Architecture
ずらしてつくった快適空間光と風が通る
“窓のない家”
長い間JALでキャビンアテンダント(CA)の仕事にたずさわり海外での生活も長かった奥さんは、敷地は狭いが海外で体験したような快適な空間をつくりたいと思ったという。中でもタイのリゾート巡りで体験した快適さに近づけたかった。そこで感じた光と風の気持ちの良さが目標だったという。
建築家の富永さんは、建物に囲まれて暗く地面にほとんど陽が入らない状況に加え、さらに庭もつくってほしいというリクエストもあり、どうするかかなり悩んだという。
建物のボリュームを水平にずらす
そこで出てきたのが建物のボリュームをスライスしてずらすというアイデアで、ずれたところから光と風を入れるようと考えたという。垂直方向と水平方向とずらす方向を両方シミュレーションした結果、水平にずらした方が圧倒的に内部の空間性が良かったことからその方向で進めることになった。
こうして光と風に関しては目途がついたが、元々デザインが好きで建築にも関心が高く、この家でも簡単な図面を描き現場での週1の打ち合わせにも出席したという奥さんは、さらに、この建築のつくりに大きくかかわるこだわりを富永さんにぶつけたという。
余白をつくる
「余白のような部分を残してほしいとお願いしたんですね。視線が抜けるようにバルコニーもほしい。居住空間は少なくなってもよいので、そういう遊びの部分だけは削らないでくださいと」。さらにまた、プラニング上でも重要なポイントとなったリクエストがあった。「もう1点お願いしたのは、すぐ旅行に行けるように、スーツケースがすぐ取り出せるラインにしてほしいということです」。
ひとつめのリクエストに対しては、バルコニーを2、3階のそれぞれ端部につくった。1階奥に小さいながらも中庭があり、建物ボリュームがずれた部分でも上へと視線が抜けるため視線の抜けはこれで十分確保された。
整理された動線
2つめに対しては1階の中心部分にスーツケースも収納できるウォークインクローゼットをつくった。全体スペースがコンパクトなため、他階でもなるべく全体のボリュームの中心にウォークインを設けてその周りに生活空間と動線を配するようにした。そのために2階寝室は奥へと細長い空間になっているが、長さがあるため横幅が少ない割に広さの感じられる空間になった。
動線に関しては建築家と綿密な打ち合わせを重ねたが、これにはCAとしての経験が大きく反映しているようだ。「飛行機はよく出来ていて、あるべきところにものがあって短時間で作業ができる。これは動線がよく整理されてつくられているからなんですね。この家も動線をどうするかについては、富永さんに自分の癖のようなものを見抜いてもらって、かなり考えていただきました」
室内は白の部分が多いため色によるストレスもなければ、隣接した家々も室内からは見えないため気にならない。開口を通しては代わりにお気に入りのグリーンを目にすることができる。光も風もタイで体験したものとは異なるだろうが、こだわり尽くしてつくり上げたこの家の快適さに、奥さんはとても満足しているようであった。
設計 富永哲史建築設計室
所在地 東京都文京区
構造 RC造+木造
規模 3階建て
延床面積 110.68m2