Architecture

ラワンベニヤの風合いが活きる風と光が通り抜ける
外に向けて開かれた家

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清涼な水が流れる水路、澄んだ空気。穏やかな郊外の住宅街に6年前、金野邸は建てられた。「それまではアパート暮らしだったのですが、子供が生まれることもあり家を購入することを考えました」。

家主は女子大で中国政治を教える金野純さん。それまで住まいについて、深く考えたことはなかった。「色々と見たのですが気に入る物件がなくて。たまたま通りがかりでテラバヤシ・セッケイ・ジムショを見つけて、ああ、こういうところに頼む手もあるのかと」。

金野さんの希望は“蚊取り線香の似合う家”。どの部屋からも外に出られること、内と外の境が曖昧であることだった。「外から中を守るための、城のような家は嫌でしたね。出たり入ったりが自由にできる家、すべての部屋に窓があり光が入る家にしたいと思いました」。


アウトドアリビングとして大いに活用しているテラス。拭き掃除をまめに行い、室内から素足のまま出て行き来している。
アウトドアリビングとして大いに活用しているテラス。拭き掃除をまめに行い、室内から素足のまま出て行き来している。
テラスはスギ材、室内の床はナラ材で。窓が多く、表の通りまで光が抜ける。
テラスはスギ材、室内の床はナラ材で。窓が多く、表の通りまで光が抜ける。

経年変化の味わいを楽しむ

1階のリビングは、大きな開口部の向こうに広いウッドデッキがフラットにつながる。「夏はほとんど開けっ放しです。テーブルを出して食事をしたり、子供たちが遊んだりしていますね」。

設計した寺林省二さんによると、「南側に隣家があるので、なるべく家を北に寄せるように庭を広めにとりました。真四角なリビングダイニングではなく、テラスの部分を凹ませることで、目隠しになる空間も設けました。ご主人も家で過ごす時間が長いので、快適に暮らしてもらえることを考えましたね」。

壁や天井は合板をむき出しに。「寺林さんからシナベニヤという提案もしてもらったのですが、ラワンベニヤの時間とともに変わっていく風合いが、味があって好きなんです。色もばらばらなのですがあえてそのままにしています」。寺林さんは吉村順三の薫陶を受けている。外に開かれた味わいのある家を好む金野さんとの出会いは、偶然ではなく何かの接点があったように思えてくる。


東西につながる2階のテラス。中央は寝室の広縁部分。その奥に書斎のテラスがある。
東西につながる2階のテラス。中央は寝室の広縁部分。その奥に書斎のテラスがある。
寝室は日中、子供たちの遊び場にもなる。テレビはなく、この部屋で大型スクリーンを広げて映画を観る。
寝室は日中、子供たちの遊び場にもなる。テレビはなく、この部屋で大型スクリーンを広げて映画を観る。
折りたたみ式の椅子を持って、書斎からテラスに出て気分転換。日常の光景。
折りたたみ式の椅子を持って、書斎からテラスに出て気分転換。日常の光景。
温泉旅館風の広縁コーナー。テーブルは知り合いの家具職人、真吉さんに作ってもらった。
温泉旅館風の広縁コーナー。テーブルは知り合いの家具職人、真吉さんに作ってもらった。


広縁を設けて温泉テイストに

金野さんがもうひとつこだわったのは、“旅館テイスト”があること。広縁はぜひ欲しいと思っていた。「実家が岩手の温泉街で、親しみがあったんです。2階の寝室はそのイメージです」。

仕切りを設けると狭くなるので、友人の家具職人に作ってもらったTV台を境い目辺りに置き、椅子とテーブルをセットした。寝室を挟む両側の部屋にもテラスがあり、広縁とガラス戸で区切られている。

