Architecture

扉も壁もなく開放感あふれる空間妥協せずにつくり上げた
“未完の”住まい

扉も壁もなく、開放感あふれる空間  妥協せずにつくり上げた “未完の”住まい

とんでもない開放感

「こんなに無いとは思わなかったですね」。「無い」というのは戸田邸の扉や壁のこと。家づくりに際して、戸田由美子さんには「とにかく広い空間で気持ちよく広々と暮らしたい」という強い希望があった。そのために、壁や扉をできるだけ無くしたかったが、建築家の山﨑さんがトイレ以外はリビングに面した壁も扉もすべて取り払ってしまったのには驚いたという。

「こんな家の形もみたことないし、いくら扉や壁が無いと言ってもここまで無くて住めるのだろうかとも思いました」。希望をしたとはいえ、「とんでもない」ほどの開放感のある家を提案してもらった、と思ったという。


キッチン近くから玄関方向を見る。リビング側には各部屋、壁と扉が無い上に天井まで5mあり、面積以上の広さ、開放感が味わえる。
キッチン近くから玄関方向を見る。リビング側には各部屋、壁と扉が無い上に天井まで5mあり、面積以上の広さ、開放感が味わえる。
角度を振ってリビング周囲の4つの“箱”が配置されているので、頭の向きを変えただけでも空間の印象が変化する。
角度を振ってリビング周囲の4つの“箱”が配置されているので、頭の向きを変えただけでも空間の印象が変化する。
寝室前から見る。1階が由美子さんのミシンの作業台がある部屋で、2階が健二さんの衣装部屋。
寝室前から見る。1階が由美子さんのミシンの作業台がある部屋で、2階が健二さんの衣装部屋。


夫の健二さんは由美子さんからのリクエストはかなり激しかったと振り返る。由美子さん自身も、山﨑さんが作成した案に対して「まだ狭いのでもうちょっとここを広くしてほしいとか」、そういうことをしきりに伝えていたと言う。

計画は長期にわたったが、それは度重なるリクエストだけでなく、途中で敷地自体が変わったり、お子さんが出来たりと、設計の前提条件が変わったということもあった。
「初めの頃は、まったく子どものことも考えていなくて、もしかしたら生まれるかもしれないから少しスペースがあったらいい」ぐらいに思っていたのが、妊娠。「また練り直しをお願いします、みたいな感じになったんです」と笑う。


1階の右側奥が水回りで左が寝室。寝室がリビングに接しているが、この配置は、健二さんが疲れて帰宅して先に寝てしまった場合でも、「何となくいっしょにいる空気感」が感じられていいという。
1階の右側奥が水回りで左が寝室。寝室がリビングに接しているが、この配置は、健二さんが疲れて帰宅して先に寝てしまった場合でも、「何となくいっしょにいる空気感」が感じられていいという。
この部分の壁には外壁と同じ素材が使われて、外階段のような趣きも。
この部分の壁には外壁と同じ素材が使われて、外階段のような趣きも。
水回りの上の、趣味の共有部屋から見下ろす。
水回りの上の、趣味の共有部屋から見下ろす。


趣味の共有部屋。お子さんと由美子さんの服、そして、イームズの椅子や楽器などのお気に入りのモノが何気なく置かれているのがオシャレ。
趣味の共有部屋。お子さんと由美子さんの服、そして、イームズの椅子や楽器などのお気に入りのモノが何気なく置かれているのがオシャレ。

リビングを大きく取るための工夫

「骨格だけはすごくつくるのに苦労しましたが、できてしまうとどんなものでも飲みこめるようなものになった」(山﨑さん)という計画は、ふつうであればキッチンや寝室、作業部屋などは部屋として仕切るところを、リビングを真ん中に据えた上で、リビング側に壁をつくらず開放した。

大きさも、ふつうなら、作業部屋で6畳、寝室で6~8畳程度取るところをその半分以下に収め、作業部屋は1畳半、寝室は3畳という大きさに。そのかわりリビングがその半分の役割を担うというつくりで、そうすることで、各部屋を仕切ってしまうよりもリビングを20m2くらい大きく取ることができたという。


寝室上の子ども部屋に飾られたお子さんの写真など。
寝室上の子ども部屋に飾られたお子さんの写真など。
子ども部屋に立てかけられた縦に連なるピクチャーフレーム。
子ども部屋に立てかけられた縦に連なるピクチャーフレーム。


寝室上の子ども部屋から見る。キッチンの上は由美子さんの部屋。
寝室上の子ども部屋から見る。キッチンの上は由美子さんの部屋。

このようなつくりにすることにより、「いつも家族いっしょにいたいという要望に応えることができたけれど、娘さんが大きくなり、もし自分の部屋がほしいと言ったらその意思は尊重したい。そうしたことを考えると、すべてを決め切らない方がよいということを計画の中で気づいていったんです。それがこの計画ではとても大きなことでした」と山﨑さんは言う。 
そしてさらに、「このお2人は楽しく暮らしていくことにいつも前向きな姿勢なんです。僕はこの住宅を“未完の住まい”と名づけたんですが、それにぴったりな夫婦だなあと、そして未完のままのほうがきっとこのお2人は楽しく暮らしていくんだろうなとも思いました」。


キッチン上の由美子さんの部屋から見下ろす。
キッチン上の由美子さんの部屋から見下ろす。

完成にならない家

山﨑さんの言葉に応えて「完成にならないんですね」とは由美子さん。「娘も成長するし、それに対してわたしたちも少しずつ変わっていくだろうから、その時その時でここはこうしたい、とか必ず出てくるんだと思います」

こう言う由美子さんには、実はすでに「こうしたい」と考えていることがあるのだという。それは、屋上とのこと。「頭のなかでは、どこに階段を付けようかなとか、どこから外に出ようかなとか、そういうことをずっと考えているんです」


2階に上がるとガラリと風景が変わる。そしてこの場所から、階段の向こう側にある子ども部屋に移ると見える風景がまたさらに劇的に変わる。
2階に上がるとガラリと風景が変わる。そしてこの場所から、階段の向こう側にある子ども部屋に移ると見える風景がまたさらに劇的に変わる。
階段を上ると、健二さんの衣装を収めた部屋に。右奥でカバーが掛けられているのは由美子さんのミシン。その横の立体裁断用のトルソがオブジェ作品のように見える。
階段を上ると、健二さんの衣装を収めた部屋に。右奥でカバーが掛けられているのは由美子さんのミシン。その横の立体裁断用のトルソがオブジェ作品のように見える。

健二さんが寝っころがってよく「うち、いいよなーっ」と呟くというソファ。
健二さんが寝っころがってよく「うち、いいよなーっ」と呟くというソファ。
健二さんの衣装部屋。きれいにディスプレイされているので見るのも楽しいという。
健二さんの衣装部屋。きれいにディスプレイされているので見るのも楽しいという。


この由美子さんの話に「野望だよね」と健二さん。由美子さんはそれに応えるように「いつかのお楽しみということで。ぜんぶ実現してしまうと楽しみがなくなってしまうから」と続ける。

完成しても家のこれからのことを話題にとても楽しそうなお2人。「この家族がどういうふうになっていくのか、本当に楽しみ」という山﨑さんの言葉に思わず相槌を打った。


戸田邸戸田邸

戸田邸
設計 山﨑健太郎デザイン ワークショップ
所在地 千葉県柏市
構造 木造
規模 2階建て
延床面積 107.63 m2