Architecture
眼下に公園を望む家ミリ単位にまで
シビアにこだわって建てる
公園が見える敷地
昔、貝塚であったという公園を眼下におさめるA邸。緑広がる眺めは見ているだけで家の中にも涼風が吹き渡るよう。
一家は近くのマンションに住んでいたが、以前から公園が見える立地にこだわっていたという夫妻。売りには出ないだろうと思っていたこの敷地が「奇跡的に」売りに出されたことを知るや、その瞬間に即、購入を決めたという。
しかし、都心の好立地。好条件の揃った敷地は希少である。この崖上の敷地は旗竿敷地で、正面側はエントランスの2.5m幅の道以外は前の敷地によってふさがれていた。
取材時にはそのLEVEL Architectsの中村さんと出原さんに同席いただいたが、設計時のフランクな物言いそのままの気兼ねない雰囲気のもと話をうかがっていった。
1センチ単位で考える建築
Aさんはデザインプロセスやデザインの手法、表現をテーマとした研究とともに、プロダクトデザインおよびデザインコンサルティングを行っている。建築設計にもいろいろと意見はもたれているが、口を出すと建築家がやりにくいだろうと、建築のフレームの部分を決める際にはリクエストは少な目に押さえたという。
しかし、「1センチ単位で考える建築をやってみたかった」と話すAさん。「車の内装のスケール感を考えると、センチというかミリで考えるから、それに近い考え方が何とか使えないかなと思って」と自宅の設計に臨んだそう。そのため、「大枠が決まってからの細かい打合せが大変だった」と中村さんは話す。
打ち合わせは、AさんがPinterest上に集めた写真(その数600枚以上という)が発端となることが多かったそう。しかし、Aさんは「この写真のようにしてほしい」ではなく、「これはなぜこうなっているのだろう」「なんか、これいいよね」といった具合にボールを投げてきたという。そして、この問いかけに建築家は、「なんででしょうね」あるいは「でも、こうしたほうがいいんじゃないですか」と応じる。
こうした問答が、Aさんのさらなる問いかけを生み、また「あ、そうね、それ面白い」というような返答から、さらに続いていったのだという……。
最後の詰めはシビア
このやり取りは面白かったと中村さんはいうが、施主の多くがある程度家の大枠が決まってしまえばあとは建築家にお任せというケースがほとんどなのに対して、A邸ではそれからの作業は本当に困難の連続だったようだ。
中でも決まるまでが大変だったのが2階の壁の色だったという。2階のLDKでは、住宅レベルでは珍しいほどの数の色が使われている。全体としてそれがおかしくならないように、30分の1の模型をつくり、色の付いた紙を切り貼りして検討を重ねた。「こうすると落ち着くのでは」などとお互いに言い合いながらとてもシビアに決めていったという。
さらに、2階にはLDKのほかに水回りもあるため、ソファやダイニングテーブル、椅子を入れながらリビングとダイニングにそれぞれどれだけのスペースを取っていくかも悩みどころだったという。「規模の小さめの住宅ではセンチよりもミリ単位で詰めていかないと成り立たないので、そのスペースで出来るギリギリの範囲で見つけていくという部分でかなり悩みましたね」と中村さん。
いちばんのお気に入りスペースは…
1階のワークスペースにも2階と同様、大きな開口が設けられていて公園の緑が堪能できるが、Aさんのこの家でのお気に入りは、意外や2階と3階の間の階段という。
「朝起きて階段を下りて来るときに、幸せを感じるんですね。リビングの上の部分が見えるんですが、あそこがとても複雑な感じにできていて、しかも光をバックに受けながら下りてくる。ああ、すごいなあと思って、毎朝幸せです」
そのキッチンだが、ダイニング側はバーにあるようなカウンターが設えてある。うかがうと、やはりそのようなイメージがあったという。「ここに立って飲む、飲もうみたいな話、最初からありましたね」と中村さん。
ちょうど取材が終わりに近づいたこの話のあたりで、それまで夫妻が入れ替わりでキッチンに立って支度をされていた食事が、ワインとともに目の前に運ばれてきた。和気藹々と楽しく進んだ取材は、そのまま今度はワインを交えた食事会へと移行。気兼ねない会話に楽しく参加させていただいた。
設計 LEVEL Architects
所在地 東京都目黒区
構造 木造HS構法
規模 地上3階
延床面積 110.61m2