「2階にもテラスは欲しいと思っていました。書斎では、仕事の合間に折りたたみ式の椅子を持って出ていって休憩しています」。

自宅で論文を書くことが多い金野さん。溢れるばかりの本を収めるため、廊下など色々な場所に収納棚を取り付けた。「ちょっとしたラックとか、ものを吊るすためのフックなどはDIYで取り付けました。後から色々と手を加えられるのも、板張りのいいところですね」。


2階の奥は、現在は金野さんの寝室と子供たちの勉強机が置かれたスペース。各部屋は緩やかにつながり、1台のエアコン、1台のストーブで夏も冬も快適に過ごせるという。
2階の奥は、現在は金野さんの寝室と子供たちの勉強机が置かれたスペース。各部屋は緩やかにつながり、1台のエアコン、1台のストーブで夏も冬も快適に過ごせるという。
ラワンベニヤの素朴でシンプルな空間。壁を取り払って、2階全体をひとつの大空間にすることも可能。
ラワンベニヤの素朴でシンプルな空間。壁を取り払って、2階全体をひとつの大空間にすることも可能。
寝室の本棚。シンプルなアアルトのスツールが似合う。両サイドは向こう側の部屋の収納に。
寝室の本棚。シンプルなアアルトのスツールが似合う。両サイドは向こう側の部屋の収納に。


家を建てることになって、色々と調べていくうち、建築やインテリアにも興味を持つようになったという金野さん。「特に惹かれるのはコルビジェですね。1階のピアノの上には、コルビジェが母親のために作った動くライトをイメージして、照明を作ってもらいました」。

DIYで取り付けたフックは、シェーカースタイルのペグからヒントを得たもの。「ものを下に置かなくてよいのですっきりするし、掃除もしやすくて合理的。家のあちこちに取り入れています。簡素を良しとするシェーカーの考え方が好きなんです」。リビングにはボーエモーエンセンのシェーカーチェアを。テーブルもそれに合わせてシェーカー風に作ってもらった。


奥がコルビジェの動くライトを真似たもの。手前はヤコブセンのペンダントライト。
奥がコルビジェの動くライトを真似たもの。手前はヤコブセンのペンダントライト。
シェーカースタイルのペグを活用。広松木工のワークショップで作った椅子もハンギング。
シェーカースタイルのペグを活用。広松木工のワークショップで作った椅子もハンギング。


アジアの各地で購入したレプリカを真吉さん作成の額に入れたものが、家のあちこちを飾る。
アジアの各地で購入したレプリカを真吉さん作成の額に入れたものが、家のあちこちを飾る。
マカオで購入したタイルを玄関に。
マカオで購入したタイルを玄関に。
 
匙屋で作ってもらったペンダントライト。
匙屋で作ってもらったペンダントライト。


伸びやかな暮らしを見守る家

1階のキッチンは妻の多恵さんが子供たちを見守りやすいようにと、オープンにすることを寺林さんが考えた。長男・悠くん(7歳)、次男・紘くん(3歳)は、光が通り抜ける家の中を自由に駆け回る。

「上の子は特に外遊びが好きで、近くの水路に行ってザリガニを釣ったり、カワエビをとったり。近所の人など必ず誰かがいて見ていてくれるので、安心できますね」。外構のフェンスには隣家の梅を見るために設けた椅子スペースも。ここに近所の人が腰かけて休憩をとることもあるのだという。そんなのどかな日常の様子が、開放感と味わいのある家から偲ばれる。

「昨年1年間は研究のため韓国と香港にいて家を空けていたんです。帰ってきたら庭が立ち枯れていて…。落葉樹が好きで葉が落ちているせいもありますが」。今はこの庭の復活がいちばんのテーマなのだとか。緑が芽吹いてくる春が待ち遠しい。


日が差すときは冬も温かい。トネリコの木などの復活を待ちわびる。
日が差すときは冬も温かい。トネリコの木などの復活を待ちわびる。

金野邸
設計 寺林省二
所在地 日野市
構造 木造
規模 地上2階建て
延床面積 104.10m2