Architecture

光や風に満たされる地下2階、地上2階
建坪8坪で豊かに住まう

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地下にボリュームを求めて

細い道が迷路のように広がる、都心の閑静な住宅地。建築家の近藤正隆さんは、東西に長い約16坪の土地に建つ中古の一戸建てを、建て替えを視野に入れて12年前に購入した。「最初は木造での建て替えを予定していましたが、震災があったことで強度を考えるようになり、また形態の自由度の高さから、コンクリート造にしたいという欲が出てきたんです(笑)。建て替えるまで8年近く、予定より少し時間がかかってしまいました」

この土地の建ぺい率は50%のため、建坪はわずか8坪。高さ制限も厳しいため、地上のボリュームは大幅に制限された。「もともとはスキップフロアを検討していたのですが、ある晩、シンプルに地下にボリュームを増やせばいいんだ!と、ひらめいたんです」と近藤さん。その発想から生まれた地下2階、地上2階の4層構成の家は、大胆な吹き抜けや階段、ドライエリアを通して4つのフロアがゆるやかにつながっている。光や外の景色を取り入れて、実面積を超えた開放感を創り出している。


1階のダイニングキッチン。ペアガラスを採用した大きな開口は、外からの冷気が直接入らず、結露がほとんどできないそう。
1階のダイニングキッチン。ペアガラスを採用した大きな開口は、外からの冷気が直接入らず、結露がほとんどできないそう。
2階から見下ろす。ダイニング上部の高い吹き抜けで開放感は抜群。
2階から見下ろす。ダイニング上部の高い吹き抜けで開放感は抜群。
周囲との調和を考えて木材の格子を採用。目隠ししつつ光を取り入れてくれる。南に向かって持ち上がった屋根も採光のポイント。
周囲との調和を考えて木材の格子を採用。目隠ししつつ光を取り入れてくれる。南に向かって持ち上がった屋根も採光のポイント。
軽やかな階段にスタイリッシュな手すりがアクセント。各階段の踊場は収納スペースに。窓の奥がドライエリア。
軽やかな階段にスタイリッシュな手すりがアクセント。各階段の踊場は収納スペースに。窓の奥がドライエリア。


玄関脇からドライエリアを見下ろす。
玄関脇からドライエリアを見下ろす。
ドライエリア上部のバルコニー床には、透過性と強度を併せ持つFRPグレーチング材を採用し、地下に光を取り込んだ。
ドライエリア上部のバルコニー床には、透過性と強度を併せ持つFRPグレーチング材を採用し、地下に光を取り込んだ。


表情の異なる2つの吹き抜け空間

近藤邸には吹き抜けが2か所ある。地下2階から1階と地上1階から2階の各1か所に設けられ、それぞれ全く異なる表情を生み出している。

地上部分は片流れ屋根の傾斜に沿った吹き抜け空間。最も高いところは床から約7mもの高さがある。冬至時の太陽の照射角度に合わせた南側上部の開口や東側の大きな窓は、近隣の家と視線が合わないよう計算して設置。空へとのびる天井の高さと大きな開口が、明るく開放的なダイニングルームを実現している。「1階のリビングから窓越しに見る空の表情は、まるで1枚の絵のようです。秋頃は、ちょうどこの東側の窓から月が昇ってくるんですよ。家の電気を消して、月を見ながら食事をすることもあります」と奥さま。お日様の1日の動きや雲の流れ、月の満ち欠けや四季の移ろいなども感じ取れるこの場所は、奥さまのお気に入りという。

一方、地下部分の吹き抜けは、ドライエリアや上部の高窓からやわらかな光が差し込む、落ち着いた空間。6.6mのカウンターテーブルで静かに読書に耽ったり、ソファに座って時間帯を気にせず大音量で映画を観たり。地下リビングならではの楽しみ方を満喫されている。「地下にも吹き抜けがあることで光や風が入り、閉塞感がなく、気持ちまでのびやかになりますね」(奥さま)


季節や日々の美しい変化を映し出す大きな窓。コンクリート打ち放しの壁にナチュラルな色合いの床がマッチし、心地よい空間に。
季節や日々の美しい変化を映し出す大きな窓。コンクリート打ち放しの壁にナチュラルな色合いの床がマッチし、心地よい空間に。
地上部分の吹き抜け。身長180cmの近藤さんが床から約7mの天井を見上げる。近藤さんの頭の上がサニタリールーム。
地上部分の吹き抜け。身長180cmの近藤さんが床から約7mの天井を見上げる。近藤さんの頭の上がサニタリールーム。
地下部分の吹き抜け。左上が地下1階の寝室。上部の窓など、地下でも四方から光が入る。


