Architecture
広大な敷地におおらかに建つ切妻の大屋根が生み出す
陰影と包容力が心地よい平屋
野原に建つ切妻屋根の家
広大な敷地の一角に建つ、大きな切妻屋根に包まれた平屋。この家で暮らすのは、IT関係の仕事をしているご主人と建築に興味のある奥さま、新体操に夢中で元気いっぱいの娘さん(6歳)のNさん一家。都内のマンションから自然豊かなこの地に移り住み、2年半ほどが経つ。
「親戚から譲り受けた農地の一部を宅地に転用して家を建てました。広く恵まれた敷地なので、平屋にしておおらかに暮らしたいと思ったのです」(ご主人)。
設計を依頼したのは、奥さまが以前から心引かれていたという『imajo design』の今城敏明さんと由紀子さん。
「建築物が好きで、子どもの頃から住宅関係のテレビ番組をよく観ていました。5、6年前に観た今城さん夫妻が手掛けた、丘の上に建つ家が忘れられなくて。家を建てることになり、すぐにコンタクトを取りました。オープンハウスを2軒見せていただき、陰影がきいた落ち着いた雰囲気がやはり素敵だなと思って。ほかの設計事務所は考えられなかったですね」(奥さま)。
絶大なる信頼を寄せていたため、建築家へのリクエストは、「平屋」「切妻屋根」「広いリビング」「個室は3つ」くらいで、あとはお任せだったと話す。
垂木の美しい陰影に包まれる
数段上がった玄関を入り、天井の高さを抑えた土間を抜けると、高く吹き抜けた広々としたLDKが現れる。最も高いところで4.8m。切妻屋根の形状をそのまま感じられる天井には、30cmピッチで垂木が並び、陰影に富んだ繊細なデザインが目に飛び込んでくる。
「シンプルな外観と内部のイメージが異なるようで、皆さん驚かれますね。住み始めて2年以上経った今も新鮮で、いつも素敵だなぁと思います(笑)」
と、目をきらきら輝かせて話す奥さま。
大きな屋根に包み込まれるような感覚と開きすぎていない開口が、心地よい安心感と静謐な空気をもたらしている。
景色を切り取る窓
「おおらかな風景やその場所の持つ空気感を暮らしに取り込むと同時に、恵まれたロケーションならではのダイレクトに受ける自然の猛威から室内を守ることも考えました」とは設計を担当した今城敏明さん。
シンプルな切妻屋根は水切れが良いという利点があり、また軒を出すことで強すぎる陽射しをカットする。大きな掃き出し窓はあえて設けず、床レベルを上げて地面から距離を取ることで、砂埃や虫の侵入、湿気などを防いでいる。
FIX窓や通風窓は、四季折々の美しい景色と室内の居場所とが呼応するように配置を工夫した。リビングのコーナー窓の前に鎮座したニーチェアは、景色を楽しむ特等席。
「ここに座って外を眺めると、ブランコで遊ぶ娘の姿も見えるし、遠くの樹々まで見渡せて気持ちいいです」(ご主人)。
自然豊かな地での楽しみ方
広い敷地を有するN邸。「庭を1周ウォーキングすると汗ばむくらいで。けっこういい運動になりますよ」と笑う奥さま。
「引っ越してきて1年後くらいにコロナ禍になり、一時期は幼稚園も休みになりました。そんなときに娘が外でのびのび遊べるスペースがあってよかったなと思いますね」(奥さま)。
暮らし始めて3年目。この土地での暮らし方がわかってきたと話す。
「春から秋にかけては、4,5回トラクターで草を刈ります。最初は大変でしたが、いまでは季節ごとにどのように動けばいいかわかってきて、楽しめるようになりました」(ご主人)。
庭の一部には、食卓にも登場するブルーベリーやオリーブなどが植えられ、ご主人がDIYしたブランコやバーベキューをするためのブロックも置かれている。夏にはテラスにタープを張り、プールやバーベキューを楽しんでいるという。
「まずは家の前に芝生を敷いて。そのあと小さな菜園にも挑戦したいですね。いずれはヤギを飼って草を食べてもらって。家で食べる野菜や果物をまかなえるくらいになったらいいなと思っています」(奥さま)。
自然と共存する暮らしの中で、Nさんたちらしい家へと育てていかれることだろう。
N邸
設計 imajo design
所在地 埼玉県上尾市
構造 木造
規模 地上1階
延床面積 113.8㎡