこのように3人が活発に動き回ることができるつくりにした上で、2階のLDKを家の中心となるよう設計したという。井東さんは「遊び疲れたらここに来て、家族みんなで集まって休めるような、そういう雰囲気をもたせたかった」と話す。

3.9mとゆったりと高めに設定したリビング部分の天井には、トップライトを設けて視線が空へと抜けるようにした。ハイサイドライトからは北側の安定した光が入るだけでなく、ルーフテラスで遊ぶ子どもたちとリビングのIさん夫婦の目線が立体的に交差する。このリビングの横につくられたダイニングは、高さをぐっとおさえた天井に木を使用して、リビングとは対比的な親密空間とした。

また、2階は床が1カ所ガラスになっている。そこを覗くと、1階の子どもたちの様子がうかがえる。プライバシーを守れる範囲内で、目線を通して家族の気配を感じられるようにしたのだ。


ひとつめのルーフテラスから2 階のLDK を見る。
ひとつめのルーフテラスから2 階のLDK を見る。
ロフトから出たところにつくられたルーフテラス。ローズマリーなどのハーブ系やベリー系のものが植えられている。
ロフトから出たところにつくられたルーフテラス。ローズマリーなどのハーブ系やベリー系のものが植えられている。
さらに上にあるルーフテラス。近くには同様のものを設けている家はないので、周りの景色を独り占めできる。
さらに上にあるルーフテラス。近くには同様のものを設けている家はないので、周りの景色を独り占めできる。

素材にこだわる

このように空間の構成をした上で、仕上げや家具に関してはI家のカラーを出せるようにしたという。「塗り絵のベースみたいなものを提供することに徹するのがいいと思った」というアトリエスピノザのお2人は、仕上げに関してのやり取りでは奥さんの“建築力”にとても感心したという。

実家が建築家の設計で建てた家ということで、素材についてもっている感覚や知識が建築の素人とは明らかに違っていたという。
「壁に壁紙を貼るか塗装にするか、施主の方はどちらがいいかわからない人がほとんどですが、質感を重視して漆喰調の塗装仕上げを選ばれています」(井東さん)


子ども部屋出入り口の大きな引き戸には黒板塗料が塗られ、なんでも自由に描き込める。
子ども部屋出入り口の大きな引き戸には黒板塗料が塗られ、なんでも自由に描き込める。
1 階の子ども部屋は床を少し掘り下げて天井を少し高めに。将来、ロフトをつくることができる高さにしている。
1 階の子ども部屋は床を少し掘り下げて天井を少し高めに。将来、ロフトをつくることができる高さにしている。
子ども部屋から2 階を通り抜けロフトへと至るハシゴ。壁はOSB による質感のある仕上げだ。
子ども部屋から2 階を通り抜けロフトへと至るハシゴ。壁はOSB による質感のある仕上げだ。
玄関には6 角形の古いテラコッタタイルを使用。光が行きわたるように玄関と子ども部屋の上部には窓が設けられている。
玄関には6 角形の古いテラコッタタイルを使用。光が行きわたるように玄関と子ども部屋の上部には窓が設けられている。


玄関と北側の庭に使われている6角形のテラコッタタイルは、奥さんのリクエストに応じて、フランスの城で使われていた古材を建築家が探し出してきたものだという。独特の味わいをもつ古材が新築の家に自然にはめこまれているばかりか、空間とタイルが対比的に映える効果もあって、2カ所ともこの家の中で一味違った魅力を発する場所になっている。

2階のLDKのフローリングにはアンティーク調のテイストが入ったオーク材が使われているが、こちらも奥さんのリクエストによるものだ。白壁のモダンスタイルとこの幅広の親しみのある素材との組み合わせが良く、これも互いを引き立たせている。キッチンとダイニングの天井もオーク材。「実家も木を使っているところがあって、こちらから希望を言って使って頂いた」と奥さん。


ジューンベリーの植えられた北側の庭にも6 角形のタイルが使われていい味を醸している。
ジューンベリーの植えられた北側の庭にも6 角形のタイルが使われていい味を醸している。
2階のガラス床が視線を通すだけでなく光も導く。子ども部屋同様引き戸にしているため、開けるとオープンな感じに。
2階のガラス床が視線を通すだけでなく光も導く。子ども部屋同様引き戸にしているため、開けるとオープンな感じに。
2階LDKのガラス床から1階の様子がうかがえる。
2階LDKのガラス床から1階の様子がうかがえる。
 
表(南)側に設けられた庭。には〇〇が植えられている。
表(南)側に設けられた庭にはシマトネリコが植えられている。


アクティヴな家

2階のLDK空間は“家族が集まって休めるスペース”として設計されたが、子どもたちは、取材中、そのLDKで建築家の意図にはおかまいなしに活発に動き回っていた。

彼らのパワーに圧倒されて感化されたところが多分にあるかもしれないが、この家自体もとてもアクティヴな雰囲気を醸しているように感じられた。オープンなつくりにした上で、階段とは別に上へと抜けるもうひとつの動線をつくり込んだこの家ならではの空間構成が、その印象と大いに関係していることは間違いないだろう。


I 邸

I邸
設計 アトリエスピノザ
所在地 東京都世田谷区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 47.16m2