地下2階の壁一面に造作したカウンターは6.6m。1階よりも濃いめのカラーの床とバックライトが大人の空間を演出。
地下2階の壁一面に造作したカウンターは6.6m。1階よりも濃いめのカラーの床とバックライトが大人の空間を演出。
奥のドライエリアからも光が入る。天井の高さの変化で異なる居心地が得られる。
奥のドライエリアからも光が入る。天井の高さの変化で異なる居心地が得られる。
可動式のドアを開けると子どもの寝室。ドアを閉めると真っ暗で、昼寝もぐっすり。


自然の恩恵を感じる生活

近藤邸は、外断熱仕様のRC造(鉄筋コンクリート造)。近藤さんは建築家として、「外断熱が地下2階、地上2階建ての4層のコンクリート造において、どのように影響するか、メリット、デメリットを体感したかった」と話され、自宅は実験の場でもあったという。そのため、窓は夏や冬の太陽高度に基づき配置し、建物全体に風が抜けるようにワンルーム的空間にするなど、通気や地熱の効果を最大限に発揮できるような造りを目指した。

住み始めて最初の1年間は、温湿度計でデータを取っていたそう。夏の時期は、地下の温度が地上に比べて10度も低かったというから驚く。

「季節や時間によって気持ちいい空間が異なります。なるべく空調設備に頼らず、そのときどきの心地よい空間に自分たちが移動するという住まい方をしたかったんです」と近藤さん。

寒い時期はさんさんと陽射しが入る地上空間で過ごし、暑い夏場は、ひんやりとして湿度の低い地下空間で過ごすなど、自然の恩恵をたっぷりと感じながらの生活が心地いいと話す。エアコンが苦手という奥さまも、自然なあたたかさ、涼しさのなかで、「風邪をひかなくなりました」と微笑んでいた。


地下1階の寝室。地下は1年を通じて気温が安定しているため、いつも快眠。南北の壁は全てクローゼット。
地下1階の寝室。地下は1年を通じて気温が安定しているため、いつも快眠。南北の壁は全てクローゼット。
寝室の奥から地下2階を見下ろす。
寝室の奥から地下2階を見下ろす。
2階のバスルーム。ガラス貼りだが、近隣の視線を気にせず入浴でき、湯船につかって空を眺められる。
2階のバスルーム。ガラス貼りだが、近隣の視線を気にせず入浴でき、湯船につかって空を眺められる。


陽射したっぷりの2階のサニタリールーム。窓を開ければ風が抜けて涼しい。奥は、1階からの吹き抜けになっている。
陽射したっぷりの2階のサニタリールーム。窓を開ければ風が抜けて涼しい。奥は、1階からの吹き抜けになっている。

大勢集まってもゆったり

「ホームパーティーをよく開く」というご夫妻。多い時には20名近くが集うそう。みんなで作業ができるよう、造作のキッチンは間口4.3mを確保した。「切り場の右側にシンク、上に水切りカゴ、コンロや食洗器の位置はココ……と自分で図面を描いてお願いしました」と細かく指示を出した奥さま。手持ちの食器や鍋の量を把握していたため、引き出しの有効高さをギリギリまで上げてもらい、全部収まるように設定してもらったという。

また、たくさんのゲストをゆったりと待ち受けるのが150×180cmの大型のテーブル。大皿料理やドリンク類を思う存分並べられるサイズだそう。「知り合いの家具屋に相談して造ってもらったんです。チェリーが余っているというので、造作キッチンのタモ材に合わせて少し染色してもらいました」(近藤さん)
ビッグサイズだが2つに分かれているため可動性があり、人数や用途によって縦に並べたり、壁に付けたりして使用。使い勝手がよくご夫妻も大満足のようだ。

高い吹き抜けのリビングダイニングは、大勢のゲストを招いても、圧迫感なくくつろげる。この心地のよい空間と自然体でさわやかなご夫妻のもとに人が集まってくるのも頷ける。狭小を武器にしたアイディア満載の空間で、ご夫妻らしい住まい方を愉しまれていた。


限られたスペースを最大限に活かすため、壁につけた造作キッチン。作業台ではご主人がピザ作りを披露することも。
限られたスペースを最大限に活かすため、壁につけた造作キッチン。作業台ではご主人がピザ作りを披露することも。
水切りカゴを表に出したくないと、シンクの上にスペースを確保。
水切りカゴを表に出したくないと、シンクの上にスペースを確保。
「子どもが生まれる前はよくお酒を飲んでいました」という奥さま。お猪口や小皿がきれいに収納されていた。
「子どもが生まれる前はよくお酒を飲んでいました」という奥さま。お猪口や小皿がきれいに収納されていた。


大型のテーブルは2人で新聞を広げても余裕の大きさ。自宅で仕事をすることも多い奥さまの作業スペースでもある。
大型のテーブルは2人で新聞を広げても余裕の大きさ。自宅で仕事をすることも多い奥さまの作業スペースでもある。

近藤邸
設計 一級建築士事務所 アトリエソルト株式会社
所在地 東京都杉並区
構造 RC造
規模 地上2階、地下2階
延床面積 78.11m2