Architecture

旗竿敷地とは思えぬ快適生活戸外にいるような開放感で
一日中でも過ごせるLDK 空間

旗竿敷地とは思えぬ快適生活  戸外にでもいるような開放感で 一日中でも過ごせるLDK空間
世田谷区の大井町線沿線の敷地に家を建てた松木さん。中古をリノベーションして住むことを考えていた時期もあったという。「倉庫ぐらい広い空間のある建物を探したりしていました。そのほうがリノベーションしやすく、つくりも変えていきやすいだろうと思って」

リノベーションを考えていたのには、まずコストの問題があった。都心の、できる限り会社から近い場所に住むのが希望だったが、そうすると自然と土地代が高くなる。その時にリノベーションのほうがコスト効率がいいだろうと考えていたという。

また、以前に見て回った時に新築にあまりいいイメージを持てなかったということもあった。「建売りのイメージが強くあって、都心の狭い土地だと3階建てで1階が駐車場というつくりをよく見かけますが、まさにそういうところを見せられて都内の新築だとこんなものなんだなと思っていたんですね」


1 階のLDK 空間。右の大きめの扉の向こうが玄関で、その上の大きな穴は空調のためのもの。気積が大きい空間のため業務用の空調器を使用しているという。
1 階のLDK 空間。右の大きめの扉の向こうが玄関で、その上の大きな穴は空調のためのもの。気積が大きい空間のため業務用の空調器を使用しているという。

リノベーションから新築へ

しかし、リノベーション用の物件を探しても思うようなものがなかなか見つからなかった。そして、しばらく見て回ってあきらめかけていた時に、不動産屋の人が、土地の価格が平均より低いところであれば、新築でもコスト的にはリノベーションとそんなにかわらないんじゃないかとアドバイスをしてくれたという。

「予算的なことをもうちょっとうまく考えていけば、いい家を建てられるんじゃないのって言ってくれて」。奥さんも「リノベーションの場合、耐久年数の問題もありますけど、建物をケアしていくお金もかさむという話を聞いたんです」と話す。


住宅らしからぬ気積をもつ1階のLDK空間に大きな開口が開いている。閉塞感がないから、ここで一日中でも過ごせるという。
住宅らしからぬ気積をもつ1階のLDK空間に大きな開口が開いている。閉塞感がないから、ここで一日中でも過ごせるという。
キッチン脇に開けられた大きめの開口からは外に植えられた月桂樹やジューンベリー、ローズマリーなどが見える。
キッチン脇に開けられた大きめの開口からは外に植えられた月桂樹やジューンベリー、ローズマリーなどが見える。
キッチンの壁に開けられた小窓からも緑が見える。
キッチンの壁に開けられた小窓からも緑が見える。


旗竿敷地に建てる

設計を依頼した建築家の小長谷さんも、同じ不動産屋の人から紹介されて知り合ったという。そして、候補となる土地を見てもらったが、そこは以前に見て「これはないな…」と思って断ったところだった。だが、建築家の判断は「可能性のある土地」というものだった。

「旗竿敷地に古い家が建っていたんですが、すごく暗い雰囲気で、周りも草ぼうぼうでじめじめしていて、素人にはここでどこまでのクオリティのものが建ち上がるのか全然分からなかったんですね」。小長谷さんにさっそくつくってもらった案も気にいり、これならと購入を決めたという。


2階から見下ろす。少しずつスキップしている階段の踊り場のコーナーにはしゃれた照明の仕掛けが。
2階から見下ろす。少しずつスキップしている階段の踊り場のコーナーにはしゃれた照明の仕掛けが。
階段の途中につくられたデスクでは、上のお嬢さんがお絵描きなどするという。
階段の途中につくられたデスクでは、上のお嬢さんがお絵描きなどするという。
この照明をデザインしたのは、建築家の妻で、照明デザイナーの内藤真理子さん。蚤の市で入手した瓶が使われている。
この照明をデザインしたのは、建築家の妻で、照明デザイナーの内藤真理子さん。蚤の市で入手した瓶が使われている。
白が基調のリビングから扉を開けてトイレに入るとそこは別世界。
白が基調のリビングから扉を開けてトイレに入るとそこは別世界。


広くて陽当たりのいい空間にしたい

建築家には、倉庫みたいにどんと広い空間がほしいというリクエストとともに、陽当たりについても希望を伝えた。「妻が陽当たりを気にしていたので、広々とした空間でかつ陽当たりのいい感じにしてほしいというリクエストを出させてもらいました」

そしてこんなリクエストもした。「休みの日には出かけなくても家で一日ゆっくりできるような、外と繋がってるような空間にしたかったんですね。緑と一体になった外の景色が、どちらから見ても見えるというふうな感じにして」

デザインや素材などでの細かいことに関してはあまり具体的なイメージがわかなかったので、小長谷さんのデザインテイストが気に入っていたこともあり、ほぼお任せする感じだったという。


2階の寝室で。天井が斜めになっているのは北側斜線のため。
2階の寝室で。天井が斜めになっているのは北側斜線のため。

少し遊びも入れて

「細かいことはイメージがわかなかった」というが、例外もあった。たとえば、リビングの色使い。「わりとシンプルで自然な感じが二人の好みなので、ベースの白色の中にポイントでブラウンを入れてもらいました。外のグリーンと壁の白と扉のブラウンの3色でいきたいというイメージはありました」と奥さん。

あくまでもシンプルでいきたかったが、どこかに少し遊びを入れたいとも考えたという。この家のトイレはリビングに接してつくられ、扉ひとつ開けただけでトイレ空間になるため雰囲気をがらりと変えたかったという。扉を開けると、ブルー系に塗られた室内で草木の中で遊ぶウサギやリスたちが迎えてくれる。扉も大きめの空間に通常よりも小さめのものを取りつけたのは、おとぎ話の世界に入るようなワクワク感を演出したかったからだという。


建物を敷地の真ん中に配置したため、周囲は子どもたちが走り回れるほどのスペースができている。
建物を敷地の真ん中に配置したため、周囲は子どもたちが走り回れるほどのスペースができている。
リビングの外にも開口を通して緑が見えるようにパールアカシアなどが置かれている。
リビングの外にも開口を通して緑が見えるようにパールアカシアなどが置かれている。


1階のリビングには天井からブランコが吊るされている。これは、ふつうなら外でしかできないことが家の中でできたら楽しいと考えたのと、中で子どもたちが遊べるものがあればと思い設置したものだ。

しかし想定外の使われ方もしているようだ。奥さんは1階のLDKが気持ち良く、ダイニングテーブルに座って子どもたちが遊んでいるのを見たり、窓の外を雲が流れていくのを見ていたりしている時間が特に好きというが、夜、少しお酒をいただいてからブランコに座りぼんやりと考えごとをするひと時も大切にしているという。住宅とは思えいない開放的な大空間だからこそ味わえる贅沢なくつろぎの時間ーーそのように感じられた。


白い壁に茶色の扉が際立つ。ふつうよりも大きめの扉と小さめにつくられた扉の対比も面白い。
白い壁に茶色の扉が際立つ。ふつうよりも大きめの扉と小さめにつくられた扉の対比も面白い。
旗竿敷地に立つ松木邸。
旗竿敷地に立つ松木邸。
松木邸
設計  小長谷亘 建築設計事務所
所在地 東京都世田谷区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 101.88m2