Architecture
クッキーショップのある家近隣の人たちとつながり
コミュニティの輪を広げる
その真下の、こちらもまた壁面に大きく開いた開口部分がM邸の玄関だ。ガラスの窓を通してクッキーやケーキがガラスケースの中とその上とに並ぶ様子を見て取ることができる。
近所の人たちとつながる
このM邸1階の部分はクッキーショップのスペースになっていて、奥さんがクッキーづくりと販売を手がけている。YOTSUHAという名前のこのお店は素材の良さを生かしたお菓子づくりが特徴で、販売するお菓子は20種類以上に及び、ネットでの販売も行っているが、奥さんは当初このスペースで本格的に商売を始めようという思いはなかったという。
「もうけ主義ではないので自分たちが食べるものとしてつくったものをお店に出すというような感じに近かったですね。ご近所のお母さんたちとか子どもの友だちとかが買いに来てくれるかな、ぐらいにしか考えてなかったんです」
イメージしたのは「今ちょっと時間があるなと思った方がクッキーを買いがてら様子を見に来てちょっとしゃべっていくような感じ」。今ではショップでのそうしたつながりからさらに発展して、半階上がったダイニングキッチンのスペースでワークショップも開く。何か得意な技術や知識などをもつお母さん方に先生役をしてもらうこともあるが、もちろん自身でもクッキーやケーキの作り方を教える。お母さん方だけでなく子どもたちも対象にした奥さんのワークショップの生徒さんの数は150人ほどにも上るという。
オープンで人が集まる家
近隣の人たちとつながってコミュニティみたいなものをつくれたらという奥さんの思いがここまで浸透してきたことと、この家の特徴あるつくりとは切り離して考えることはできないだろう。
M邸でまず特徴的なのは、それぞれの部屋を仕切る壁がまったくないこと。浴室などの水回りにも一切設けられていないという徹底ぶりだ。そして、部屋同士を半階ずつずらしたスキップスロアでつなげているのだが、どちらも狭い敷地でなるべくオープンで広く感じられるようにと建築家の坂野さんが考案したもの。
「これは思ったより広く見える効果があっていいですね。それと、見上げた時に目の錯覚で天井がドーム型に見えるんです」と奥さん。住宅では珍しい形状の多面体にさらにこのような仕掛けが施されたこの家には、通常では味わえない軽やかで楽しげな空気感も漂う。
広がる人の輪
このようにオープンで人が思わず集まりたくなるような楽しさもあわせ持ったM邸につくられた1階のショップには、取材中にも入れ替わり立ち替わりとお客さんが訪れ、それぞれちょっとした雑談を交わして帰って行く。
そのうちの一人に「今日うさぎのキャラ弁つくった」と奥さんに伝えるお客さんがいた。お子さんと一緒に訪れたその女性はM邸で最近行ったキャラクター弁当の講座に来られた方という。そのお子さんに奥さんが「食べた?」「美味しかった?」とたずねる。
さらに、お客さんにキャラクター弁当を撮ったスマホの写真を見せてもらい「ああ、カワイイ!」と応じる奥さん。「これで大丈夫?」「うん、大丈夫」ーーこんな会話が自然に続いていく。
設計 フラットハウス
所在地 東京都世田谷区
構造 木造
規模 地上2階地下1階
延床面積 79m2